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子どもは社会の宝 少子化対策、意識改革がカギ

出口治明・ライフネット生命保険会長兼CEO

安倍晋三首相は昨年12月の総選挙に勝利し、安定的に政権を運営するための基盤を手にした。今こそ、中期的な課題に取り組むべきだ。それは人口政策に他ならない。

国立社会保障・人口問題研究所の中位推計によると、わが国の人口は2060年に8674万人と、10年に比べ32%減少する。生産年齢人口(15~64歳)は60年に4418万人と10年比46%減少する。要するに、生産年齢人口が、ほぼ半減してしまうのだ。

画期的な生産性の向上がなければ、国内総生産(GDP)が半分になる。現在の半分のGDPでこの国が維持できるだろうか。「人間の歴史を通して、人口は繁栄、安定、安全と同義だった」(マッシモ・リヴィーバッチ「人口の世界史」)のだから。

従属人口指数では10年の36.1(働き手2.8人で高齢者1人を扶養=騎馬戦型)が60年には78.4(同1.3人で1人を扶養=肩車型)に達する見通しだ。人類5000年の歴史で、1人が1人を支える社会が存立し得た事例は、寡聞にして知らない。

政府も重い腰をあげ、14年6月に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」の中に「50年後の人口1億人を維持する」という人口目標を初めて盛り込んだ。また日本経済研究センターは「出生率の回復には、年8兆円の育児給付が最も効果がある」という提言をまとめた。

ところで、日本は明治維新や戦後の復興を見れば明らかなように、キャッチアップ型の国家運営に秀でている。そして先進国の中には、人口増加の基盤となる出生率を上昇させた国が幾つもある。

例えばフランスの出生率は、過去最も低かった1.66(1994年)から10~15年で2%前後にまで上昇した。おおむねGDP比3%程度と、日本の約3倍の少子化対策予算を毎年計上している。米国を範として戦後の経済復興を果たしたように、人口の回復もフランスに範をとればいい。まず政府は、少子化対策予算を無条件にGDP比3%まで引き上げるべきだ。

それだけではない。フランスの友人に聞いた話では、出生率の回復は予算だけではなく、意識改革が伴っていたからこそ成功した、という。

フランスの文化を守るためには、フランス語を母語とする人口の増加が必要だ。子どもはフランス社会の未来であって社会の宝だ。生まれた子どもは、両親がそろっているかどうかにかかわらず、すべて平等に扱う――という大原則が社会で共有された。

その上で「シラク3原則」と呼ばれる基本政策が実施された。「子どもを産む、産まないは女性固有の権利。しかし子どもを産みたい時と女性の経済状態が一致するとは限らないので、かい離は国家ができるだけ埋めるようにする(子どもをたくさん持っても新たな経済的負担が生じないようにする)」「原則無料の保育支援」「(育児休暇から)職場復帰するときは、育児休暇の間、ずっと勤務していたものとみなして職場は受け入れなくてはいけない」

出産・子育てと就労に関して幅広い選択肢を与える環境整備、すなわち「両立支援」を強める方向で、一貫した政策が進められたことが大きい。婚外子を差別しないPACS(民事連帯契約)も政策パッケージの中に含まれる。この政策パッケージをそのまま輸入してもいいくらいだ。

また、育児も家事も介護も男女両性が等しく分担し、それを社会全体でサポートする社会の出生率が高いことも、十二分に実証されている。そのためには「時間より成果」という考え方に立脚して、日本独特の長時間労働の悪弊をなくしていくべきだろう。

〔日経産業新聞2015年1月1日付〕

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