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国境の変更 武力が迫る 米の抑止力低下

冷戦終結から25年目となる2014年、世界秩序が大きく揺らいだ。ロシアがウクライナ領クリミア半島を一方的に自国に編入、イラクとシリアにまたがる地域では過激派「イスラム国」が建国を宣言し、戦闘が続く。冷戦後の世界をけん引した米国の指導力が衰えるなか、武力で国境が侵され、主権や領土保全といった原則が脅かされている。

「ロシア系住民を守る」。プーチン大統領はこんな口実でウクライナへの軍事介入に突き進んだ。2月に同国の親ロシア政権が崩壊すると、クリミアに素早く軍を展開し、住民投票を強行して一気に編入した。

民族紛争の末にセルビアから分離独立したコソボなど、冷戦後も国境線が変更された例はある。だが、主権国家の一部を大国が武力で奪ったのは第2次世界大戦以来。クリミアはコソボではなく、ナチスドイツが1938年にチェコスロバキアに住むドイツ系住民の保護を理由にズデーテンを併合した例と重なる。

プーチン大統領の野望はクリミア半島にとどまらない。ウクライナ東部の親ロ派武装勢力の軍事支援にも踏み込んだ。同地ではマレーシア機が撃墜される事件も起きた。

欧州連合(EU)加盟を目指すウクライナなど旧ソ連諸国の欧米への接近を阻止しようとするロシアの行動は「勢力圏」という考え方に基づいている。

中国も「核心的利益」と位置づける沖縄県・尖閣諸島や南シナ海の領有権を巡り強硬な動きを見せる。フィリピンやベトナムと争う海域では基地などをつくり、地域の緊張を高めた。ロシアや中国の行動は19世紀のような「力の論理」を想起させる。

「イスラム国」は、英国とフランスがオスマン帝国の領土を分割するために1916年に秘密裏に結んだ「サイクス・ピコ協定」を基に引かれたイラクとシリアの国境線の打破を主張している。

イスラム教の預言者ムハンマドの後継者「カリフ」による統治を宣言。インターネットで世界に向けて「建国を祝おう」「聖戦に参加せよ」と発信するなど、これまでのテロ組織とは明らかに異なる。

3万人規模の「イスラム国」の戦闘員の半分は周辺国や欧米アジアからの参加者とされ、カナダの国会議事堂で起きた銃乱射事件の犯人はイスラム教に改宗していた。「イスラム国」の脅威は各地に拡散しかねない。

国際社会は団結できていない。米国が対ロ経済制裁を強め、欧州も足並みをそろえたが、ロシアと経済面で相互に依存するEU加盟各国は一枚岩とはいえない。中国やインド、トルコは制裁には参加せず、ロシアとのエネルギー協力など経済的な利益を優先する戦略を取っている。

「イスラム国」の包囲網も脆弱だ。米国主導の空爆は一定の効果を上げているものの、地上軍なしでは掃討は難しい。サウジアラビアとイランの敵対関係、シリアのアサド政権に対する思惑の違いもあり、周辺国の対応も割れている。

11月の米中間選挙では与党・民主党が惨敗した。オバマ大統領と共和党が支配する議会の対立が深まり、米国の指導力が一段と低下する恐れがある。

「今は日欧が米国を支えなくてはならない」と欧州外交筋はいう。各国が原理原則よりも国益を重視し、G7(主要7カ国)の結束が揺らげば、世界秩序がさらに混迷することは間違いない。

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