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イチローの打撃変化 持ち味のゴロ増すも三振率高く

電子版セミナーでイチローについて語る丹羽氏

ヤンキースで大リーグ14年目を終えたイチロー。レギュラーではなく控えだった今季を「今後の自分の支えになるシーズンだった」と振り返った。10月に41歳となり、打撃にはどんな変化が起きているのか。コラム「イチロー フィールド」の筆者である丹羽政善氏を招いて25日、電子版セミナーを開催。日本経済新聞編集委員の鉄村和之と、ヤンキースからフリーエージェント(FA)となったイチローの行く先などについて話し合った。

葛藤し続けながら戦ったシーズン

鉄村 今シーズンのイチローの印象は。

丹羽 一言でいうなら葛藤でしょうね。開幕戦の場合、前日に先発メンバーが監督から発表されるが、そこにイチローの名はなく、結局その試合で出場機会もなかった。開幕2戦目もスタメンから外れた。そういう中でイチローが口にした「こういう状況に慣れなきゃいけない。ただ慣れてもいいものかどうか」という言葉が印象に残っている。

オフにベルトランとエルズベリーという2人の大物外野手を補強し、その他にチーム生え抜きのガードナーがいる。外野の3つのポジションがすべて埋まってしまっている中で、どう自分であり続けるかを葛藤し続けながら戦ったシーズンだったと思う。

イチローの打率とゴロ率、三振率
チーム打率ゴロ率三振率
01マリナーズ.3507.2
02マリナーズ.32155.18.5
03マリナーズ.31250.79.5
04マリナーズ.37263.78.3
05マリナーズ.30353.68.9
06マリナーズ.32250.79.4
07マリナーズ.35156.310.5
08マリナーズ.31057.58.7
09マリナーズ.35255.610.5
10マリナーズ.31557.411.7
11マリナーズ.27259.99.6
12マリナーズ
ヤンキース
.28350.99.2
13ヤンキース.26252.311.4
14ヤンキース.28457.917.7

鉄村 数字的に見ると、打率は2割8分4厘。2011年以降では最もいい成績だった。

丹羽 マリナーズ時代のように毎年160試合前後、先発で出ていたときに比べると、打席数は半分ぐらい。それで2割8分打ったからといってどうなのか。イチローはいまFAだが、獲得を検討する球団が600打席ではなく300打席での2割8分をどう見るか。評価は割れると思う。

三振率、1年目の7.2%から17.7%に

鉄村 打撃で変化を感じたところはあるか。

丹羽 打率や出塁率といった数字だけでなく、僕なりに注視している指標がある。それはゴロの確率。イチローはその数字が高いほど、打撃成績もよい傾向がある。「ファングラフ」という大リーグのデータを専門に扱っている会社のウェブサイトによると、262安打のメジャー最多安打記録を作った04年は全打球のうち63.7%がゴロだった。

本人も「ゴロを打つことで確率が増す。可能性を生む」と話している。ゴロを打てば内野安打になるかもしれないし、相手が失策することもある。イチローは常に転がすという中で、可能性を求めてきた選手だ。打率をかなり落とした昨年と一昨年を見ると、52.3%と50.9%でイチローにしてはその数字が低かった。

しかし、今年は57.9%で比較的高かった。それなのに、なぜそれほど良い打撃成績が残せなかったかというと、三振の多さが問題だったと思う。メジャーに渡った01年は7.2%しか三振していなかったが、今年は17.7%。細かく分析すると、空振り三振が増えている。

内角のボール球をほとんど打てず

鉄村 イチローといえばボールにバットを当てる名人だが、今年は違ったということか。

丹羽 これまではストライクではなく、ボール球を振りにいっても、バットに当ててファウルで逃げていた。ボール球を振ったときにバットに当てる確率は08年が82.8%だったのに、今年は73.1%。他の選手と比べると、おそらく平均以上なのだろうが、ちょっとどうしたのかなという数字だ。

鉄村 内角や外角、高低など打てるコースにも変化があるか。

丹羽 同じく大リーグの様々なデータ分析をしている「ブルックスベースボール」というウェブサイトによると、インコースを打てていないという傾向が見て取れる。図は捕手の側から見たもので、右側がイチローの内角になるが、ストライクゾーンの内角低めだけは4割5分5厘打っているが、そのほかの内角球はほとんど打てていない。特に、ボール球の内角はさっぱりだ。

09年のデータを見ると、高めの3つのゾーンを除いて米国でいうコールドゾーン(打率1割台以下の青いゾーン)がほとんどない。以前に比べ、今年は打てないゾーン、弱いゾーンがはっきりしていた。

控えに回っても試合前にしっかり準備

鉄村 話題を変えて、ヤンキースタジアムでのイチローの様子はどうか。

丹羽 選手が着替えたりするクラブハウスで、ほとんど姿を見かけない。試合は午後7時すぎに始まるが、午後3時半ぐらいに行ってもイチローはまずいない。おそらく裏のトレーニングルームで汗を流したり、マッサージしたりしているのだと思う。イチローはヤンキースでは控えで、代打で打席に1回立つだけだったり、守備固めで九回に出るだけだったりかもしれない。それでも、レギュラーだったマリナーズ時代と変わらず、しっかりと準備をしている。

鉄村 楽天の監督をしていた野村克也氏が、かつて「自分とイチローは似ているところがある」と言っていた。テレビの特集で、イチローが「小さいことを積み重ねることが、とんでもないところへいくただ一つの道」と語っていたそうだが、野村監督の考え方の根底にあるのも「プロセスの野球」。両者とも小さなことを積み重ねることを大切にしている。

丹羽 イチローも本当に小さいことを積み重ねて、試合に臨んでいる。マリナーズ時代のことだが、練習の最初に右翼のライン上から左中間方向に走って2、3回往復するメニューがあった。イチローは必ず左中間フェンスまでいってタッチして帰ってきた。選手の多くはそこまで行かないで引き返す。それでいて、イチローは真っ先に戻ってくる。他の選手のように「これぐらいでいいだろう」という妥協を一切しない。

記録の意識、今はあまり感じられず

鉄村 マリナーズ時代から14年間イチローを追いかけて、印象に残った言葉を挙げてください。

 「今シーズン、ここまで来て思うのは、プロとして勝つだけが目的ではないということ。これだけ負けたチームにいながら、最終的にこんな素晴らしい環境の中で野球をやれているということは、勝つことだけが目的の選手だったら不可能だったと思うんですよね。プロとして何を見せなくてはいけないか、自分自身が何をしたいか、ということを忘れずにやらなくてはいけないということを、自分自身が自分自身に教えてくれたような、そんな気がしています」

丹羽 これは04年の言葉だ。チームは63勝99敗と大きく負け越したが、自身は262安打でメジャーの年間最多安打を塗り替えた。このときに、チームが勝つことだけが目的というのはプロの世界では違う、記録を作ることを含めて個人が何を見せられるかが大事だということをはっきりと口にした。「フォア・ザ・チーム」とよくいわれるが、イチローは「そうしたものはない」と語っていた。「自分のためにやったことが、結果としてチームの勝ちにつながるはずだ」という考えだった。

ただ、ヤンキースに移籍してから変わったと思う。記録という意識が今のイチローにあるかというと、あまり感じられない。ジーターやリベラといった彼以上の記録を持っている選手たちと一緒にプレーして意識が変わったような気がする。

「僕が何かを自分のために生かすことというのは、人のことを見て、学ぶことが多いんですよね。自分の中から何かを生み出していくことっていうのは、あんまりない。人の行動を見ていると、すごく気になることがたくさん見えてきて、それを自分に生かすというやりかたで、まあ、ずっと、すごく嫌らしいやり方ですけど、そうやって、今の自分があるような気がするんですよ。そうやってやっていくと、今の自分ができた、みたいな、という感じなんですよね。その中から、自分の信じているものなんかが生まれてきて、それを生かしていく」

丹羽 これは08年に日米通算3000安打をマークしたとき、原動力は何かを聞いたときの答えだ。他の選手の嫌な部分が見えてきて、こうなりたくないと思うことで自分ができてきた、と話している。本人も「すごく嫌らしいやり方」と話しているが、これは衝撃的な言葉だった。

 「ヒットを打ってきた数というよりも、こういう記録、2000とか3000とかあったんですけど、こういうときに思うのは、別にいい結果を生んできたことを誇れる自分では別にないんですよね。誇れることがあるとすると、4000のヒットを打つには、僕の数字でいうと、8000回以上は悔しい思いをしてきているんですよね。それと常に、自分なりに向き合ってきたことの事実はあるので、誇れるとしたら、そこじゃないかと思いますね」

丹羽 13年に日米通算4000安打を記録したときに口にした言葉で、4000本の安打を打つのに8000本の凡打と向き合ってきた、それが誇りだと話している。かつてNBA(米プロバスケットボール)の大スターだったマイケル・ジョーダンは「なぜそんなに勝負強いのか」と聞かれたとき、「成功させた数以上の失敗があるからだ」と答えたそうだ。その言葉と通じる部分が確かにある。

鉄村 イチローはあまり口数が多くないが、本当に言葉を大切にしている。

丹羽 イチローの場合、ふだんは試合後に4つか5つの質問に答えるぐらいで、決して多くはない。しかし、ものすごく考えてコメントしているので、その言葉はすべて記事に使える。

鉄村 最後に、FAとなったイチローの今後について。今の段階でははっきりしたことは分からないだろうけれど、どうなりそうな感じか。

右翼空いたパドレス、イチローを評価

丹羽 いろいろな話を聞いていると、イチローのことを一番評価しているのはパドレスだと思う。右翼のポジションは空いているし、打順の1、2番も空いている。イチローが何を軸に新チームを決めるかによるが、それが「最も求められるところ」ということならば、パドレスという可能性はあると感じる。

鉄村 パドレスの本拠地球場は広いので、守備力も生きるのではないか。

丹羽 ヤンキースタジアムだと、外野の定位置から数歩下がるとフェンス。だが、パドレスのペトコ・パークは広いので、イチローのようなうまい外野手にとっては見せ場が多くつくれる球場だと思う。

鉄村 他に考えられるチームはあるか。

丹羽 個人的にはジャイアンツもあるかなと思う。中堅手のパガンがケガをしてしまい、今年のワールドシリーズでは本来一塁手のイシカワが外野を守ったこともあった。それだけ外野の層は薄い。ただ、ジャイアンツがイチローに興味を示すとしたら、最初はヤンキースと同じく控え、たぶんスーパーサブ的な役割だと思う。

鉄村 ここ5年でワールドシリーズ3度制覇のジャイアンツだと、イチローがまだ経験していない「世界一」の可能性もある。

丹羽 パドレスも投手が良くなってきているとはいえ、同じナ・リーグ西地区にはジャイアンツやドジャースという強豪がいる。イチローが優勝したいということであれば、ジャイアンツも大きな選択肢の一つではないか。

マリナーズはオファー出してくるか

鉄村 古巣であるマリナーズのズレンシック・ゼネラルマネジャーはイチローを取らないと話しているが、復帰の可能性はないか。

丹羽 ヤンキースに移籍したときにイチローの方からトレードに出してくれといったから、イチロー側から戻りたいとはいえないだろう。マリナーズがオファーを出すかだろうが、イチローが移籍してから右翼を固定できていないし、1番も空いている。7月にジャクソンを獲得したが、彼は1日に4三振するような打者で1番というタイプではない。4番のカノとも仲がいい。今のマリナーズはカノのチームなので、イチローがすべてを背負う必要はない。ヤンキースに移籍した2年前と比べ、やりやすさはあると思う。

(25日の電子版セミナーを編集、再構成し掲載)

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