いずれ人体もネット接続? IoTが問う利用者倫理
伊佐山 元(WiL 共同創業者兼最高経営責任者)

2015/1/25 7:00
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今年のハイテク業界も、恒例の米国ラスベガスで1月6日から9日に開催された、世界最大の家電世界の祭典「コンシューマー・エレクトロニクス・ショー(CES)」で始動した。どこもかしこもテーマは「モノのインターネット(Internet of Things=IoT)」という、現在急激に拡大している現象だ。

IoTの波により、今やパソコンや携帯電話だけでなく、自動車、家の鍵、冷蔵庫、犬の首輪と、ありとあらゆるモノが小型の無線機を通じてインターネットにつながり、すべての「モノ」がスマートフォン(スマホ)で操作でき、その状況がデータとしていつでも管理できる世の中になっている。

弊社でも先日、ソニーと共同で、家の中でのIoTをテーマにした会社Qrio(キュリオ)を設立し、早速この大きな波の可能性を感じている。最初のテーマは、家の「鍵」を不要にすること。いまや誰もが持ち歩いている携帯電話を家の「鍵」と見立てれば、ネット経由でそれを一時的に貸与したり、入退室管理をしたりと、利便性は高まる。

地元シリコンバレーでは、IoTの先を行って、いまやIoE(Internet of Everything)、IoU(Internet of Us)だという起業家もいる。自分の歯ブラシから靴下、じきに人体そのものにもセンサーが埋め込まれ、「我々自身(Us)」までも、実はインターネットという壮大なネットワークの一部になるということだ。

確かに、ありとあらゆる「モノ」や「ヒト」のデータを取得することで、我々の生活は便利で豊かになるだろう。家や街中に張り巡らされたセンサーの活用で、防犯だけでなく老人介護や遠隔医療、省エネなど、いろいろな可能性は広がる。さらには個人が装着した機器や身にまとう衣類を通じて、個人の健康状態の管理から予定の管理、趣味趣向にあった活動の提案など夢のような生活を実現できるだろう。

いさやま・げん 1997年東大法卒、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。2003年から米大手VCのDCM本社パートナー。13年8月、ベンチャー支援組織のWiL(ウィル)を設立。

いさやま・げん 1997年東大法卒、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。2003年から米大手VCのDCM本社パートナー。13年8月、ベンチャー支援組織のWiL(ウィル)を設立。

他方、今回のCESの中心テーマのひとつがセキュリティーやプライバシーの問題だったように、IoTの爆発的な普及がこれらの問題に拍車をかける可能性がある。もはやプライバシーという言葉は死語かもしれないが、ネットワークにつながった個人の私的な情報や企業の機密情報が簡単に盗まれてしまうのであれば、この桃源郷も絵に描いた餅にすぎない。

技術が真に普及するためには、それをコントロールする手段も不可欠だ。多くのセキュリティー企業もIoT時代の到来を新しいビジネスチャンスと見て、前向きに投資している。その一方で、結局技術が普及すればするほど、今後ますますそれを利用する「人間」の規律や、倫理の教育が大切になる社会が到来しているとも言えよう。

最近、日本では時代に合った新しい教育のあり方の議論が活発だ。英語教育やプログラミング教育といったスキルやテクニックの取得もよいが、個人的にはそれ以上に、哲学や倫理、人間の理解といった人としての教養、人間力の強化も必須だと考えている。「With great power comes great responsibility(偉大なる力を持つということは、大きな責任を負うということだ)」

大きな可能性の広がる未来社会とそこで生活する子供達のためにも、今一度技術の限界の理解と、利用者としてのマナーを徹底したい。

[日経産業新聞2015年1月20日付]

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