昔、読み書きそろばん 今は英語とコード読み書き - 日本経済新聞
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昔、読み書きそろばん 今は英語とコード読み書き

栄藤稔・NTTドコモ執行役員

「世界はソフトウエアでできている」という共通認識がシリコンバレーにある。日本の多くの経営者は、技術のひとつにすぎないと認識し、産業競争力の源泉にはなり得ないと考えている。

正月休み、友人のご子息に会った。電子デバイスが専門の大学3年生で、就職活動について相談があるとのことだった。彼が「どういうスキルを身につければ良いですか?」と問うので、思わず「君はコード書ける?」と尋ねた。「コードを書く」とは「ソフトウエアのプログラミングをする」という意味だ。残念ながら、彼の答えは「まだコードを書いたことがない」だった。私は「学生であるうちにコードが書けるようになりなさい」と励ました。

NPO「code.org」が主宰する、「アワー・オブ・コード」と呼ばれる世界的プログラミング教育推進運動がある。アワー・オブ・コードでは4歳の未就学児から小中学生を主な対象として、彼らにソフトウエアのプログラミング体験を提供している。

初心者でもコンピューターを操作できるという教材が用意されており、それが活動名「子供達にコードを書く1時間(アワー)の機会を与えよう」となっている。この活動はシリコンバレーで2013年に発足して1年あまりの間に、数千万人の児童・生徒を集める規模になった。

昨年12月8日はコンピューターサイエンス教育週間の初日にあたり、オバマ米大統領はホワイトハウスで子供達とアワー・オブ・コード体験を共有した。オバマ氏は「コードを書いた初の米大統領」と報道された。

NPOの活動目的は、全米の児童・生徒にコンピューターサイエンスの教育機会を与え、問題解決能力、論理的思考、創造性を育むことだ。早期のプログラミング教育は産業競争力の源泉となる人材の育成・確保に貢献するだろう。

多くの著名人と企業が参加しているのも特徴だ。自らコードを書いていた米マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏、米フェイスブック創業者のマーク・ザッカバーグ氏もその中にいる。彼らは次のように言う。「プログラミングは難しくない。専門家や天才である必要もない。ただ、偉大なプログラマーは自分のアイデアを即座に具現化し多くの人を熱狂させる力を持っている」

実際のソフトウエア開発では工程管理や試験、保守、顧客対応も必要だ。コードを書く=ソフトウエア開発ではないことを前置きした上で、コードを書くということが21世紀の教育として大事だという点を強調したい。

英語を習い、それを話せるようになったとき見える世界が異なる。世界を旅し異なる文化を経験し友人が増える。それと同じように、コードを書けるようになれば見える世界が理解できる。

シリコンバレーの起業家の多くは自らコードを書いている。だから早く安く自分の夢に近い試作ができる。当地ではコードが書けるデザイナーは「ユニコーン・デザイナー」と呼ばれ、垂涎(すいぜん)の的となっている。ユニコーンの含意は「至高! だけどめったにいない」だ。サービス全体を設計できるデザイナーがコードを書けば最強だ。

このユニコーンが他分野で増えたらどうなるか。もしコードが書ける税理士、新聞記者、弁護士、運転手、医者、農家が増えたらとてつもない産業課題が解決されるだろう。コードを書かないまでも、ソフトウエアを理解する人々が増えれば世界は変わる。

英語を話すようにコードを書くという技能は必須だ。江戸時代は読み書きそろばんだったが、今は英語とコードの読み書きである。なぜなら、世界はソフトウエアでできているからだ。

〔日経産業新聞2015年1月22日付〕

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