イチロー・青木どこへ オリオールズの動向カギに
スポーツライター 杉浦大介
ジョン・レスター、パブロ・サンドバル、ハンリー・ラミレスといった多くのフリーエージェント(FA)選手の移籍先が早々と決まるなど、大リーグの今オフのストーブリーグは動きの激しいものになっている。そんな中で、日本人選手に関するニュースは豊富とはいえない。黒田博樹、松坂大輔の日本球界復帰が話題になったものの、イチロー、青木宣親、そして海外FA権を行使してメジャー行きを目指す鳥谷敬の所属チームは決まっていない。彼らはいったいどのチームのユニホームを着ることになるのか。
■外野陣に空きがあるオリオールズ
青木、イチローにとっては、オリオールズの動向がまずは一つのカギとなりそうだ。昨季96勝を挙げてア・リーグ東地区を制した強豪チームから、ニック・マーケイキス、ネルソン・クルーズという主力外野手が移籍した。DH起用の多いデルモン・ヤングとは再契約したものの、外野陣に依然として空きがある状況となっている。
「FA外野手の中で、オリオールズはコルビー・ラスムス、イチローに加え、青木に興味を持っている」。昨年12月29日にFOXスポーツのジョン・モロシ記者がそうツイートしたのをはじめ、オリオールズの外野の穴埋め候補として2人の日本人外野手の名が盛んに挙がっている。しかし、彼らが最有力というわけでもなさそうだ。
「DHと兼用できる外野手が必要なオリオールズは、青木とラスムスに興味を持っている。もしもラスムスがクラブハウスにフィットすると判断した場合には、彼が第一候補になる」。MASNスポーツが同30日にそう伝えた通り、本命は28歳のラスムスのようである。
■ラスムスとの話がまとまらねば…
昨季はブルージェイズで104試合に出場したラスムスは打率2割2分5厘、18本塁打、40打点に終わった。ただ、過去5年間で平均20本塁打を放ったパワーは、昨季40本塁打のクルーズを失ったオリオールズにとっては魅力的なはず。しかも青木が2~3年の複数年契約を望んでいるのに対し、ラスムスは年俸500万~800万ドル程度の1年契約で獲得できそうなのも大きい。
もっとも昨季124三振という数字が示す通り、確実性のなさという欠点がある。カージナルス時代にはトニー・ラルーサ監督とうまくいかず、それが2011年のブルージェイズへのトレードにつながったとも噂された。理由はどうあれ、オリオールズのバック・ショーウォルター監督やフロント陣がラスムス獲得を敬遠するような流れになった場合、あるいはラスムス側がオリオールズ以外を望んだ場合、青木やイチローに白羽の矢が立つことも考えられる。
2人の主力選手が移籍したオリオールズだが、一方で昨季はケガに泣いたマット・ウィータース、マニー・マチャドが戻ってくる。さらに13年に本塁打王と打点王の2冠を獲得したクリス・デービスが復調し、昨季に開眼したスティーブ・ピアースが好調を保てば、依然として相手を恐れさせる打線になる。プレーオフ進出を争える力を保った強豪は青木、イチローにとっても魅力的な職場に違いないだけに、今後の流れが気になるところだ。
■イチローの契約、遅くなる可能性も
オリオールズがラスムス、もしくは他の選手を選んだ場合、2人の日本人外野手の行き先を占うのは難しくなる。特に青木はレギュラー扱いでの複数年契約にこだわるはずだが、外野手を探しているチームはそれほど多くない。
名前が一時挙がったマリナーズはセス・スミスを、レッズはマーロン・バードを獲得し、とりあえず頭数はそろった。アスレチックス、アストロズのように外野陣が固まり切っていないチーム、メッツのように起用法をフレキシブルにしたいチームは存在するが、これらの球団が青木をどの程度評価しているのかは判断が難しい。
イチローは知名度では青木より数段高くとも、所属先が決まるのはより後になる可能性が高そうだ。
「現在の彼は素晴らしい第4の外野手だ」。昨年11月に発表されたYAHOO!スポーツのFA選手ランキングではイチローは80位にランクされ、そんな解説文が寄せられていた。外野の3つのポジションすべてを守れ、代走でも起用できるスピードを考えれば、41歳になったイチローは現実的にはスーパーサブとしての役割が適任か。各チームともまずは主力から陣容を固めていくだけに、レギュラー級が固まった後、春のキャンプイン前後まで契約を後回しにされても不思議はない。
■米国内で注目度高いとはいえぬ鳥谷
鳥谷に関しては米国内での報道が少なく、注目度が高いとはいえない。実際に獲得候補としてよく挙がっているのは、二塁手が必要なブルージェイズくらい。地元紙トロント・サンは、12月27日付で「スコット・ボラスを代理人に雇った鳥谷は、ブルージェイズかパドレスの間で悩んでいるようだ」と報道した。
しかし、この話のネタ元はどうやら日本からのニュースのようで、そんな報道形態からも現地での情報の乏しさが伝わってくる。いずれにしても、イチロー同様に鳥谷もやはり主力級とは考えられておらず、契約成立はかなり先になるかもしれない。
日本人選手以外では、12月前半のウインターミーティングの前後に、カブス、ホワイトソックス、パドレス、レッドソックスが複数の有力選手を獲得する大補強を敢行して話題を呼んだ。
レイズから知将ジョー・マドンを迎えて勝負をかけるカブスは、FAの目玉投手の一人だったレスターに6年1億5500万ドルの契約を提示して獲得に成功。さらにはジェイソン・ハメル(昨季10勝)、捕手のミゲル・モンテロ(同13本塁打)も加え、懸案だったロースターの層の薄さを少なからず解消してみせた。
■大胆に動いたパドレス、注目球団に
同じシカゴに本拠地を置くホワイトソックスは、デビッド・ロバートソン(39セーブ)、アダム・ラローシュ(26本塁打)、メルキー・カブレラ(打率.301、16本塁打)、ジェフ・サマージャ(防御率2.99)といった実力派と次々と契約。レッドソックスもラミレス(打率.283、13本塁打)、サンドバル(打率.279、16本塁打)に加え、ヨエニス・セスペデスとの交換で昨季15勝のリック・ポーセロを手に入れ、2年ぶりの優勝に向けて戦力を整えている。
今オフ、最も大胆な動きを見せ続けたのがパドレス。精力的にトレードをまとめ、マット・ケンプ(25本塁打)、ジャスティン・アップトン(29本塁打)、デレク・ノリス(10本塁打)、ウィル・マイヤーズ(一昨年13本塁打)といった打力のある選手を次々と獲得した。投手有利のペトコパークを本拠地とするチームが一発屋を集めた補強策には疑問が残るものの、大改革によって今季の注目チームの一つとなることは間違いない。
■残されたエース級、シャーザーら2人
マーケットに残っている選手の中では、マックス・シャーザー(昨季タイガースで18勝5敗、防御率3.15)、ジェームズ・シールズ(ロイヤルズで14勝8敗、防御率3.21)という2人のエース級投手の行方に注目が集まる。
13年にア・リーグのサイ・ヤング賞に輝いたシャーザーの獲得候補にはタイガース、ヤンキース、レッドソックス、ドジャースといった強豪チームも挙がっている。リーグ屈指の右腕である30歳の落ち着き先次第では、今季のメジャー勢力図が少なからず変わりかねない。
結局はタイガース残留が濃厚といわれるが、CC・サバシア、田中将大、イバン・ノバと先発ローテーションに故障明けの投手が多いヤンキースが触手を伸ばしてくるとみる関係者は少なくない。今オフのヤンキースは巨額投資を否定する発言を続けているとはいえ、かつて「悪の帝国」とまで呼ばれた金満チームだけに、その動きから最後まで目を離せない。
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