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シリコンバレー有力VC、日本ITベンチャーこう見る

米DCMの本多央輔・日本代表に聞く

シリコンバレーから次々と生まれるIT(情報技術)ベンチャー。急成長し、一気に世界へと羽ばたく企業も少なくない。彼らの後ろ盾となり、資金や経営で支援するのがベンチャーキャピタル(VC)だ。シリコンバレーのVCの中でも日本で活発に活動しているのがDCM(カリフォルニア州)。昨年12月19日には日本での投資先でネット広告関連事業を営むサイジニアが東証マザーズに株式を新規上場し、話題を呼んだ。DCMは国内ITベンチャーの現状をどう分析しているのか。日本代表を務める本多央輔氏にその本音を聞いた。

注目株は中小企業向けにあり

――近年、どんな方針で投資活動を国内で行っているか教えてください。

米DCMの本多央輔日本代表

SMBと呼ぶ中小企業向けのサービスを提供するベンチャーに注目している。会計サービスのfreee(東京・品川、佐々木大輔社長)と予約システムのクービック(東京・渋谷、倉岡寛社長)が代表的な投資先だ。

経理関連業務は、企業の運営に欠かすことができない。社員が少ないベンチャーや中小企業の経営者は、稼ぐための本業に費やす時間を削って対応せざるを得ない。freeeは、簡単な入力で経理業務を済ませられる。

もう一つのクービックは、SMBの中でもネイルサロンやヘアサロンに特化して、顧客管理・予約システムを提供している。米国では飲食店向けでイェルプが成長しているが、それと似たようなサービスだ。すでに利用企業は数千社に及んでいる。悪くない成長だと思っている。将来は、各店舗が顧客向けに提供するメディアにすることも考えている。

両社とも、これまでの日本にはないユーザー体験を提供している。

――両社に投資を決めた決め手はなんでしょう。

成長市場であることはもちろんだが、両社ともチームのメンバーが充実していた。freeeの佐々木社長は、グーグルでSMB関連の事業の責任者だった。クービックの倉岡社長はグーグルやグリーでサービスを運営していた。2人とも、「プロダクトファースト」で鍛えられているうえ、SMBの顧客を開拓するマーケティングの経験があることが投資判断の決め手になった。

加えて2社が狙う市場は、パッケージソフトなどを手掛ける既存のプレーヤーがイノベーションのジレンマに陥り、自社の従来サービスとの食い合いを懸念してクラウド分野に進出できていなかった。

――創業間もない時期から投資していますね。

クービックは一昨年10月に会社ができ、昨年1月に投資した。freeeにも同様にシードラウンドという早い段階から投資している。2011年に組成したスマートフォン(スマホ)向け基本ソフト(OS)のアンドロイド関連のベンチャーに投資する「Aファンド」から投資した。アンドロイドと相性のいいクラウド関連のサービスだからだ。

当社には、大きな資金を投じることのできる大型ファンドもある。freeeについては、追加の資金調達であるシリーズAでも資金を出した。成長期のベンチャーへの資金供給は日本では比較的手薄なので、今後もこうしたステージでの投資には積極的に取り組んでいきたい。

同じくクラウドサービスで名刺管理を手がけるSansan(東京・渋谷、寺田親弘社長)へはシリーズBから参加した。Sansanは日本ならではのビジネスをしっかり作っており、マネタイズ(収益化)も実現済みだ。米国進出を視野に入れている段階だ。

――未上場のベンチャーの株価について、バブルが起こっているとの指摘もあります。

クラウド関連でも、一般消費者を対象とするB2Cの分野ではそうかもしれない。しかし、企業を対象とするB2Bではまだ、そこまでの状況にはなっていない。市場成長のオポチュニティー(機会)があるけれども注目されていなかった。

早い段階に「先見性」で投資、それがDCM流

――投資先のサイジニアが昨年12月に上場しました。投資に踏み切った魅力は何でしょうか。

上場後に記者会見するサイジニアの吉井伸一郎社長(12月19日、東証)

サイジニアの吉井伸一郎社長に初めて会ったのは同氏がまだ北海道大学の助教授を務めていた時だった。程なくして「北大の若きエース」という立場を捨て、サイジニアを起業したが、当時の日本のベンチャーとしては珍しく、独自色の強い技術基盤を有していた。また先見性のあるビジョンにも共鳴し、投資を決めた。吉井社長は2008年当時、先駆けてネット広告の先端技術「アドテクノロジー」を熱く語り、今で言う「ビッグデータ」という発想とビジョンを持っていた。デカイことを実現し得るチームだと感じた。

――どのような支援をしたのでしょうか。

2008年当時は日本でも米国の状況を受けて、アドテクノロジーに一気に火がつくとにらんでいた。しかし普及に予想よりも時間がかかり、我慢をする期間があった。お薦めの広告を表示するレコメンデーションエンジンの販売から始まり、DCMとしては会社を継続的に支援しようと段階的に4億円以上を投資した。2013年以降、経営メンバーも固まり、事業も安定化してきた。日々のビジネスよりは、マクロの観点から「今はキャッシュフロー(現金収支)を強化すべきだ」や「新規株式公開(IPO)のタイミングはいつごろにすべきだ」などと助言してきた。

――最近、イグジット(投資回収)した案件はほかに何がありますか。

●DCMの投資先で上場している主な企業
社名事業内容
アドウェイズネット広告
オールアバウト総合情報サイト
アートスパークホールディングスデジタル機器向けソフト開発
日本通信データ通信サービス
カブドットコム証券ネット証券
サイジニアネット広告支援
スターフライヤー航空

韓国で投資していた対話アプリ「カカオトーク」などを手掛けるカカオが、すでに上場していたインターネット大手のダウムと合併する形で上場した。「Aファンド」から投資していたが、カカオの投資リターンだけでファンド総額以上のキャピタルゲイン(株式売却益)を得た。日本や韓国に目を向けていた当社だからこその成功だといえる。

カカオトークの韓国でのシェアはすでに95%程度で、シェアの伸びしろが少ないとされている。ただ従来のゲーム収入から電子商取引(EC)、決済、タクシー配車など、水平展開を一気に進めている。ダウムと統合することでECなどの売り上げを伸ばすなど、この取り組みがさらに加速するはずだ。

――日本や韓国に注目する米国のベンチャーキャピタルは珍しい。

現在もそうだが、「Aファンド」を設立した2011年ごろ、中国や米国のベンチャーは活発だし注目も集まっていた。日本と韓国はそれに比べると、若干は後じんを拝している感じがあった。

そもそも「Aファンド」を設立したのは、スマホのiPhoneや多機能携帯端末(タブレット)のiPadが全盛だった米国に対してアンドロイドが一定のシェアを確保していた韓国の状況をみていたから。投資機会を認識して資金を集めた。

ファンドの成功を通じて、日本や韓国にもおもしろいベンチャーが生まれていることを示していきたい。

モバイルでの覇権争い、アジアでも勃発

――クラウドやSMB以外で注目している分野はありますか。

カカオや同業のLINEなど、モバイルの世界では交流サイト(SNS)が本格的に広がってきた。フェイスブックが対話アプリのワッツアップを買収したこともその象徴だ。今後、中国テンセントのウィーチャットなどを巻き込み、東南アジアでの覇権争いが始まるだろう。

米国の投資先で急成長しているベンチャーがある。位置情報に連動するSNSのYik Yak(イクヤク)だ。大学や高校などがある地域ごとに匿名で投稿できるのが特徴。アプリ(応用ソフト)のダウンロード数でみると、すでにワッツアップや画像SNSで急成長しているピンタレストなどに次ぐ人気だ。

イクヤクは、決して技術的なイノベーションを起こしたわけではないが、スマホという新しい端末を前提に、新しいユーザーインターフェース(UI)を作り全く新しいサービスを生み出した。当社はシードとシリーズAで投資した。

昨年、当社は7号ファンドを資金規模350億円程度で設立した。今後も、日本や韓国を舞台に、シリコンバレーなどとは違った視点で投資していきたい。

(聞き手は上田敬)

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