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エアコン「暖房に不向き」はウソ 正しく使い最強の省エネ

冬に備える家づくり(6)

日経アーキテクチュア
エアコンが暖房に向かないと思っている人は少なくない。もし、あなたが「省エネ」のためにエアコンよりも電気ヒーターや電気カーペットを使っているとしたら、それは明らかに判断を誤っている。最終回は、東京大学准教授の前真之氏が執筆した書籍「エコハウスのウソ」から、「エアコンによる暖房効率」についての解説を掲載する。
(イラスト:ナカニシミエ)

特集「冬に備える家づくり」の第5回で、吹き抜け空間をエアコンで暖房するのは難しいことを示した。しかし、どんな暖房であっても吹き抜けを暖めるのは"大ごと"なので、エアコンだけをバッシングするのはフェアではない。それどころか、エアコンは「究極」の暖房器具なのである。

エアコンの短所と長所を「冷静」に比べてみよう(図1)。

図1 エアコンの長所・短所

短所1は、後述するようにエアコンは外気から熱を奪って室内に投入しているので、外気温度が低ければ熱が取りにくくなってしまうことだ。よって、暖房が一番必要な寒い日にパワーダウンしてしまう。

寒冷地ではこれが大きな問題なので、無理にエアコン暖房を選ぶ必要はない。木を燃やす薪やペレットストーブが良い選択肢になる。しかし、温暖地であればエアコンの電力消費量は目くじらを立てるほどではないし、最近の機種ではかなり改善が進んでいる。

短所2は、高い位置に設置されているため温風が床まで届かないことだ。これは本特集で何度も取り上げてきた欠点だが、冷房メーンとすれば上の方に置いた方が効率的だし、何より邪魔にならない。暖房についても断熱・気密を徹底して部屋を細かく間仕切れば、相当改善することができる。諦めるのはまだ早い。

短所3の空気が乾燥することは、ガスや石油ファンヒーターと比較した場合であるが、実は短所でもなんでもない。ガスや石油ファンヒーターで空気が乾燥しにくいのは、ガスや石油の「排気ガス」に水分が含まれているからにすぎない。エアコンは空気を循環させるだけで、空気を汚染することはまったくない。これは長所4の空気が汚れないことの裏返しなのである。

こうして見ると、エアコンの欠点は暖房としての「快適性」の部分に集中しており、それ以外では利点の方が多いことが分かる。通常は冷房のために付けるものだし、何よりエネルギー効率が非常に高い。その高性能の秘密を少し探ってみることにしよう。

エアコンの心臓「ヒートポンプ」

エアコンは少ない電気でたくさんの温熱をつくることができる。エアコン本体のラベル(写真)を見てみよう。

写真 950Wの電気で5000Wの熱を生む

暖房標準の能力は5.0kW =5000W、電力は950Wである。950W の電気で5000Wの熱がなぜ出てくるのか。答えは、エアコンの心臓を担う「ヒートポンプ」にある(図2)。

図2 ヒートポンプは熱をただ運ぶだけ

ヒートポンプとは、その名の通り「熱のポンプ」。つまり、井戸のポンプが地下から水をくみ上げるように、外の冷たい外気から熱をくみ上げているのだ。エアコンの場合、外気の熱は屋外機でくみ上げられ、屋内機から室内に放出される。このヒートポンプの仕組みこそ、エアコンの省エネルギーの高さの秘密なのだ。

なぜ熱をくみ上げると高効率となるのか。それはヒートポンプが「楽な仕事」をしているからである。つまり、「自分で熱をつくっていない」のである。

ヒートポンプの対極にあるのが「電気ヒーター」だ(図3)。ヒーターは生真面目に「自分で熱をつくっている」。だから「1」の熱をつくるのに「1」 の電気を丸々使ってしまう、「要領の悪い」ヤツなのだ。

図3 「要領が悪い」電気ヒーターvs「要領がいい」エアコン

これに対してヒートポンプは、外の空気の熱を室内に「横流し」しているだけにすぎない。なかった熱をつくっているのではなく、すでに外にあった熱を引っ張ってきただけ。言うなれば、ヒートポンプは「熱のブローカー」なのである。

人間の世界では要領が良すぎるのも考えものだが、こと省エネに関しては大歓迎。それに、どうせ熱は外に捨てるほどあるのだ。氷点下の外気であっても、絶対ゼロK(=マイナス273℃)に比べれば十分に「暖かい」ことを忘れずに。

なお、「1」 の電気で「5」 や「6」 の電気が…というとおトクすぎて逆に怪しく聞こえるが、この数字をガスや石油の暖房機器と直接比べるのはお門違いだ。実は発電所では燃やした燃料の37%程度しか電気にならないので、この発電所で燃やした燃料のエネルギーで考える方がフェアである。これを「1次エネルギー換算」と呼ぶ。

1次エネルギーで考えたとしても、エアコンの場合は発電所で燃やした燃料の約2倍の熱を移動させることができている。ガスや石油の暖房機器では燃料の熱量分、つまり「効率100%以上」は絶対にできないのだから、やはりエアコンにはかなわないのである。

「風量控えめ」は省エネにあらず

エアコンが処理できる熱量は、流量と温度差の積に比例する。

処理できる熱量∝風量×温度差

エアコンで暖房するためには、風量か温度差の少なくともどちらかで熱量を稼がねばならない。「風量を稼ぐ」ためにはファンを目一杯回すことになるが、これにかかる電力はごく少ない。「温度差を稼ぐ」、つまり暖房時に「より熱い」熱をつくる方がずっと大変で多くの電力が必要になるのだ。つまり、エアコンは「風量で稼ぐ」のが省エネになる。

エアコンの風量を「控えめ」にすることが省エネになると思っている人が依然として少なくないが、風量は控えめでも「電力は控えめではない」ので要注意だ。それに風量を絞れば温度で稼ぐために温風が高温になり、「熱すぎて乾燥する」リスクも大きくなる。風を許容できる範囲でほとほどに吹かせる、実際には「風量自動」にしておくのが一番良い使い方である。

小型2台で柔軟な運転

最後に、エアコン暖房を上手に効かせるレイアウトを考えてみよう。もちろん、外皮(外壁、床、屋根、天井、窓など)の断熱・気密は十分に取り、必要に応じて間仕切りができる空間構成にすることはしっかりとやっておきたい。それでも、LDK など間仕切りが難しい広い空間は残ってしまう。そうした大空間には、どのようにエアコンを設置するべきか。

実は大きな部屋に大きな暖房能力を持つエアコンを1つだけドーンと置いたとしても、空調範囲は十分に広がらない。LDKのように広い空間を空調するには、小型のエアコンを2 台設置する方がよい。

少しだけ暖房する時は1台だけ、しっかり暖房する時には2台運転などと、柔軟な運転が可能である。小型2台とすることで、冷房で触れたように高効率の機種を選ぶことも可能になる。まさに「大は小を兼ねず」である。

ここまで述べてきたように、エアコンは温暖地で正しく使えば低コストで最強の省エネ暖房になりうる。毛嫌いせず、その長所・短所を冷静に見極めることが重要である。

前真之(まえ・まさゆき) 東京大学大学院工学系研究科建築学専攻准教授。博士(工学)。1975年生まれ。1998年東京大学工学部建築学科卒業。2003年東京大学大学院博士課程修了、2004年建築研究所などを経て、2004年10月、29歳で東京大学大学院工学系研究科客員助教授に就任。2008年から現職。空調・通風・給湯・自然光利用など幅広く研究テーマとし、真のエコハウスの姿を追い求めている。

(書籍『エコハウスのウソ』の記事を基に再構成)

[参考]「エコハウス」と聞いて思い浮かべる住宅のデザインや暮らし方の多くが、真の省エネにはつながっていない。この事実を、客観的データと平易な文章で明らかにする。日経アーキテクチュアで大きな反響を呼んだ連載「エコハウスのウソ」に新たな問いを加筆し、計28の問いをテーマごとに再構成した。2014年12月15日にKindle版の電子書籍を発売した。

エコハウスのウソ

著者:前真之
出版:日経BP社
価格:2000円(税込み)

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