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金銭紛争なくなる? プログラムが契約管理する未来

「スマート契約」の衝撃

当事者同士のお金のやり取りはトラブルがつきもの。だが「ブロックチェーン」と呼ばれるデータベースの登場でその心配がなくなる時代が来る。信託銀行や弁護士などの関与を極力排し、契約の厳密な管理をプログラムに委ね、当事者間で完結する「スマート契約」のプロジェクトが次々に生まれている。「信託」や「司法」のコストが大きく下がる可能性がある。

取引データ残る「仮想通貨」 改ざん難しく

「ビットコインはクール」。ボストンの17歳の高校生ジェイミー・ヤング氏は今年、同級生らとベンチャー、パビリオン・アイオーを創業した。「ネットで注文した商品が届かなかったことが創業のきっかけ」と笑う。17歳の若き創業者がやろうとしているのは、意外に高度なビジネスだ。

買い手がモノを注文して料金を支払い、商品が引き渡されるまでに時間がかかる取引は多い。住宅など不動産などがその典型だが、最近ではネット通販やオークションが国境を越えて広がる。注文から納品までの間、料金を預かり、契約が履行されれば売り手に渡し、破棄されれば買い手に戻す「エスクロー」というサービスが盛況だ。

日本では商品の受け取りが確実な手段として「着払い」があるが、運送サービスがそれほど緻密でない米国では、エスクローを使った「受け取り後決済」が浸透してきている。

パビリオンはビットコインのデータ記録の仕組みを使い、ネットでの商品の買い手が確かに受け取ったとの情報を送った瞬間に支払われるサービスを開発した。エスクロー業務を省いて手数料を引き下げるだけでなく、手続きが早まり不正も減る効果がある。パビリオンは米ネット通販大手イーベイなどに技術を販売しようとしている。

ビットコインは口座間の取引を暗号化し、コンピューター間で情報の整合性を確認しながら順次取引データを記録していく。この「ブロックチェーン」と呼ばれる仕組みは改ざんが難しい。ネット上の公開記録サービスとして機能するので信託サービス「エスクロー」の代わりに使えるわけだ。

サムソンなど実用化に着手

こうした契約履行の確認をブロックチェーンによってデジタル化し、支払いと連動させる仕組みは「スマート契約」と呼ばれる。トラブルを防止でき、改ざんが難しい暗号化技術を使うことで、当事者間で厳密な公式記録を残すコストが劇的に下がる。仲介サービスを使うコストや訴訟リスクも減らせる。

スマート契約の実用化に乗り出したのは高校生だけではない。韓国サムスン電子は今年から米IBMのテキサス州ダラスの部隊と共同でブロックチェーン技術を応用した電化製品の開発プロジェクトを始めている。たとえば料金を払わないと自動で瞬時に使えなくなる鍵などだ。レンタカーや賃貸住宅向けに販売する可能性を探っている。

煙探知機、簡易監視カメラ、ドア、室内灯などベンチャー企業を中心に多くの家電製品がネットと接続し、スマートフォン(スマホ)などから遠隔操作できる「スマート製品」に進化してきた。サムスンはこうした製品でリビングルームの覇権を狙うだけでなく、先端の暗号化技術を使ってそれらを法人向けビジネスに応用しつつある。

IBM幹部のガービンダ・アルワリア氏は「身の回りのモノや資産を他人に貸し出しやすくなってきた。ブロックチェーンで身の回りの小型端末をつなぎ、新しい市場をつくる」と意気込む。スマホの普及により、自動車や住宅、駐車場など他人の資産をスマホを通し簡単に借りられる。所有からシェアへ生活スタイルが変化し始めている。今後増えそうな支払いトラブルを抑える技術が求められている。

スマホによる遠隔操作で開閉できるカギを販売する米ベンチャー、ロッキトロンのポール・ジェラード最高執行責任者(COO)もこの新市場に注目する一人だ。「不動産業界などとの連携を計画している。技術は確立されているが社会的な仕組みづくりにもう少し時間がかかる」とみる。

契約の履行・督促ビジネスに大きな影響

米ベンチャー、エセリウムはスマート契約に特化したプログラムの開発を進め、来春をめどに本格的な運用を始める計画だ。この仕組みでは契約の条件を厳密な命令言語であるプログラミング言語に落とし込んで決める。履行時期や基準などで契約上の言葉の曖昧さを極力排し、係争の種を減らす狙いだ。金融機関向け海外送金決済を支援する米有力ベンチャー、リップルラボでもスマート契約のプロジェクトが進む。

米ベンチャー、コミュニティエンジニアリングサービスの創業者ダン・ロブレス氏はスマート契約を結んだ上で、工期や工程管理をリスト化して契約条件を満たしたか確認しブロックチェーンに記録していくプロジェクトを進めている。工事関係者の質が分かるデータベースをつくる。建設業界では日常茶飯事の工事の仕上がりを巡るトラブルをスマート契約で減らす狙いだ。

暗号化技術が生み出したスマート契約の普及はまだこれから。だが、物流から建設・不動産まで公式記録、契約の履行、督促などに関連があるビジネスに携わる人々に大きな影響を与えうる革命的概念であるのは間違いない。

(シリコンバレー=兼松雄一郎)

[日経産業新聞2014年12月15日付]

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