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イチローら日本勢の移籍、水面下で駆け引き激しく

スポーツライター 丹羽政善

ニューヨークの野球記者らは、毎日のように頭を抱えていた。

今年、大リーグの球団首脳ら関係者が一堂に会するウインターミーティングが行われたのは、西海岸のサンディエゴ。ニューヨークとは3時間の時差がある。午前0時が彼らの原稿締め切りだとすると、サンディエゴでは夜9時。しかし今回はその時間をすぎてから、毎日のように大きな動きがあった。

残留と書いたロバートソンが移籍合意

初日(8日)の夜、ヤンキースからフリーエージェント(FA)となったデービッド・ロバートソンがホワイトソックスと合意した、という一報が流れたのは、午後9時半すぎ。直後からヤンキースの番記者らは慌ただしくキーボードをたたき始めたが、もう翌朝の新聞には間に合わない。ウェブサイト用の速報記事だった。翌日、友人記者の一人は弱々しく言っている。

「新聞には、ロバートソンはヤンキースに残留する可能性があると書いてしまったのだから、情けないよ」

彼を責められない。その日夕方まで、確かにヤンキースがロバートソンとの契約交渉で優位に立っているとみられていた。ホワイトソックスはヤンキースのオファーに1000万ドルを上乗せして、今季39セーブのクローザーをさらったのだ。

ドジャース、19人絡むトレードが成立

カブスの番記者らは、休む間がなかった。

8日朝、先発のジェーソン・ハメルと契約を交わしたというニュースを皮切りに、夜にはダイヤモンドバックスから過去2度オールスターに選ばれたミゲル・モンテロ捕手をトレードで獲得するという噂が流れ、9日午後に確定。同午後10時すぎには、今回のウインターミーティングで最も行方が注目されたジョン・レスター投手がカブスと合意と報じられ、カブス担当の記者らは深夜をすぎてなお、仕事に追われていた。

ただ、もっとも大変だったのはロサンゼルスの記者か。

ドジャースは14時間の間に、4チームと計19人が絡むトレードを成立させ、その間にFAだったブランドン・マッカーシー投手とも基本合意したのだから、整理するだけでも神経を使ったはず。トレードはしかも、マット・ケンプ(2011年に本塁打と打点の2冠)、ディー・ゴードン(14年、64盗塁で盗塁王)、ジミー・ロリンズ(07年、ナ・リーグMVP)といった大物が絡んでいたのだから、息つく間もなかったのではないか。

日本人FA組と鳥谷、契約成立ならず

対照的だったのは、日本人選手の動きだ。

イチロー、黒田博樹(ともにヤンキースからFA)、青木宣親(ロイヤルズFA)、藤川球児(カブスFA)、川崎宗則(ブルージェイズFA)の5人に加え、新たに鳥谷敬(阪神FA)が日本からの移籍を目指しているものの、いずれも契約成立には至らなかった。

10日夕、レンジャーズのジョン・ダニエルズ・ゼネラルマネジャー(GM)が、「右のベテランリリーフ投手と近いうちに契約するだろう」と話し、それが12日になって藤川のことだと判明したが、イチロー、青木、鳥谷、川崎は未契約のまま。黒田にいたっては、現役続行かどうかも判明していない。

相変わらずそれぞれの去就は不透明だが、イチローに関していえば、代理人のジョン・ボグズ氏がウインターミーティング初日に取材に応じ、そのときの言葉をたどると交渉姿勢はうかがえる。

まず、イチローをめぐる市場についてこう語った。「今、チームは方向性を定めようとしている。誰を必要としているのか固めようとしている。その後、市場は動き始める」

実際には市場は激しく動いている。それでもまだ、外野手全体には及んでいないということか。その一方で、「10分後にひょっとしたら誰かが電話をしてきて、イチローに興味があるんだが……と言ってくるかもしれない」と話すなど、早期決着もにおわせた。

イチロー、チームへの好影響も売りに

希望するチームに関しては、「彼のことをレギュラーと見なしていないチームに行くことはない」とはっきりと線を引き、「最悪のケースでも(キャンプで)レギュラーを争う権利を与えられるチーム」とした。

例えば、ヤンキースと再契約をするとしたら、控え外野手という役割が前提。そういうチームではなく、最低でもキャンプで争わせてもらえることが条件のよう。結果として第4の外野手になるなら仕方がないが、あくまでも他の候補選手と同じスタートラインに立てることを求めていくことを明確にした。

アピールポイントの一つとして、戦力ということに加え、「イチローのような選手と一緒にプレーできたら、多くを学ぶだろう」と、チームへの影響力を挙げている。「チームが再建中であるとか、勝てるチームであるとか、といったことに関係なく、どのチームもイチローから得るものがある。さらに彼はプレーを続けたいという強い気持ちを持っている。私だったらチームに加えたい。どのチームもそう考えているはずだ」

そういえばシーズン終了後、メッツの担当記者が、同じような視点から記事を書き、メッツにイチロー獲得を迫っていた。目に見えないプラス作用があると。果たして各チームは、どう評価するのか興味深い。

イチローの代理人、精力的に動く

話は変わるが、ボグス氏とは初対面だった。一つ一つのコメントから誠実な印象を受けたが、こんなこともあった。

並んで歩きながら話を聞いているときのこと。彼のもう一人の日本人クライアントである加藤豪将(ヤンキースマイナー)の話題になり、ウインターミーティングの会場で見かけたと伝えると、「体が大きくなっただろう」。実際15キロほど体重が増えたそうで、ボグス氏が続けて言うには「6週間ぐらいであんなに増えたんだ。見違えたよ」。

それなりに大物代理人ともいえるボグス氏が、加藤と度々顔を合わせていることに少々驚いた。同じサンディエゴに住んでいるとはいえ、加藤はまだ1Aのマイナーリーガーにすぎないのだ。

ただ、加藤もこう話していた。「彼は、細かいことにもすぐに対応してくれる」。そこにはボグス氏の人となりが透ける。同氏はウインターミーティングでも精力的に動いていた。ほとんどすべてのチームと接触し、イチロー獲得の意思を探ったもようだ。

イチローしかり、おそらく他の日本人メジャーリーガーしかり。今年のウインターミーティングは「アグレッシブ(積極的)」などと形容されたが、表面上は穏やかだった日本人選手の交渉も、水面下ではやはり激しい駆け引きが交わされていたようである。

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