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ダイヤモンドの人間学(広澤克実) 野球界、少子化対策にぬかりはないか

2020年の東京五輪で野球が復活する可能性が出てきたが、野球界の足元をみると明るい話ばかりではない。少年野球の現場は子どもを集めるのに四苦八苦。少子高齢化やいろんなスポーツの選択肢が広がるなか、どうすれば子どもたちに野球に目を振り向かせることができるのだろうか。

「サッカーやりたい」と言う息子に動転

私の息子(次男)が小学校3年になるときのことである。おもむろに「サッカーをやりたい」と言ってきた。私は日ごろから「好きなことをやりなさい」と言ってきたのだが、口では「好きなこと」とは言っても、内心は野球をやってくれると期待していた。

長男が野球をやっていたので、同じ道に進んでくれると安心していたところに次男の唐突な言葉である。一瞬、気持ちが動転したが、そこは冷静さを装い、理由を聞いてみた。

すると息子は「Jリーグの人が教えてくれるんだ」と言うのだ。よく話を聞いてみると、土日になるとJリーグのOBか現役選手かわからないが、そのクラブに指導にきているらしい。

「Jリーグの人に教えてもらえるならサッカーをやりたい」と言った息子の気持ちもわからないわけではない。と同時に、Jリーグの組織としての活動に驚いた。それに比べ、野球界はプロとアマの壁があるなど、サッカー界に相当見劣りする。

少年野球、教えるのは近所のおじさん

現状でいえば、少年野球は指導者の資格もあるような、ないような、その辺からはっきりせず、近所の野球好きのおじさんたちが教えている。それに比べ、組織的に指導者の認定をしているJリーグから派遣されるコーチなら安心、と子どもだけではなく保護者の方もそう思うだろう。

その後、私は、ことあるごとに野球も面白いんだぞ、と触れ込み、また、次男の心を動かした「Jリーグ」に対抗するため、当時、私が所属していた巨人の主力選手、松井秀喜のサインボールをあげたり、清原和博に頼み、写真を一緒に撮ったりするという姑息(こそく)な手を使い、次男を野球の世界に引っ張ってきたのだ。

プロ野球選手の息子でさえ、こんな調子であるから一般の家庭ならサッカーを選ぶ子が増えるのもうなずける。

プロ野球のOBが少年向けの野球教室を開くことも多いが、スポンサー付きの教室は別として、ギャラが高額になるのがネックになっている。

名球会のメンバーに野球教室を依頼すれば、1日のギャラが50万円と聞いて、目の玉が飛び出しそうになったことがある。小学3~6年生が集まる地域の野球クラブは3千円から5千円程度の会費で運営しているが、その財布のどこから1度の講習に50万円もの大金がひねりだせるというのだろう。

高額な講師料、野球普及の足かせに

現役を引退するとき「これからは野球界のために恩返ししていきます」と言って引退する選手が多いが「恩返しならお金を取るな」と言いたい。

OBにも生活があるが、高額な講師料が野球を普及させていく中の足かせになっていることも事実である。まして「名球会」の看板を掲げて活動するなら、営利目的の活動ではなく、野球の普及のための奉仕活動を率先してやってほしいものである。

少子化問題はスポーツ界にも深刻な影響をもたらしている。「男の子は野球」という時代は遠い昔で、今はサッカー、バスケットボールなど選択肢が多様化している。それでなくても減る一方の8歳から10歳すぎまでの子どもたちを、どうにか自分たちのフィールドに連れてこようという競技間の争いは激しくなる一方だろう。

少子化自体は政治の課題で、スポーツ界がどうこうできるものではない。だからといって野球界も手をこまぬいているわけにいかない。

少年の心動かせるのは現役プロ選手

少年野球の現場に行って痛感するのは「やはり、子どもたちの心を動かすのは現役だ」ということだ。現場の監督や保護者の中には我々を覚えてくれている人もいる。しかし、子どもたちは「このおっさん、だれ?」である。無理もない。私が現役を引退してから、もう11年がたった。

少年たちの心をひき付けられるのは間違いなく現役選手なのだ。野球中継もだいぶ減ってしまったが、現役選手の知名度は全く違うし、野球を教えても説得力が全く違ってくるはずだ。

実際、関東での巨人勢の人気はさすがで、坂本勇人、長野久義、橋本到、松本哲也らの名が少年たちの口から出てくる。

もちろん阿部慎之助、高橋由伸らの名前も出てくるのだが、若い選手の方が人気があるようだ。関西では藤浪晋太郎、鳥谷敬、能見篤史といった阪神の選手が多いが、糸井嘉男や金子千尋といったオリックスの選手も人気が高い。今、名前の挙がった選手でなくとも、とにかく現役選手の「訴求力」に勝るものはない。

昨季193本で最多安打のタイトルを獲得、一気にブレークしたヤクルト・山田哲人あたりも少年野球の現場に出向いたら子どもたちの目はギラギラと輝くだろう。そして、ちょっと顔を見せるだけでも一生子どもたちは忘れないはずである。

何十年か後、日本にプロ野球はあるか

彼らに知っておいてほしいのは私の次男の例でわかるように、子どもたちがやりたいスポーツを選択する理由は単純で正直だ、ということだ。このオフの期間だけでいいから、少年野球の子どもたちと触れ合う機会を設けてほしい。

自分の名前を冠した「○○シート」を球場に設けてファンサービスを行っている選手もいる。そうしたこともやりつつ、直接、触れ合う機会を設けてほしいと願っている。これが一番の波及効果を生むと思う。

日本の少子化は深刻だ。私が代表チームを教えているカンボジアの国民の平均年齢は27歳で民主化の進むミャンマーも27歳、お隣のベトナムは28歳で、フィリピンは23歳という。それにひきかえ、日本の国民の「平均年齢」は45歳である。これだけでもお先まっくらだ。

「地元」となる東京五輪で野球は復活するかもしれないが、その先はとなると不透明だ。少子化は政治家の皆さんに任せるしかないが、我々野球界の人間ができる作業として「少年野球の拡充」という問題に真正面から向き合わないと、何十年かのちに日本でプロ野球が行われている保証はない。こうした問題意識を持つ人間が野球界にどれぐらいいるのか、心細いものである。

(野球評論家)

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