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東北の食をイタリアへ 味の現地化で日伊が意見の応酬

日経デザイン

ユネスコ無形文化遺産に登録された日本食。料理だけでなく、日本の食材も今後ますます海外市場で高く評価され、受け入れられる可能性を秘めている。その可能性に挑むワークショップを、東北海外展開加速化協議会が2014年10月28日から30日までの3日間にわたり仙台市の「ガスサロンキッチンパレット」で開催した。同協議会は、復興庁の「新しい東北先導事業」の採択を受け、東北の食品・加工食品の海外展開の加速化に取り組んでいる組織である。

テーマは「日本(東北)とイタリアの融合、新しい食の発見」。東北地方の食品や食材をイタリアの市場に輸出する、そのために現地の人に受け入れられる味やパッケージ、メッセージを探る、食のローカライゼーションの試みだ。

参加したのは福島、宮城、岩手の被災3県の事業者。東北の復興に寄与するために東北発で海外市場へ向けてのローカライゼーション成功例をつくることが目標

「日本×イタリア=新しい食」を目指す

この取り組みではまず、ワークショップを経て発想したアイデアを2014年内から2015年初頭にかけて練り上げる。そして2015年2月に現地の料理雑誌「Cucina Italiana」の協力のもと、フードジャーナリストやシェフ、食品業界関係者に向けて調査を実施。同年3月からはミラノ市内のレストラン数件で東北の食材を使ったメニューを定期定期に提供し、テストマーケティングを行う予定。並行してソーシャルメディアでの情報発信やオンライン販売を行う計画だ。

ただ単に東北の食材を「和食」の素材として輸出するのではなく、イタリアの伝統的な調理法や食材と組み合わせてイタリア人の好みに合うようにローカライズし、身近な食材として使ってもらえるようなレシピを開発することも、このワークショップの主要な目的の1つだ。

自社で取り扱っている食材・食品を持ち寄った参加者は3日間で23社、のべ51人。福島県猪苗代町の白米や仙台味噌、醤油(しょうゆ)、清酒、イカの塩辛、切り餅、海草を練り込んだパスタ、エゴマ油や福島のカボチャペーストまで、手塩にかけた幅広い食材・食品が集まった。それぞれの事業者が持ち込んだ食材・食品をプレゼンテーションした後、グループに分かれてのディスカッション、パッケージやコミュニケーションまで含めたアイデア出し、キッチンを使っての味のプロトタイプ開発までを1日でこなした。

講師を務めたミラノ工科大学のアレッサンドロ・ビアモンティ氏。アシスタントとして気仙沼でのフィールドワークの経験があるデザイナー、シルヴィア・マリア・グラメーニャ氏とスローフードの専門家、ジャコモ・ミオーラ氏が同行した
どの食材にも作り手の思いと物語があるが、パッケージを見ただけではそれが伝わらない

講師はミラノ工科大学のアレッサンドロ・ビアモンティ准教授。工業デザインとマルチメディアコミュニケーションが専門分野だが、文化の違いとそこから生じる社会的な意識の違いを研究テーマとし、フィンランド、ノルウェー、スペイン、フランス、ポルトガル、韓国、ロシア、イラン、日本などの国際学会でこれまで研究結果を発表してきた人物だ。地方にある資産を掛け合わせて新しいモノを生み出すことを目的とした「MARU」プロジェクトを東京大学i.schoolと共同で行った際に、気仙沼でのフィールドワークの経験がある。

ビアモンティ氏とともにアシスタントも2人来日した。1人はサステナブルという観点で食品の製造、流通、改良などにデザイナーがどう関わっていけばよいかを研究しているジャコモ・ミオーラ氏。イタリアのスローフード協会のメンバーとして、「Colle dell'ara」プロジェクトを立ち上げ、今も指導している。このプロジェクトは、生産的な農村において新しい食のサービスと宿泊サービスを開発しようという実験的な活動だ。

もう一人のアシスタントはシルヴィア・マリア・グラメーニャ氏。人類学的なアプローチによるデザイン開発とソーシャルイノベーションを研究テーマとするデザイナーで、「MARU」プロジェクトでは気仙沼でフィールドワークを行い、東北への知見がある。

日本側からはファシリテーターとして岩手県陸前高田市の清酒の海外展開に携わっているブリコ・インターナショナルの小谷英幸氏、宮城県気仙沼市、福島県会津若松市などで地元の高校生たちと地域活性化に取り組む任意団体i.clubの小川悠・代表理事、海外市場進出に向けたローカライゼーションの専門家であるビジネスプランナーの安西洋之氏、味のアドバイザーとして発酵食品に詳しい料理家の伏木暢顕氏、ほかにパッケージデザイナー、プランナーなどのサポート陣が付いた。

味を軸にした「食のエクスペリエンス」が重要

食材の魅力の核は味であり、食べる楽しみだ。同じ日本の味でも、イタリア人にとっての味覚体験は全く別物。イタリアの人にどのように味わい、楽しんでもらうか、その目標があって初めてパッケージデザインもブランドも成り立つ。参加者のプレゼンテーションを聞きながら、講師からは「それをイタリアの人にどう楽しんでもらいたいの。最も伝えたい魅力は、特長は…」と質問が飛ぶ。

たとえばイカの塩辛は、食感をそのまま受け入れてもらうのは難しいだろう。しかし発酵させた魚介は、アンチョビなどでイタリア人のなじんだ味でもあるはず。そこで料理の専門家からは、細かく刻んで違和感をなくす、すりつぶしてディップに、といった提案が出され、それならパスタソースにも、と参加者からもアイデアが飛び出す。日本の食材を日本料理として味わうだけでなく「東北の食材をイタリアの食文化と組み合わせて、ハイブリッドな新しい味の楽しみを生み出す」視点が求められた。

似た課題を抱える参加者ごとにグループディスカッション。予め用意したシートに記入しながら、マーケティングやデザイン、食の専門家のサポートで「イタリアの人たちにこの味を楽しんでもらうには」を考える

イタリアの消費者に「どう楽しんでもらうか」がはっきりすれば、それに従ってパッケージやコミュニケーションの方向性も明らかになる。現地での食事のあり方やブランド性を想定して、魅力的なパッケージの姿もおのずと見えてくる。

後半は、場所をキッチンスペースに移して「味のプロトタイピング」が始まった。講師がイタリアで普段食べている食材を東北の食材と組み合わせて、火の上で次々と斬新な実験が繰り広げられる。途中で「これは明日やり直し」と冷蔵庫に送り込まれる食材もあったが、無事に皿に乗った料理を囲み全員で試食会となった。

キッチンを使って味のプロトタイピング。塩辛とオリーブオイル、チョコレートと醤油の組み合わせも
1日目の成果は油麩のブルスケッタと鮭の冷燻にポン酢・オリーブオイル・柚子胡椒のソース添え、イカの塩辛のディップ、パルミジャーノチーズで仕上げた味噌のリゾットなど。日本の料理人とスローフードの専門家が協力して日伊の味のハイブリッド化、イタリア人になじむ新しい味の開発に取り組んだ

その食材、イタリア人にどのように見られたいのか…

それぞれの事業者が持ち込んだ食材・食品の味を確かめた後、パッケージやコミュニケーションの方向性に関する個別コンサルティングも行われた。

講師のビアモンティ氏は今回のワークショップについて「生産者の方々が、自分たちの食材に熱意と愛情を注いでいることが印象的だった」としつつも、「コミュニケーションの課題が大きい」と指摘した。素材の良さ、時間と手間をかけた品質、地域に根付いた食材の歴史は大きな価値となるが、それが製品を見ただけで伝わる必要がある。また、イタリアの人が自分たちの暮らしの中でどのように楽しんだらよいか、調理法や食べ方の提案も必要だ。

参加者からも「製品が自ら、どう見られたいのかを発信する必要があると分かった」「イタリアの人がどんな時にどんなものを食べているかをふまえて、好きになってもらう工夫をしなければ」「イタリアの食生活にすり寄らずに自分たちの価値を発信したいが、それには情報をきちんと伝えなければならない」などの感想が聞かれた。

味を探るワークショップでは参加者もそれぞれに発想と試作に参加し、活気あふれる場となったが、探り当てた味のアイデアを製品として伝えるには今後の継続が不可欠だ。2015年の現地デビューへ向けての展開が期待される。

事業者が持ち込んだ製品の味を確認したあと、イタリア市場に向けたパッケージや味の方向性の個別コンサルティングも行われた

(ライター 井原恵子)

[日経デザイン 2014年12月号の記事を基に再構成]

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