ある日「天才」が目覚める 脳が秘める無限の可能性

2014/12/27 7:00
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日経サイエンス

人間の脳には解明されていない謎が多く、まだまだ不思議がいっぱいだ。私たちが普段使っているのはごく一部だけで、実は自分でも意識しない隠れた天才的な能力が脳に秘められているかもしれない。何らかのきっかけで、それが目覚めることがある。

■頭への衝撃がきっかけ

米国の10歳の少年オーランド・セレルはある日、野球のボールを頭に受けて気を失った。彼はその後、事故後のすべての日についてその日が何曜日であり、どんな天気だったかを正確に思い出せるようになった。経験した毎日の出来事も詳細に再現できる。

コロラド州で企業トレーナーをしていたデレク・アマートは40歳当時の2006年、プールの浅い場所に頭から飛び込んで深刻な脳震盪(のうしんとう)を起こして片方の耳が不自由になった。

外部から脳を電気や磁気によって刺激することによってサヴァンのような優れた能力を引き出す試みも注目されている。画像は経頭蓋磁気刺激のイメージ=AXS Biomedical Animation Studio

外部から脳を電気や磁気によって刺激することによってサヴァンのような優れた能力を引き出す試みも注目されている。画像は経頭蓋磁気刺激のイメージ=AXS Biomedical Animation Studio

退院後、どういうわけか、それまで触ったこともなかったピアノに強い興味を覚えた。彼の頭の中では黒と白の小さな点が浮かび、それをピアノで音符に置き換えられるようになった。彼は現在、作曲・演奏・レコーディングを職業にしている。

これらは「後天性サヴァン症候群」と診断された人たちの例だ。通常のサヴァン症候群は、多くは言語や対人関係などの能力に障害がみられるものの、音楽や芸術、数学、記憶といった分野で並外れた才能を生まれながらに示す。これに対して後天性のサヴァンは、2人の例のように、事故などで頭部に損傷を負い、それがきっかけとなってそれまで全く見られなかった才能が開花するのだ。

なぜこのようなことが起きるのか、詳しいことはわかっていないが、ヒントとなる脳の症例がある。認知症の中でも前頭側頭型認知症(FTD)という病気の患者がサヴァンのような能力を示す例が報告されている。この病気はアルツハイマー病とは違い、侵されるのは前頭葉だけで、脳の他の場所は正常なままだ。

■ブレーキが外れる?

FTDでは特に脳の左前側頭領域と眼窩(がんか)前頭皮質がよく侵される。この2つの領域は後頭部から送られてくる視覚系の活動を抑制する働きをしている。FTDを患うとこうしたブレーキ役が解除され、芸術的な感性が生じるようだ。

また一部の脳領域の活動低下を埋め合わせるように、他の領域の活動が高まることも理由の一つとみられている。

こうした隠れた能力を事故などでなく、人為的に導き出すことはできないのだろうか。その有力な方法と考えられているのが、電気や磁気によって脳の特定の部分を外部から刺激するやり方だ。

オーストラリア・シドニー大学の研究者らは、頭皮から弱い直流電流を流す経頭蓋電気刺激(tDCS)という手法で、被験者にサヴァンのような能力を誘発することに成功した。こうした手法の安全性が確認されれば、能力開発や精神疾患の治療に今後広く使われるようになりそうだ。

(詳細は25日発売の日経サイエンス2月号に掲載)

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