秀作和書を電子書籍で世界へ 翻訳ビジネスに新風

2014/12/19 12:33
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日本語で書かれた小説やコミックを翻訳し、電子書籍として海外市場へ安定供給しようとする動きが出てきた。翻訳エージェンシー事業を手掛けるクリーク・アンド・リバー社(C&R)が19日、米アマゾン・ドット・コムや米アップルなど欧米各国の大手電子書店を通じて、宮部みゆき氏の代表作「模倣犯」の英語版を一斉に発売。同時に、海外の人にも受け入れられやすい「隠れた名作コミック」10作品約100巻分も順次売り出す。

現在政府は日本の文化を世界市場へ売り込むクールジャパン戦略に力を注ぐ。ただ書籍に関しては権利処理や出版業界の慣行が障壁となり、大物作家の小説や以前から知名度の高いコミックが英語版や中国語版として一部流通するにとどまる。新たな流通基盤を通じて日本人作家が世界進出する体制が整えば、コンテンツの幅が広がりクールジャパンの持続的発展にもつながりそうだ。

■タイトルも装丁も現地仕様に

宮部みゆき「模倣犯」の英語版が19日に欧米で発売

宮部みゆき「模倣犯」の英語版が19日に欧米で発売

「翻訳には半年以上かけて、その質には徹底的にこだわった。タイトルも装丁も日本版から大胆に変えた」。C&Rで新事業を担当する川口比呂樹セクションマネージャーはこう語る。累計400万部を超えたベストセラーの「模倣犯」は、直訳すると「Copycat(コピー・キャット)」。ただ英語版の刊行に際して、タイトルは「PuppetMaster」(人形遣い)とした。「人間を人形のごとく弄ぶ冷酷さや残忍さ、悪賢さを描いた本作品の本質を、海外の人に正しく伝える必要があった」(川口氏)ためだという。

装丁もがらりと変え、米国在住のイラストレーター村尾亘氏に依頼し欧米の文化に溶け込みやすいような配慮もある。C&Rは自ら翻訳本の輸出専門の出版社となり、アマゾンやアップルなどと交渉。さまざまな電子書店を通じて海外に配信する体制を整えた。アマゾンの場合、米国のほか、英国、フランス、イタリア、ドイツ、カナダ、スペイン、オーストラリアが対象。今後扱う書籍は、開拓した販路を通じて同様に供給していくことになる。

肝心なのは各電子書店に対して、旧作品ではなく新作として売り込んでいく点だ。「どんなに国内でヒットした過去の秀作でも、それを知らない海外の人には新しい作品との出会いとなる」(川口氏)。模倣犯なら、現在海外のアマゾンなどでヒット中のミステリー作品に真っ正面からぶつける。川口氏は「日本の最新の最高にクールな作品として大々的に販促していく」と鼻息が荒い。

来年以降扱うコミックは、SF系の寺沢武一氏「コブラ」、少女系のいがらしゆみこ氏「薔薇のジョゼフィーヌ」、ホラー系の矢野健太郎氏「邪神伝説シリーズ」、自動車レース系の六田登氏「F」、アクション系の小池一夫氏「クライングフリーマン」などがある。いずれも各ジャンルでは根強いファンがいて、過去の作品ながら内容には定評があるものばかりだ。今後、新しい需要をつくって育てられる作品かどうか慎重に見極めたという。

クリーク・アンド・リバー社は「KAORI」プロジェクトで日本人作家が世界進出する体制を整える

クリーク・アンド・リバー社は「KAORI」プロジェクトで日本人作家が世界進出する体制を整える

既に小説の第2弾の翻訳も決まっており、京極夏彦氏の「巷説百物語」で来春までに売り出す。「真夏の方程式」を含む東野圭吾氏のガリレオシリーズ4作品の版権を中国の出版社に売り込んだ実績を生かし、現在さまざまな作家と積極的に交渉している真っ最中だ。約20名の翻訳家を組織化し、迅速に翻訳エージェンシー事業に臨む体制も既に整えた。必要に応じて国内の出版社も交えた協議も行う。こうしたノウハウを蓄積し、出版業界全体で海外への販路開拓が円滑に進むよう後押ししたい考えだ。

電子書籍の制作から各国の電子書店への取り次ぎ、そして課金まで一気通貫で行うC&Rのようなビジネスが根付けば、日本人だけが親しみ楽しんできた秀作が世界の隅々にまで広まっていく機運も自然に高まる。同社は一連のプロジェクトを「KAORI」と名付けた。その名の通り、本質的な意味で和の文化の「薫り」が輸出できれば、作品の売り上げが日本に環流する生態系(エコシステム)ができあがる。10年ほど前にハリウッドで流行した「ジャパニーズホラー」のようなブームをうまくつくり出せれば、映画化で生まれる副次的な経済効果は巨大なものになる。

(電子報道部 高田学也)

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