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最後で最大の好機 夢のパッキャオvsメイウェザー戦

スポーツライター 杉浦大介

フィリピン出身で6階級を制覇した王者、マニー・パッキャオが久々に全盛期をほうふつさせる迫力あふれるボクシングを見せてくれた。23日、マカオで行われた世界ボクシング機構(WBO)世界ウエルター級タイトル戦で、挑戦者のクリス・アルジェリ(米国)から6度のダウンを奪って判定勝ちした。タイトル初防衛を果たし、「戦わざるライバル」といわれるフロイド・メイウェザー(米国)との決戦が再び話題に上り始めている。長く待ち望んだスーパーファイトは実現するのか。

記録的な大差つけての判定勝利

「KOを狙っていたけれど、クリスはとても素早く、よく動いたから捉えるのが難しかった」。試合後、リング上で行われたテレビのインタビューで、パッキャオはKOできなかった理由をこう説明した。ただ、2回に先制のダウンを奪い、6回と9回に2度ずつ、さらに10回にもダウンを追加する圧倒的な内容だった。1人のジャッジが120-102、2人が119-103という記録的な大差をつけての判定勝利には、KOと同じくらいのインパクトがあったといえる。

対戦相手のアルジェリは、半年ほど前まで完全に無名だったニューヨーク出身の白人ボクサー。デビュー以来20連勝(8KO)を続け、今年6月にはルスラン・プロボドニコフ(ロシア)に番狂わせの判定勝ちをし、WBO世界スーパーライト級王者に就いた。身長で10センチ、リーチで13センチもパッキャオを上回る体格差を生かし、アルジェリが善戦すると考える関係者も少なくなかった。

加齢によるパワー低下の声吹き飛ばす

ただ、その挑戦者も結局はパッキャオとは格が違ったのだろう。そして、36歳になったフィリピンの英雄のこの日のコンディションは近年でもベストに思えた。

2012年12月にファン・マヌエル・マルケスに痛烈なKO負けを喫して以降、パッキャオのボクシングには慎重さが目立つようになっていた。丁寧な試合運びはボクサーとしての成熟を感じさせた一方、かつての野性味と迫力が失われたと残念がるファンも多かった。

しかし、相手のパンチ力を警戒する必要がなかった今回のアルジェリ戦では、かつての鋭いステップインと左ストレートの打ち込みがよみがえった。中でも9回に左クロスを打ち込んで奪ったダウンは強烈で、加齢によるパワー低下の声を吹き飛ばすのに十分。KO負けの後遺症も感じさせなかった勝利は、スーパーウエルター級制覇を果たした10年11月のアントニオ・マルガリート戦以降では最高の内容だっただろう。

このアルジェリ戦の前後に最も大きな話題になったのは、やはりメイウェザー―パッキャオ戦実現の可能性についてだった。そして、パッキャオが改めてその健在ぶりを示したことで、報道合戦に拍車がかかっている。

対戦実現へ変わり始めた風向き

メイウェザー、パッキャオの対戦については、パッキャオがウエルター級に階級を上げた08年あたりから何度も話題に上ってきた。全階級を通じて最高水準とみられる二大ボクサーであり、12年に発表された米経済誌フォーブスのスポーツ選手長者番付で1位(メイウェザー)、2位を独占したほどの人気者同士。雌雄を決するとなれば入場券はプラチナチケットになり、興行面でも史上最高記録を更新するのは確実とみられている。

ただ、最強同士の決戦が必ずしも簡単には実現しないのが興行の世界。報酬の分配割合、薬物検査の方法、契約テレビ局と所属プロモーターの違いといった様々な条件から、2人の対決は幻のスーパーファイトであり続けてきた。

しかし、ここにきて少なからず風向きが変わり始めているようである。

「これから陣営と話し合って将来のことを考える。もしも(マニー・)パッキャオ戦の話が出てくるなら、実現させようじゃないか」

9月13日のマルコス・マイダナ(アルゼンチン)との再戦後、メイウェザーが珍しくパッキャオ戦に前向きと取れる発言を残した。一方のパッキャオも、アルジェリ戦後の会見で「ファンが望んでいる試合を実現させるときが来た」と語り、これまでにないほどこの一戦を熱望する意思を示している。

ピーク過ぎた現在も有力コンテンツ

長くボクシング界を引っ張ってきた両雄も年齢を重ね、メイウェザーは37歳、パッキャオは36歳。加齢とともにパフォーマンスの質が低下し、同時に興行価値も下がる。メイウェザーと独占契約を結ぶ米ケーブルテレビ局ショータイムは過去4戦のうち3戦の中継で巨額の赤字を出したといわれている。

こうした状況下では、ショータイムと親会社の米CBSテレビはよりインパクトのあるカードを組む必要がある。魅力的なライバルが枯渇している現状で、ファンの興味を引けるのはパッキャオ戦以外に残されていない。

両者がピークを過ぎた現在でも、この試合が実現すれば、視聴者がコンテンツを選んで見た分だけ課金されるペイパービュー(PPV)放送の方式で史上最高の300万件以上(過去最高は07年のメイウェザー―オスカー・デラホーヤ戦の240万件)の売り上げを記録することが濃厚とみられている。

その夢の対戦に向けて、パッキャオのプロモーターであるボブ・アラム、トレーナーのフレディ・ローチの両氏がすでにCBS役員と会談し、近く話し合いの場を再び設けると米国内で盛んに報道されている。筆者もあるテレビ局関係者に尋ねると、「実現するかもしれない」という答えが返ってきた。様々な声を総合すると、待望の一戦が近年では最も成立に近づいていることは事実のようだ。

越えねばならぬいくつものハードル

もっとも、まだ越えなければならないハードルはいくつもある。

パッキャオが所属する米興行大手トップランク社と、メイウェザーのアドバイザーであるアル・ヘイモン氏は友好的な関係ではない。巨大な影響力を誇る両者は多額の利益を生む一戦に向けて手を組めるのかどうか。

また、放映するテレビ局の違いも重要な要素だ。メイウェザーは13年2月にショータイムと6戦総額で2億ドル(約236億円)といわれる独占契約を結び、一方のパッキャオには老舗米ケーブルテレビのHBOが巨額投資を続けている。02年のレノックス・ルイス―マイク・タイソン戦と同様、二大ケーブル局が提携しての番組づくりが噂されているが、今後も無事中継までたどり着ける保証はない。

そして何より、犬猿の仲であるメイウェザーとトップランク社のアラム氏が、この一戦の交渉を無事に続けられるか気にかかるところだ。

結局、業界内で最大の影響力を保持するのはメイウェザーであり、この無敗の5階級制覇王者さえその気になればスーパーファイトは成立する。逆に、例えばメイウェザーが現実的でないファイトマネーを望んだ場合、あるいは相性がよいとはいえないパッキャオとの対戦を最終的に敬遠した場合、話し合いはあっさりと頓挫することは十分に考えられる。

NFLカウボーイズ本拠地も候補に

23日時点で、米紙ロサンゼルス・タイムズは「メイウェザー陣営もパッキャオ戦に乗り気である」「パッキャオ側は割安のファイトマネーをのむことを承諾している」などと伝えている。これらの楽観的な報道にどこまで真実味があるかは微妙だが、いずれにしても、待ちに待ったスーパーファイト実現の機運が盛り上がり始めているのは事実だ。

実現すれば、対戦時期は15年4~9月の間が有力。会場はおなじみの米ラスベガスではなく、約10万人が収容できる米プロフットボールのNFLカウボーイズの本拠地、AT&Tスタジアム(ダラス)の使用の噂までささやかれている。

両者の年齢と現在の立ち位置を考えれば、後世まで語り継がれる一戦を実現させるにはこれが最後にして最大のチャンスかもしれない。両陣営の話し合いと歩み寄りそのものが、すでに「歴史的な交渉」といえるのだろう。

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