2019年8月25日(日)

「ネット中立性規制を2月に導入」 米FCCウィラー委員長
ITジャーナリスト 小池 良次(Ryoji Koike)

2015/1/8 16:34
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昨年から、米国内での規制を巡ってブロードバンド業界と対立を続けている米連邦通信委員会(FCC)。国際家電見本市「コンシューマー・エレクトロニクス・ショー(CES)」を訪れたFCCのトム・ウィラー委員長は、懸案のネットワーク中立性に関する規制を2月にも導入する姿勢を示した。この発言は7日に実施したCESの主催者であるCEA(全米家電協会)のゲリー・シャピーロ事務局長との対談で飛び出したもので、新技術などの変化に合わせて制度を変えようとする柔軟な姿勢にこそ米国の強さの源泉があると語った。

トム・ウィラーFCC委員長(右)と対談するCEA事務局長のゲリー・シャピーロ氏(左)

■ブロードバンド規制導入へ秒読み

対談はネットワーク中立性問題から始まった。FCCは最近、ネットワーク中立性という言葉を嫌い、消費者保護を印象づける「オープンネットワーク規制」という言葉を使っている。

FCCは、日本の総務省に当たる独立政府機関で放送・通信行政をつかさどっている。過去、FCCはブロードバンド事業者に対して、アクセスやコンテンツのオープン化を求めるガイドライン(運用細則)を立案・運用してきた。しかし、米コムキャストや米ベライゾン・コミュニケーションズとの裁判で「法的根拠に欠ける」と敗訴を繰り返し、実効的なブロードバンド規制が実施できていない。

ウィラー委員長は昨年、ガイドラインではなく、日本省令に当たる正式なルールとしてブロードバンド規制を実施するため、意見聴取や公聴会を開催するなどの手順を踏んでいる。具体的には、ブロードバンド事業を電話事業などと同じ規制枠(タイトル2)に再分類することを狙っている。

しかし、異例の100万件を超える意見が寄せられ、ハイテク企業や市民団体の間でブロードバンド規制の法制化に反対する意見が増えている。そうした中、FCCは規制導入に強気の姿勢を崩していない。

CEAは立場的には規制強化を敬遠しており、シャピーロ氏は対談で「(米国のように)複数のブロードバンド事業者が選べ、しかも競争市場で、なぜFCCが規制を導入する必要があるのか」と委員長に詰め寄った。

それに対し委員長は(1)米国の多くの地域では複数のブロードバンド事業者を選べる状況にはない、(2)たとえ複数の選択肢があり競争が活発でも「公正な環境か」を政府が見守る必要がある、と2月に開催される定例委員会で規制案の正式可決を狙うことを明らかにした。

■インセンティブ競売は実現する?

FCCの抱えるもう一つの長年の課題が、インセンティブ競売の実現だ。

米国ではモバイル・ブロードバンド需要の急拡大に伴い、携帯データ向け電波の不足が深刻化している。同問題を解決する一策として、米国政府はデジタル・テレビ放送用の周波数の一部を携帯データに用途変更するための「インセンティブ競売」を計画している。

実現するためには、地上波テレビ局が「周波数を供出」する必要がある。FCCは供出に伴う設備変更や廃業費用を補填するインセンティブをテレビ局側に約束している。しかし、昨年NAB(全米放送事業者協会)は、競売ルールに不当性があるとして競売中止を求める裁判を起こした。これを受けFCCは競売実施時期を2015年後半から16年春に延期している。

IoT(モノのインターネット)やウエアラブルなどコネクテッド・デバイスの振興に力を入れているCEAは、競売の遅れが家電メーカーの製品開発に及ぼす悪影響を心配している。対談でシャピーロ氏は「本当に16年に競売を実施できるのか」と懸念を表明した。

これに対しウィラー委員長は「16年春に実施する方向で、最大限の努力をしている。問題は地上波テレビ局が競売に魅力を感じてくれるかどうかだ」と応じ「現在行われている別の周波数競売では、空前の応札合戦が続いている。無線免許は高騰を続けている」とインセンティブ競売が実現できれば十分な資金が得られることも示した。

インセンティブ競売は裁判で延期を余儀なくされているとはいえ、FCCには毎日のようにテレビ局から競売に関する問い合わせが入っており、関心は高い。問題は「周波数を供出して十分な資金的なメリットがある」と放送局が判断するかどうかにかかっている。

■ダイナミズムが国際競争力につながる

対談で取り上げたテーマはいずれも厳しいものばかりだが、ジョークを交えながら和気あいあいとした雰囲気で進んだ。その中で、ウィラー委員長は「イノベーションにより社会は急速に変わって、既存の制度や規制がどんどん古くなってゆく。それに合わせて政府や議会はどんどん法制度の新陳代謝をすすめなけらばならない」と繰り返し述べている。

たとえば、技術革新によりモバイル・ブロードバンドの社会的な重要度が高まる一方、地上波テレビ放送の役割は低下している。そうした変化を迅速に捉え、制度改革を進めることが求められているということを示している。

ウィラー委員長は最後に「先日、国際電気通信連合(ITU)の会議で韓国に行った。様々な技術に合わせて制度を変える米国の姿勢に各国の代表から多くの質問が寄せられた。米国の政治や行政のダイナミズムは世界一だと実感した」と述べ、ハイテク業界における国際競争力は政治的なダイナミズムが重要な役割を担っていることを強調した。この言葉は日本にとっても重要な方向性を示唆している。

小池良次(Ryoji Koike)
 米国のインターネット、通信業界を専門とするジャーナリストおよびリサーチャー。1988年に渡米、93年からフリーランスジャーナリストとして活動している。サンフランシスコ郊外在住。主な著書に「クラウド」(インプレスR&D)、「クラウドの未来」(講談社新書)、「NTTはどこへ行くのか」(講談社)など。

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