宇宙の深淵のぞけ ガラス界のいぶし銀「オハラ」
宇宙の果てを探ろうと世界で進む次世代超大型望遠鏡を、日本のガラス技術が支えている。日本、米国、欧州など主導で3つの計画が進んでいるが、うち2つに日本の光学レンズ大手オハラが製作した「ゼロ膨張ガラス」などが採用される。気温が変化してもほとんど伸び縮みしないガラスが、高精度な観測を可能にする巨大な鏡を作り出すのに貢献している。
1度の温度変化で0.00002mmしか変わらない「ゼロ膨張ガラス」
次世代超大型望遠鏡とは、口径20~40メートル級の巨大望遠鏡。遠方銀河の観測記録を塗り替えてきた日本のすばる望遠鏡(口径8.2メートル、ハワイ)の3~4倍もの規模があり、2020年代の完成をめざして世界で3つの計画が動いている。
日本などが国際協力で進めているのがTMT(Thirty Meter Telescope、口径30メートル)。米アリゾナ大学などはGMT(Giant Magellan Telescope、同22メートル)を、欧州南天天文台はE-ELT(European Extremely Large Telescope、同39メートル)を計画しており、TMTは米ハワイに、残り2つは南米チリに建設される。

TMTは今秋建設が始まった。口径30メートルの主鏡は、1枚の鏡で作ることはできないため、六角形の鏡492枚を組み合わせてつくる。その主鏡のガラス材に採用されたのが、相模原に本社のあるオハラの「ゼロ膨張ガラス」。温度が変化してもほとんど伸び縮みせず像がゆがまない。ガラスは熱くなると膨張するが、熱くなると縮む材料を混ぜて溶融、再加熱することで伸縮を相殺した。このガラスは長さ1メートルの場合、温度が1度変化しても0.00002ミリ以下しか変化しない。
宇宙誕生後間もない最初の星や銀河の観測、太陽系外の「第2の地球」、生命の兆候探しや、宇宙膨張の直接測定などに挑み、宇宙の成り立ちや宇宙の謎「ダークエネルギー」の解明などを目指す。
オハラはキヤノン向けなどにカメラレンズなどを製造する光学ガラスの専門メーカー。同社のガラスは1969年、人類初の有人月面着陸に成功したアポロ11号の月着陸船に搭載された観測装置に採用されて月へ行ったほか、米航空宇宙局(NASA)のスペースシャトルでも使われたなどの実績をもつ。
ところが、技術力を誇る同社がすばる望遠鏡(1999年運用開始)では苦汁をなめた。日本の望遠鏡でありながら、採用されたのは米コーニング社製のガラスだった。オハラのゼロ膨張ガラスは「90年に研究に着手、93年には量産化できていたが、大型製品の製造技術を確立するのに10年かかった」と後藤直雪取締役は苦労を振り返る。南川弘行特殊品営業課長も、TMTを射止め「リベンジできた」と喜びを隠さない。
次世代超大型望遠鏡3つのうち2つを制覇

さらに、オハラの快進撃は続く。同社の「ゼロ膨張ガラス」「低膨張ガラス」が、世界に3つある超大型望遠鏡計画のうち、TMT、GMTの2つに採用される。GMTを推進する米アリゾナ大がオハラの「低膨張ガラス」をかねて評価しており、GMTに「低膨張ガラス」「ゼロ膨張ガラス」が採用される。
TMT向けはすでに60枚を製作、研磨する企業に引き渡した。2015年3月までにさらに35枚を製作。同7月には溶解炉を1基増設して、2019年度までに交換用を含め計574枚を製作する。「最先端の研究で使われてこそ一流製品の証明。宇宙を知りたいという知的欲求だけでやっている一流の研究者たちに認められ使われるものを供給していきたい」と南川さんは話す。
メソポタミアなどで紀元前4500年前という古い時代から使われてきたとされるガラス。今も進化を続け、次世代超大型望遠鏡を支え、人類がまだ見たことのない宇宙を映し出そうとしている。
(映像報道部 菊次正明)
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