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銀盤ファンタジア 羽生のジャンプ、自然体だから美しい

プロスケーター 太田由希奈

 どこまで強くなるのだろう。フィギュアスケート男子の羽生結弦(ANA)は、グランプリ(GP)ファイナル(14日まで、スペイン・バルセロナ)で2位以下に30点以上の大差をつけて連覇を果たした。11月の中国杯で他の選手と衝突するアクシデントを乗り越えての栄冠に、羽生の底知れぬ才能と精神力を改めて感じた人も多いだろう。演技の中でも鮮やかだった4回転などのジャンプについて、プロスケーターの太田由希奈さんは「自然体だから美しい」と解説する。

2種類の4回転、高さもキレも

GPファイナルの羽生選手は本当に素晴らしかった。今季世界最高となる288点台の得点が出たのはジャンプ、スピンなど一つ一つの要素に出来栄えによる加点がたくさんついたからこそ。特にフリーの冒頭で決めたサルコーとトウループの2種類の4回転ジャンプは高さもキレもあって、見ている人たちを魅了したのではないか。

ショーなどで一緒になったときに感じるのは、羽生選手のジャンプは本当に自然体で跳んでくるということ。スピードに乗ってスーッと静かに滑ってくるので、これから跳ぶぞという雰囲気があまりない。ナチュラルにスケートに乗ってきて、そのまま軽やかに伸び上がる。

ジャンプする前に数秒じっくりためてから跳ぶ選手も多いが、それだと見ている方も「今から跳ぶぞ。成功するかな」と構えてしまう。でも、羽生選手は全く力みなく、何事もなかったように4回転を跳ぶので、見ている方もビックリしてしまう。「すごいな。きれいだな」と感じるのは、こうした自然の流れの中で鮮やかにジャンプを成功させるからだろう。

GPファイナル男子シングルの結果
SPフリー合計
羽生結弦
(日本)
94.08194.08288.16
フェルナンデス
(スペイン)
79.18174.72253.90
ボロノフ
(ロシア)
84.48160.05244.53
コフトゥン
(ロシア)
87.02155.25242.27
無良崇人
(日本)
78.35157.02235.37
町田樹
(日本)
87.82128.31216.13

技と技との間のつなぎの部分成長

もう一つ成長しているなと感じたのは、技と技との間のつなぎの部分。音の取り方だったり、スケーティングのきれいさだったり、フリーレッグ(氷についていない方の足)の位置だったり……。今年2月のソチ五輪のときはフリーの後半でバテも見えたが、今季はそうしたこともなく、細かいところまで気配りしているところが見て取れた。特にスケーティングの最も基本となるクロス(足をクロスさせる動作)がしっかりと深く入っていて、氷へのタッチがとてもきれいになった。

スケーティングの際、うまい選手ほど滑る音がほとんどしない。今年引退した高橋大輔選手も氷へのタッチが素晴らしかったが、羽生選手のスケーティングも本当に上達している。かつての日本のエースから新エースへ。長所がしっかり受け継がれているな、と感じた。

つなぎの部分が美しくなったからこそ、今の羽生選手のプログラムは一枚の完成された絵のようだ。ジャンプ、そしてまたジャンプといった具合に単に要素をつなげているだけでなく、演技の中でジャンプやスピンが入ったり、スケーティングで見せたり、そして少し踊ったり……。そうした一連の流れがスムーズに、そして印象的に演じられている。

試練をバネに一段と成長

11月のGPシリーズ中国杯ではフリーの前の6分間練習で中国選手と激しく衝突するアクシデントがあった。だが、そうした試練を逆にバネにして羽生選手は、一段と成長したと思う。持っている能力も別格だが、それに努力も加わって、メンタル面の強さもある。ブライアン・オーサー・コーチや周りのスタッフも、羽生選手が常に向上心を持つようにうまく指導していて、それで足踏みすることなく順調にステップアップしているのではないか。

もちろんまだ課題はある。フリーの最後のジャンプで転倒したように、今季は3回転のルッツジャンプが決まりづらくなっている。跳び急いで体が開いたり、前傾になってジャンプの軸がゆがんでしまったりしている。本人もこうしたことは十分に自覚していて、年末の全日本選手権(25日から、長野)では修正を試みてくるはずだ。五輪王者として、羽生選手がどこまで完璧な演技を見せてくれるかは、全日本選手権の大きな見どころの一つだ。

町田の演技、作品全体にインパクト

町田樹選手(関大)と無良崇人選手(HIROTA)は、GPファイナルで本来の力を発揮できなかった。ショートプログラム(SP)で2位と好発進した町田選手はフリーで失速して6位に。その後のインタビューで「プログラムは偉大だから」と口にした言葉は非常に印象的だった。

ベートーベンの「第九」に乗って演じる今季のフリーのプログラムは本当に高度なもので、滑り込んでも、滑り込んでも、完璧に演じるのは難しいのかもしれない。

町田選手の良いところを挙げると、プログラムにバレエ的な要素が数多く入っていて、一つ一つの動きがとてもきれいだ。ダンスをしている人が「町田選手の演技が好き」と評価するのをよく耳にする。芸術とスポーツの融合でもあるフィギュアという競技で、町田選手は芸術の方にも重きを置いているスケーターだと思う。

ファンの人たちは試合を見ていて、「この選手のあのジャンプがすごかった」といった印象を持つはずだ。だが、町田選手の演技を見た人は、そうしたピンポイントの演技ではなく、「プログラム全体が素晴らしかった」という感想を持つだろう。演技を振り返って、作品全体がインパクトを持つ選手なのだ。ジャンプを跳んで何点、何点と得点を積み重ねていくスケーターもいるが、そうした選手とはちょっと違った味がある。町田選手のようなアーティスト系のスケーターも、フィギュア界にもっと出てきてほしい。

無良、力強いジャンプが持ち味

無良選手はGPファイナルのフリーで2本の4回転ジャンプを組み込んだように、力強いジャンプが持ち味。体格もアスリート系で、パワフルな演技をする。まだつなぎの部分の得点が低いが、こうした点が改善されればもっと高得点が望めるだろう。無良選手にとってファイナルのような大舞台は初めてで、いい経験になったのではないか。

今の日本の男子フィギュア界はこうした3人の個性の違うスケーターが引っ張っている。若い選手たちにとって憧れの対象となる選手が多数いて、いろいろな方向性を目指せるので、とてもいいことだと思う。

今年83回目となる年末の全日本選手権は、独特の雰囲気があって緊張するもの。その緊張を逆に力に変えていける選手、どんな状況の中でも自分に集中できる選手が栄冠を手にできる。

11月末のGPシリーズNHK杯で優勝した村上大介選手(陽進堂)のように、思いもしない選手が頭角を現すかもしれない。今の日本男子はGPファイナルに出場できなかった選手の中にも力があるスケーターはいる。そうした選手を一堂に見られる全日本選手権は楽しみだ。

 おおた・ゆきな 1986年11月生まれ、京都市出身。2003年世界ジュニア選手権の女子シングルを日本勢で10年ぶりに制し、シニアデビューとなった04年四大陸選手権で優勝。その後、右足首のケガで試合に出場できない日々が続いたが06年に復活。同年、拠点を東京に移し、樋口豊氏の指導を受ける。08年に引退後、プロスケーターとしてアイスショーなどで活躍。明治神宮外苑フィギュアスケートクラブでノービス(小学生)世代の子供を指導し、解説者としても活躍。

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