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ポストゲームショー(田口壮) 「メジャー選手はオフに練習しない」はウソ

いわゆる「常識のウソ」というものがあります。メジャーの選手は日本と違ってあまり練習しない、というのもその一つかもしれません。私もメジャーに挑戦するときはそう思っていたのですが……。

私がオリックスに在籍していたころ、年末年始のこの時期はさすがに完全オフという感じでした。メジャーは長いシーズンを見据えていることもあり、日本よりもっとちゃんと休んでいるのではないか。そんなふうに私も思っていたのですが、渡米してみて、自分の見通しが甘かったことを思い知らされました。

「週3日の練習なら楽に」と思ったが…

メジャーでフリーエージェントの資格を取った年の12月でした。私はアリゾナでの合同トレーニングに参加しました。最優秀救援投手となったこともあるジョー・ネーサン、現在MLB選手会の要職にあるトニー・クラーク、阪神でも「JFK」の一員として活躍したジェフ・ウィリアムスらがいました。

練習は月水金の3日です。週3日なら楽にこなせるだろうな。オリックス時代、イチロー選手らとともに地獄のノックを受けていた私にとって、恐れることはないはずでした。ところが……。

トレーニングは朝6時から始まります。最初は痛めたところの治療がてらのストレッチなどです。ウオーミングアップ代わりなのですが、ここに腹背筋をみっちりきたえる運動が仕込まれています。

"治療"のあとが本当の体力強化です。ウエートトレーニングをたっぷり行い、それからバッティング、キャッチボールです。メジャーの選手はオフにはボールやバットを握らないのではないか。そう思っている方が多いのではないかと思いますが、違います。もちろんそういう選手もいないではありませんが、完全に野球から離れている選手はほとんどいないと思います。

「ランニングデー」に心臓バクバク

そうこうしているうちにお昼になって、練習終了です。そこからメジャーの選手たちはどうすると思いますか? ランチもそこそこにゴルフです。「ゴルフなど運動のうちに入らない」ということが見当違いであることは、ゴルフを一度でもしたことがある方ならご存じでしょう。

週3日のうち、一番恐怖の日となるのが「ランニングデー」の金曜日です。短い距離のダッシュを延々、1時間半ほど続けます。インターバルはせいぜい30秒。心臓はもうバクバクです。体力をつけるための基本は走ること。これは洋の東西で変わらないのですね。

早くからトレーニング理論が発達している米国の選手だからといって、苦痛を避けて楽々と体を作っているわけではないのです。特にメジャーはシーズン162試合の長丁場ですから、限界まで体を鍛えて体力を蓄えておかないと持ちません。

田口壮氏

1日トレーニングを休んだら、取り戻すのに3日かかる、などといわれます。それもまた米国でも同じことで、メジャーの選手も体を休ませる期間を極力短くしていたのでした。

午前10時ごろから日没まで練習をしている日本のキャンプと違い、メジャーのキャンプはあっさりしていると思われがちです。これも私の経験でいえば、誤解でしょう。

メジャーのキャンプは休養日なし

メジャーのキャンプは2月10日すぎから投手陣が始動し、野手がそろうのは20日くらいです。2月1日から一斉スタートの日本のプロ野球からすると、のんびりしているようにみえます。しかし、メジャーのキャンプには基本的に休養日がありません。2月下旬から3月いっぱいのオープン戦の期間まで大体40日ありますが、この間「完全オフ」となる日は1日あるかないかです。

日本のキャンプは大体4勤1休ですから、3、4回は休養日があります。私もオリックス時代、休養日には休んでいました。

メジャーの3月は試合が中心となりますが、午前のトレーニングは一緒です。午後、試合でベンチに座っているだけでも結構疲れます。世の中、楽をして稼げる商売はありません。2月の後半からキャンプを始めても、メジャーの選手は開幕に間に合わせますが、これも前年から着実に体を作っておいて初めて可能になるわけです。

オリックス時代は「オフはオフ」と考えていました。大先輩のなかにもオフはちゃんと遊んで、体作りはキャンプから始めるものという考えがありました。あまりしゃかりきになっているところを見せないのがプロのかっこよさ、という感じもあったのですが、私はメジャーに行ってからというもの、休まなくなりました。もちろん、その舞台裏は見せるものではないでしょうが。

最長のオフは"世界一"後の10日間

一番長く休んだのはカージナルス時代の2006年オフです。このときはワールドシリーズ終了翌日から、まるまる10日間休みました。

この年、ナ・リーグ中地区を制したカージナルスはポストシーズンを勝ち進み、タイガースとのワールドシリーズを制しました。10月27日に本拠地で"世界一"を決めたとき、私はもう限界でした。肉体的には大丈夫でしたが、ずっと張り詰めてきた気持ちの方がすりきれていました。「もう野球はいいや……」

翌日から10日間、私はセントルイスの自宅にこもり、ごろごろして、本当に何もしませんでした。これが私の最長のオフで、ほかの年はシーズンが終わって2、3日するともうむずむずしてきて、体を動かし始めていました。年末年始も「元日だけはお正月のまねごとでもしようか」という程度で、毎日走っていました。

昨今、スポーツ紙などを見ると、日本の選手はオフの始動が早くなりましたし、一層練習するようになったようです。野茂英雄さんが渡米して以来、メジャーこそ実は休みなく練習しているんだ、という実態が伝わってきたことが多少は影響しているような気がします。

日本のプロ野球のレベルアップとともに、選手寿命が延びるという点でも好ましい傾向ではないでしょうか。

(野球評論家)

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