「APECブルー」いつ戻る 中国、脱石炭への険しい道 - 日本経済新聞
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「APECブルー」いつ戻る 中国、脱石炭への険しい道

編集委員 後藤康浩

 11月初旬、北京には珍しい澄み切った青空が1週間近く続いた。アジア太平洋経済協力会議(APEC)の閣僚会議、首脳会議に合わせ、習近平政権が中国の威信にかけてつくった青空、「APECブルー」だ。だが、閉幕するやいなや北京は微小粒子状物質「PM2.5」が大量に浮遊する鉛色の空に戻り、市民の表情も曇った。中国にとって大気汚染の解決は今や最大の国家目標になっている。

世界の石炭の50%を消費

PM2.5の3分の2以上は石炭起源といわれる。石炭火力発電、産業用や暖房用の石炭ボイラー、石炭輸送用のトラックなど数え始めれば切りがないほどだ。石炭は中国の1次エネルギーの65.7%(2013年)を占め、発電ではその比率はさらに高い。石炭なくして中国の高度成長はなかったといっていい。

中国の石炭埋蔵量は世界の12.8%を占め、米国、ロシアに次ぐ世界第3位。中国にとって供給安定性があり、低コストの理想的なエネルギーだった。それゆえに石炭を支えにした高成長軌道を走ることができた。その結果、人口では世界の20%の中国が世界の50%の石炭を消費する"石炭依存症"に陥り、大気汚染にさいなまれるようになった。

今、中国で経済について最もよく使われる言葉は「新常態(ニューノーマル)」だ。財政によるインフラ建設と不動産バブルを"けん引車"とする高成長時代は終わり、成長率の低下と成長内容の健全化という新しい現実を直視しよう、という呼びかけである。

エネルギー分野における新常態は石炭依存症からの脱出である。最近、中国のエネルギー関係者がしばしば口にするのは「石炭のピークアウト」。中国の石炭消費が伸びを止め、減少に転ずる時が近づいているとの指摘である。

李志東・長岡技術科学大学大学院教授は「20年までにピークアウトする」との分析を示す。その原動力は、天然ガスや原子力発電、再生可能エネルギーなどの拡大とエネルギー利用の効率化すなわち省エネである。

裾野の広い石炭産業、どう軟着陸させるか

中国国家エネルギー局は20年には1次エネルギーに占める石炭の比率を62%以下に引き下げ、非化石エネルギーの比率を13年の9.8%から15%へ高める目標を掲げる。

発電分野で個別にみれば、原子力発電を現在の発電能力1902万キロワットから20年に5800万キロワットに拡大。20年には風力発電を2億キロワット、太陽光発電を1億キロワットまで増強する。天然ガスも供給能力を倍増させる計画だ。

一時、米欧市場への輸出がダンピング提訴などで停滞し、過剰生産で経営危機に陥っていた中国の太陽光発電パネルメーカーの業績がここに来て、急回復しているが、その背景にはこうした脱石炭政策がある。

これを別の観点からみれば、中国政府の需要創出の軸足が道路、鉄道、工業団地などの土建型インフラ整備からエネルギー供給構造の転換、高度化にシフトしたといえるだろう。脱石炭を経済構造の改善につなげようとする点は、1970年代の2回の石油危機の後、エネルギー多消費産業から経済のソフト化にかじを切った日本をほうふつとさせる。

問題は中小炭鉱から鉄道、トラックなどの輸送分野、火力発電所や設備業者まで裾野の広い石炭産業をどう混乱なく、縮小させていくかだろう。すでに産炭地の内モンゴル自治区、山西省などでは炭鉱倒産や不動産バブルの崩壊で不穏な空気が広がっている。90年代末、朱鎔基首相時代に取り組んだ石炭からクリーンエネルギーへの転換は石炭産業の抵抗で、挫折した。

20年に北京では青空が「新常態」となるかは予断を許さない。

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