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ノーベル賞有力候補、リチウムイオン電池の「未解決リスク」

2014年のノーベル賞が、日本の技術者や産業界に大きな活力を与えている。

青色LEDの開発で、2014年12月にノーベル物理学賞を受賞した3人の日本人技術者(共同)

従来は基礎研究を重視する傾向があったが、青色LED(発光ダイオード)の受賞のように、実社会への影響度などを考慮する傾向が強まっているからだ。ノーベル財団は「世界の電力消費の4分の1は照明用に使用されているので、LED照明は地球資源の節約に貢献している」とのコメントを発表した。技術の実用化が得意な日本で"受賞ラッシュ"が起きるのではという期待が高まっている。

その点で、注目度が高いのがリチウム(Li)イオン電池だ。日本の技術者たちが基本原理を発明しており、長らく「受賞の可能性あり」とみられている。2014年2月に元ソニー技術者の西美緒氏と旭化成フェローの吉野彰氏ら4名は、「工学分野のノーベル賞」と呼ばれる「チャールズ・スターク・ドレイパー賞」を受賞した。

実際、リチウムイオン電池の実用化なくしては、小型のノートパソコンやスマートフォン(スマホ)の普及、そして電気自動車(EV)の台頭はなかったと言える。EV専業の米テスラ・モーターズのイーロン・マスクCEO(最高経営責任者)は、「当社のEVには日本の心が入っている」と日本の電池技術への賞賛を惜しまない。

繰り返されるトラブル

ただ、そんな雰囲気に水を差すのが発火などのトラブルだ。「ノーベル賞の審査委員たちも未だにトラブルが続く技術に賞を与えづらいのではないか」との声が、電池業界関係者の間で上がっている。もちろん実際の審査過程に影響があるのかは分からないが、トラブルがつきまとう技術に賞を与えることは、ノーベル賞の信頼性にも関わってきそうだ。

リチウムイオン電池がソニーと旭化成などによって初めて実用化されたのは1991年。繰り返し充放電できる2次電池として、従来のニッケル・カドミウム(Ni-Cd)電池やニッケル水素(Ni-MH)電池よりも高いエネルギー密度を持つため、携帯機器を中心に採用が広がった。しかし、その高いエネルギー密度は、異常発熱や発火といった"負の側面"ももたらした。

2006年には携帯電話やノートパソコンに搭載されたリチウムイオン電池のトラブルが相次いだ。例えば、ソニーエナジー・デバイス製の電池を搭載したノートパソコンが発火事故を起こし、同社が世界で約960万個を回収する大きな事態に発展した。

最近では、米航空機大手ボーイングが鳴り物入りで投入した新型機「787」に搭載したジーエス・ユアサコーポレーション(GSユアサ)製リチウムイオン電池が、2013年1月に発火事故を起こした。

2013年1月16日に高松空港に緊急着陸したANA692便のボーイング787型機。山口宇部空港を離陸して羽田空港に向かっていたが、リチウムイオン電池から煙が上がって緊急着陸した

2013年6月には、三菱自動車がプラグインハイブリッド車(PHV)「アウトランダーPHEV」のリコールを実施した。同車に搭載したリチウムイオン電池で不具合が発生したためだ。

また2014年11月には、ノートパソコンに搭載されたパナソニック製リチウムイオン電池で発火事故が報告され、同社はリコール(回収・無償修理)している。

本当の事故原因が分からない

大規模な調査からも、リチウムイオン電池の扱いの難しさが分かる。米運輸安全委員会は2014年12月、ボーイング787の発火事故の最終報告を発表した。セルの1つが内部でショートし、連鎖的に異常な高温となる「熱暴走」を起こしたと指摘した。それでも、ショートが起きた原因は特定できていない。2014月12月に発表した国土交通省の調査結果でも、ショートの詳しい原因を明らかにしなかった。

規格はどうなっているのか。日本には電池工業会が定めたSBA規格と日本工業規格(JIS)などがあるが、事故原因の一つと考えられているショートを評価する試験は少ない。

独自に安全認証を取得するメーカーも

こうした状況から、規格以上の安全性を追求するメーカーもある。

電池専業のエリーパワーは、規格では求められていない電池への釘差しや銃撃などの過酷な試験を実施し、安全性を確かめている。電子機器などを認証するドイツの機関、テュフ・ラインランドの安全認証を取得している。

エリーパワーも、実験段階では自動車に載せた蓄電池の火災などを経験した。そうした経験から、電極材料にリン酸鉄リチウムを選ぶなど安全性を最優先する設計を確立した。河上清源取締役は、「電池システム全体で安全性を確保する考え方があるが、電池セル単体から安全性を確保することが大事だ」と指摘する。

エリーパワー製よりもエネルギー密度が高い製品はあるが、同社製は安全性が評価され、米ナスダック上場の米エンフェーズ・エナジー(カリフォルニア州)と戦略的提携を結んだ。

2015年以降、欧州自動車メーカーなどがPHVの投入を増やし、それに搭載されるリチウムイオン電池の出荷量は増えていく見込みだ。EVやPHVが普及すれば、自動車の環境負荷は確実に低減されるが、リチウムイオン電池の「発火リスク」がなくなったわけではない。業界を挙げてより一層安全性を高めることが、普及を拡大する条件になるし、それがノーベル賞受賞という福音をもたらすかもしれない。

(日経エコロジー 大西孝弘)

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