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「はやぶさ2」 新たな挑戦支える中堅企業の技

衛星内部の物質取得

 宇宙空間では地上と同様に、表面にある物質は風化する。「はやぶさ2」は新搭載の衝突装置で人工的にクレーターをつくり、風化の影響がない新鮮な内部物質を採取する予定だ。水や有機物に富む小惑星「1999JU3」から、より多くの情報を持ち帰る。重要なミッション成功のため、宇宙航空研究開発機構(JAXA)とともに中堅企業が汗をかいた。

日本工機、着陸地作る衝突装置

「しっかり飛んでくれ」――。2013年10月。はやぶさ2の目玉技術のひとつとされる衝突装置の野外実験が岐阜県で実施された。的や発射台が設置されただだっ広い場所に多くの宇宙開発関係者が集まる中、従来見慣れなかった人たちが準備に汗をかいていた。

衝突装置は爆薬約5キログラムの爆発による圧力で銅板が球状に変化。秒速2キロメートルの超高速で小惑星に向かい、最大直径10メートルほどのクレーターを形成する仕組みだ。宇宙開発を長くけん引するIHIやNECに加え、爆薬メーカーの日本工機(東京・港)が担当した。

防衛省向けに砲弾などを製造するが、宇宙向けは初めて。「経験ないことの連続だった」。設計・製造を担当した研究開発部の田子義則主任は、関わった人すべての思いを代弁する。JAXAと本格開発を始めて4年。戸惑いを感じつつ壁を乗り越えてきた。

大まかな設計は早い段階で固まったが、試験が長かった。経験したことのない水準の振動や耐熱の試験が求められた。爆薬の試験は気を使うが、治具も自作するしかない。「会社人生の中で初めて無理という言葉を使った」(田子氏)。机のまわりには、失敗した試作品が転がった。試作と試験を繰り返し、治具を形作っていった。

日本工機とJAXAが実施した衝突装置の実証試験=JAXA/日本工機提供

製造も難しい。弾薬の注入口は「通常考えられないほど小さい」(同部の川堀正幸氏)。大きさや重量に制限があり、求められる威力を出すには注入口の方に絞るしかない。火薬も粘度が高い新素材で、中に充填しにくい。厳密に注入量を制限しつつ長時間かけて入れ込み、まんべんなく行き渡るようにした。

設計製造ともに苦しめたのは、「時間のなさ」(同部の矢野英治主査)。開発期間が短い上、東日本大震災で開発を担う白河製造所(福島県西郷村)のライフラインが停止。延期できない11年10月の実物大での試験に、休日出勤で対応した。

降下・着陸技術はまねできない――。小惑星に着陸してサンプルを採取するシステムは、宇宙開発で先頭を走る米航空宇宙局(NASA)が脱帽するほど。「降りたいところに降りる」(JAXA)着陸を実現する衝突装置の実用化は、その技術をさらに高める。

明星電気、クレーターの形成過程観察

宇宙風化の影響を受けていない内部物質の採取とともに、クレーターの形成過程を観察すること自体も科学的意義は大きい。本体に破片が当たることを防ぎつつ、いかに観察するか。はやぶさ2は衝突装置を切り離した後、さらに「DCAM3」というカメラを切り離し、本体に代わって観察する仕組みを採用した。

当初計画ではアナログカメラだけの予定だったが、鮮明な画像を求めてデジタル方式も追加。13年9月に、IHI子会社でこれまでも納期の短い案件に対応してきた明星電気が加わった。

技術自体は既に確立されたもので、課題は「狭いスペースに押し込むこと」(宇宙防衛事業部の奈良修主査)。アナログカメラだけを搭載する予定だった空間に詰め込むため、デジタルカメラに与えられたスペースはきわめて狭かった。

既存の宇宙向け部品では入りきらない。「一から部品を開発する時間もない」(奈良氏)中で明星電気がとったのは、民生部品の活用。宇宙での使用に耐えられる部品をかき集めてレンズや検出器、無線機器などを直径10センチメートル、高さ10センチメートルの筒に詰め込んだ。高解像度の画像をはやぶさ2本体に送り、クレーター生成過程を見届ける。

明星電気は小惑星表面に水や含水鉱物があるかを測定する近赤外線分光計も手掛けた。小惑星から出る波長3マイクロ(マイクロは100万分の1)メートルの近赤外線を検知する。はやぶさの分光計を担当したメーカーが撤退したことを受け、人工衛星のX線分光計で実績のある明星電気に話が来た。

正確な観測には、装置を冷却し自身が発する近赤外線の影響を軽減する必要がある。分光計の上部は狭く設置できる放熱器は多くない。通常は板状の部品をメッシュ状にして熱がこもらないようにするほか、脚を細くし熱伝導率を下げる構造にするなど工夫を重ねた。

各社には打ち上がったら成功という感覚はない。衝突装置が使われるのは18~19年とまだ先だ。宇宙へのチャレンジで得た技術をいかに陸に応用するか。宇宙での実践を待たずして、新たな挑戦は既に始まっている。(上阪欣史、岩戸寿、綱島雄太、長江優子)

[日経産業新聞2014年11月28日付]

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