ルンバの頭脳はマイコン1個 軍事が鍛えたロボの中身
柏尾南壮 フォーマルハウト・テクノ・ソリューションズ ディレクター

Roomba初号機は2002年に発売された。iRobotの創業は、そこから10年以上さかのぼる1990年のことだ。マサチューセッツ工科大学(MIT)の人工知能研究室出身で、現CEO(最高経営責任者)のColin Angle氏が中心になって設立した。
1996年、iRobotは地雷探知ロボットを開発する。探知機能を持った同社のロボットはその後、2001年9月11日に米ニューヨークで発生した同時多発テロで瓦礫(がれき)に埋もれた被災者の捜索、それに続く第二次湾岸戦争での地雷や即席爆弾(IED)の発見に活躍した。
福島第一原発でも放射線量や温度・湿度を測定する目的で利用されている。iRobotのWebサイトには「Defence & Security」という項目があり、これらの分野に向けたロボットを紹介している。
搭載電子部品の単価は「高くない」
上記のような用途では、爆発によって機体が吹っ飛んだり、一部が失われることが「現実の問題」としてある。このため、堅牢でありながら必要最低限の構造と部品でミッション(使命)を達成できる安価な製品を開発する必要があった。地雷探知ロボットを入手して分解することはできないが、同じルーツを持つRoombaの分解調査の結果から、筆者は「おそらくそうであろう」と推測している。

Roomba 871の上部カバーを外すと「T」字型の基板が出てくる。長方形の基板2枚が一部重なった状態で配置されているため、このように見える。


驚くべきことに、部屋の形状や障害物を読み取ってきれいに掃除してくれるロボットの頭脳は、伊仏合弁のSTMicroelectronics(以下、STMicro)製の32ビット・フラッシュマイコン1個だ。
他に電圧を比較するコンパレーターや信号増幅装置など、ディスクリート(単一機能を有する素子の総称)半導体製品や受動部品が多く使用されているが、それらの単価は低い。搭載された電子部品の原価は高くはないと考えられる。

安価な部品を大量に採用

2枚目の基板には、多数のLED(発光ダイオード)とそれを制御する電子部品が搭載されている。制御用ICと見られる部品は、同じくSTMicro製の8ビットフラッシュマイコンだ。
LEDを別にすれば、残りの電子部品はディスクリート半導体製品と受動部品で占められている。
両方の基板に実装されているディスクリート半導体の数は138個で、受動部品は757個である。部品点数を絞って複数機能を果たす高価なパーツを使うか、部品点数が増えるのは承知の上で廉価なディスクリート品を大量に使うかは、機器設計の悩みどころだ。iRobotは後者を選んだようだ。
段差認識センサーは6個
Roomba 871は、充電式のニッケル水素電池を搭載する。3時間でフル充電状態になり、最大稼働時間は60分間(バッテリー稼働時間は最大90~120分)。バッテリーの耐用年数は3年だ。

市場に投入されて最初の耐用年数を迎えていないため、交換用バッテリーの価格はまだ明らかにされていない。ただし、少し前のモデルの交換用バッテリーは1万円程度で販売されており、バッテリーは本機を構成する最も高額な部品の1つとみられる。

Roombaは自走するために、2種類のセンサーを内蔵している。いずれも赤外線を利用していると推測される。
1つは段差を認識する「Cliff Sensor」で、本体側面に下向きに6個搭載されている。乗り越えられる程度の段差と、そのまま進んだら転げ落ちてしまう階段を見分けているのだろう。

もう1つの赤外線センサーは壁を検出する。2個で1組になっており、6組で計12個が搭載されている。戦場で活躍する機体であれば、これらに加えて各種カメラや金属探知機、ロボットアームなどを搭載。さらに、そうした部品を含む重量を高速で移動できるよう、強力なモーターを積んでいるのだろう。

我々が日常生活で利用している便利な製品は、そのルーツが軍事技術であったものが少なくない。携帯電話、スマートフォン、それにインターネットがその典型である。
逆に、民間で広く使われていたものが軍事目的に転用されることもある。例えば、戦場の象徴ともいえる鉄条網はもともと、民家や農家の獣や泥棒よけであった。民生品と軍用品は常に隣り合わせで、お互いの進歩を助けてきた。

[日経テクノロジーオンライン2014年11月17日付の記事を基に再構成]