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ニュースアプリ、生き残りの年 勝敗を分けるもの

ブロガー 藤代裕之

ソーシャルメディアの登場はコンテンツの消費者を生産者にし、膨大なコンテンツを整理するキュレーションサービスが躍進した。このままキュレーションの勢いが続くのか、新たな取り組みが生まれるのか。2015年のニュースメディア業界を予測した。

キュレーションはコンビニ

2014年にニュース業界を席巻したキュレーションサービスの躍進は、ニュースに触れるデバイスがパソコンからスマートフォンに変化したことが背景にある。

ハフィントン・ポストの前編集長で、スマートニュースのメディアコミュニケーションディレクターである松浦茂樹氏は「コンビニみたいなもの。パートナーから記事を預かり、消費者目線に合わせてコンテンツを再構成し、読者に届けるのが役割」とキュレーションメディアの役割を説明する。コンビニのスマートニュースに対して、佐々木紀彦編集長はニューズピックスをセレクトショップに例え、扱うコンテンツを厳選する「引き算のメディア」を目指す。スマートフォンの普及により、パソコン時代のヤフー独占が崩れ、スマートニュース、グノシー、LINEニュースなどの戦国時代に突入した。

プラットフォームが拡大できるのは、ネット上のコンテンツが増え続けているからだ。ソーシャルメディア登場直後の2000年代初頭は、新聞社のニュースサイトに書いてある記事をコピーして一言コメントを付けるといったブログや掲示板も多く、ニュースは生まれないといわれた時代もあったのだ。

ソーシャルメディアとスマートフォンの組み合わせで、人々は24時間いつでもどこでも情報の受発信が可能になり、その発信するコンテンツはニュースになった。だからこそ松浦氏が言うように情報を整理して読者に届けるプラットフォームの需要が高まったのである。

ただ、プラットフォームは勝つか負けるかのゼロサムゲームだ。現在はほぼ横並びで競い合うキュレーションメディアも、年内には趨勢が見えてくるだろう。筆者はパソコンに続いて王座を狙うヤフーとスマートニュースが有力とみているが、国内を制してもグローバルの戦いが待ち受ける。スマートニュースは海外展開を進めるが、米国モデルを輸入する「タイムマシン経営」で成長したヤフーが世界に出て行くことができるのかも注目だ。

未来がないアクセス狙いのコンテンツ

プラットフォーム競争に対し、現代ビジネスの瀬尾傑編集長は「パソコン時代はヤフーだけだった。競争はコンテンツの出し手にとってありがたい」と歓迎する。

インターネットが登場して以来、メディア業界はコンテンツの地位低下に悩まされ続けている。流通をプラットフォームに握られ、新聞や雑誌が持っていたパッケージの強みが崩壊、収益源となる広告単価も安い。そうなるとアクセスを稼ぐPV(ページビュー)依存のビジネスモデルに走らざるを得なかった。コンテンツの質を向上させてもプラットフォームの圧力にのみ込まれるだけだ。

PVを追い求めると記事本数を増やすために、低コストで記事を量産しなければならない。中には、クラウドソーシングを使い数百円で記事を作ったり、著作権侵害や画像の無断利用、記事のコピペなどに手を染めたりするメディアも現れる。大げさな、いわゆる「釣りタイトル」やささいなトラブルをことさら問題とする「炎上メディア」を含めてネットメディアの暗黒面だ。

単価上昇の切り札としてネーティブ広告があるが、広告と明記されていないものも多く、消費者を混乱させたステルスマーケティング(ステマ)のように社会問題となる可能性が高い。ネットメディアは誰でも立ち上げることができるため、業界として足並みをそろえるのは至難の業だ。

もうひとつ見逃せないのは、兼業のコンテンツ生産者の存在だ。BLOGOSやハフィントン・ポストのような投稿型サイトは記事の掲載料はない。執筆陣を見ると、投資家や経営者、研究者やアナリストといった、別に収入源を持った人たちがライターやジャーナリストに交じる。この兼業コンテンツ生産者の存在がメディア運営のコストを抑えるとともに、ネット上の多様な言論に貢献してきた。

ただ、プラットフォームのおかげで広く情報発信できるというインセンティブは弱まりつつある。ソーシャルメディアにはささいな突っ込みや誹謗(ひぼう)中傷が待ち受ける。批判を受けても書きたいことがある主張者か、何をやってももうけたい「暗黒面」に落ちた運営者か、批判もアクセスに転嫁できるタフなメンタルを持つ「ソーシャルマッチョ」な作り手しか生き残ることが難しくなっている。

メディア第三の道

これらの状況を踏まえてプラットフォームでもなく、アクセス狙いのメディアでもない第三の道の模索が始まっている。

佐々木紀彦編集長は、新年に7つのチャレンジをメールで配信。匿名で感情的な議論があふれるネット論壇ではなく、提携メディアからの記事をピック(選択)してコメントを書き込むピッカーが議論を交わす「NewsPicks論壇」を早期に実現したい、と述べた。優秀なジャーナリストに報酬を支払えるように制度を整え、独自コンテンツでの差別化も図る。

ジャーナリストの津田大介氏が立ち上げた政治サイト「ポリタス」は昨年の衆議院選挙で様々なジャンルの識者や研究者、ジャーナリストらに原稿料を支払い、記事を掲載した。BLOGOSも同じように原稿料を支払う寄稿や取材を行っている。ヤフー個人は書き手への分配を増やすことを決めた。タダでコンテンツを集めるモデルから、資金を投じて良質なコンテンツを集める動きがじわりと始まっている。

だが、ポリタスと、BLOGOSやヤフー個人は決定的な違いがある。ファンの存在だ。プラットフォームからのアクセスに依存した広告モデルから脱出するためには、課金やイベント、グッズ販売、クラウドファンディングなど多様なマネタイズ策が必要で、そのためにはコミュニティー型メディアである必要がある。

コミュニティー型メディアになるためには、運営者の顔や思いが見えなければならないが、それはマスを対象には成立しない。より多くの人に安く大量に売るか、限られた人を対象にコミュニティーを形成して高い収益を得るかの二極化が進むだろう。

社会への貢献が重要

利用者が多くなれば社会的な影響力が増す。ネット企業は収益の規模に比べて、これまでコンテンツの作り手やジャーナリズムに十分な取り組みは行っていない。それがコンテンツの質の低下やコピペ、著作権侵害、誹謗中傷があふれる状況を生み、社会的な課題になりつつある。

米国では、ピュリツァー賞を受賞した非営利型ジャーナリズム組織のプロパブリカは社会を機能させるためにジャーナリズムが欠かせないと、金融業で富を築いたサンドラー夫妻などが資金提供して運営されている。旧メディアに打撃を与えたグーグルが、メディアやジャーナリズム関連で多くの投資や寄付をおこなうナイト財団への資金提供も行い、新しいジャーナリズムを後押ししている。

国内では、ヤフーの宮坂学社長は「ピュリツァー賞を」と個人の情報発信事業を強化すると打ち上げたが、ヤフーの企業規模からすれば残念ながら資金や体制が乏し過ぎる。スマートニュースの創業者で、研究者でもある鈴木健会長は、年末に開いた事業戦略発表イベントで公共性を高めて民主主義に貢献したいと述べており、具体的な取り組みが注目される。佐々木編集長は良質な書き手を育てるジャーナリズムスクールの必要性を語っていた。

ニュースメディアはビジネスモデルだけでなく、どのような社会を目指すのかという企業姿勢も問われるようになる。

藤代裕之(ふじしろ・ひろゆき)
ジャーナリスト・ブロガー。1973年徳島県生まれ、立教大学21世紀社会デザイン研究科修了。徳島新聞記者などを経て、ネット企業で新サービス立ち上げや研究開発支援を行う。法政大学社会学部准教授。2004年からブログ「ガ島通信」(http://gatonews.hatenablog.com/)を執筆、日本のアルファブロガーの一人として知られる。

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