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顧客データはもう集めない アップルが下した決断

林 信行(ITジャーナリスト/コンサルタント)

2015年はシリコンバレーで新たな議論が巻き起こりそうだ。

火をつけたのは米アップルだ。同社は9月の製品発表イベントで、既に米国で始まっている決済サービス「アップルペイ」の方針として「顧客データを集めない」ことを公言した。これまで世界のビジネス界をにぎわしていた「ビッグデータ」の活用(とそのための収集)というトレンドに逆行する動きだ。

ティム・クックCEO「顧客は我々の商品ではない」

ユーザーのインターネット上の行動を計測可能にして製品・サービスの改善に役立てる手法が常とう手段として広まっている。しかし、アップルは故スティーブ・ジョブズの存命中から、スマートフォン(スマホ)「iPhone」のアプリなどにしても分析用のデータの収集に関しては厳しい方針を何度か打ち出している。

米グーグルの「Gメール」は、迷惑メールを振り分けたり、大容量で高機能なメールサービスを支える広告を的確に表示したりするために、メールの内容を機械的に分析している。しかしアップルは、迷惑メールの振り分けはユーザーのパソコンのメールソフトに任せて「のぞき見」はしない方針だ。チャット型のメッセージ交換にしても、グーグルは検索性を重視して履歴をGメールに統合するが、アップルの「iメッセージ」は途中の通信も暗号化し、送信者と受信者しか内容が見れないようにしている。

アップルのティム・クック最高経営責任者(CEO)は米国のテレビ番組に出演し、同社の方針についてこう語った。「我々のビジネスは顧客の情報の上に成り立っているのではない。顧客は我々の商品ではない」「皆、企業がどうやって収益を得ているかを注視する必要がある。お金の流れを見るんだ。そして、もしそれが大量の個人情報を集めることで成り立っているのなら、顧客として心配する権利がある」

EUの司法裁判所「忘れられる権利がある」と判断

これまでインターネットでは、どんな情報でもデータ化され、検索可能になり、まとめられたり、分析されたりしていたが、こうした流れに一石を投じる動きは強まっている。

はやし・のぶゆき 最新の技術が生活や文化に与える影響を23年にわたり取材。マイクロソフトやグーグルのサイトで連載を執筆したほか、海外メディアに日本の技術文化を紹介している。東京都出身。

今年の5月、欧州連合(EU)司法裁判所は人には「忘れられる権利」があると判断した。自分の過去の債務記録へのリンクの削除を求めていたスペイン人男性が勝訴し、グーグルはリンクを削除することとなった。欧州委員会のビビアンヌ・レディング副委員長は「忘れられる権利は人々を守り、ネットへの信頼を高めることにつながる」と語る。

これからは「モノのインターネット(IoT)」やウェアラブル端末などの機器が、我々の生活に深く潜り込んでくる。集めようと思えば、毎日何時に起きて、どんな場所でどのように時間を過ごしていたのかまで記録できてしまう。スマホなどでは、こうした個人情報の収集は最初は無効になっており、ユーザーが許可した場合のみ集めるようになっている。

位置情報などの個人情報をスマホに与えることで、ユーザーは近くにあるお店や友人を発見できたり、たまりすぎた写真を地図から探せたり、など利便性を享受できる。だが、プライバシーと便利さのバランスの基準は人によってそれぞれだろう。

IT系企業は、これまで一方的に個人情報を集めるばかりだったが、あえてそれをしないことをセールスポイントにするやり方もある。アップルに続く企業は少なくなさそうだ。

[日経産業新聞2014年12月16日付]

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