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人気の快眠グッズ 本当の効果は「わからない」

ナショナルジオグラフィック日本版

「風水、竹炭、波動、CD」と聞いても何のことか分かる人は少ないだろう。「手袋、ストッキング、ソックス、パジャマ」とくれば、このコラムをご覧になっている方であればピンとくるはず。後は、「耳栓、アロマ、マットレス、布団、アイマスク、サプリ、枕」とメジャー級が登場する。これらはある通販サイトで「快眠グッズ」を検索した時にヒットする品々を逆順で並べたものである。他にも快眠効果をうたう商品は枚挙にいとまが無い。

各商品の味付けも実に凝っている。例えば快眠グッズ界の東の横綱「枕」。抱き枕を筆頭に、低反発、形状記憶型、香り付き、冷却ジェル入り、ダメになる、など形容詞はさまざまだ。さらにサブタイプがあって、抱き枕には横向き用、あおむけ用、腰痛持ち用、妊婦用、独身用(?)などきめ細かなニーズに対応している。

(イラスト:三島由美子、以下同)

中には「膝枕」という商品もあって、画像を見ると膝を折ったミニスカートの女性の脚らしき形状の物体に心地よさそうに頭を乗っけている中年男性が…。「ナルホドッ!」と膝を打った次第である。あやうく「買い物かごへ」を押すところであったが何かがダメになりそうなので思いとどまった。

快眠に絡む品々のヒット数からみて相当な売れ行きなのであろう。日経産業新聞の記事によると、寝具、照明、アロマなどの快眠グッズの国内市場規模は2012年度で1400億円ほどらしい。上記の周辺商品も入れるとさらに金額は膨れあがるだろう。

私はこの領域については全くの素人だが、メディア取材で「効果はありますか?」とよく問い合わせを受ける。専門外なのでと断っても「個人的な意見でも、体験でも、印象でも何でもいいので…」と粘る方もいて、気の弱い私はついつい真面目に答えてしまうのである。

ところで、「何の効果」について聞きたいのでしょうか…

まず「何の効果について聞きたいのですか?」と問うと「何の効果がありますか?」と問い返されることがあり、「わかりません」ということで取材は即時終了になる。

「不眠症などの睡眠障害にも効果がありますか?」ときかれたらやはり即答で「効果が確認された快眠グッズはありません」とお答えする。実際、患者さんに使ったことないし。

「寝心地が良くなりますか?」という質問であればかなり気軽に「そうなんじゃないですか」と答えることにしている。ヒンヤリして気持ちよいとか、良い香りに癒やされるとか、独り寝が寂しくないとか、何らかのリラクゼーション効果があることは間違いないだろう(と思う)。実際、私も三日月形の抱き枕を使っている。私は右半身を下にして寝ることが多いのだが、左手と左膝がしらの収まりが良くてとても気に入っている。

ここら辺で引き下がってくれれば良いのだが、「いや、睡眠の質が良くなるとか、睡眠が深くなるとか、もっと具体的な睡眠改善効果があるか聞きたいのですが」とか突っ込まれると軽く戦闘モードになって受話器を握る手にグッと力が入る。仕事が忙しくて機嫌が悪いときは「睡眠の質ってなんじゃい」「睡眠の深さと快眠、熟眠感は必ずしも比例せんぞ」とか小1時間問い詰めたくなるのだが、そこはこらえて「大部分のグッズではそこまで調べてないと思いますよ」とオトナの対応をしてみせる。

この種の質問は答えに窮することが多い。なぜなら、そもそも快眠とは何か、どのような睡眠を取れば熟眠感、回復感、爽快感が得られるのか、という基本命題ですら睡眠学の未解決問題だからだ。睡眠時間がこのくらい長くなれば、睡眠がこのくらい深くなれば快眠が得られると分かっていれば答えようもあるが、そのような「快眠バロメータ」は現時点では明らかになっていないのである。

快眠グッズは「偽薬」効果が支えている

大部分の快眠グッズはボランティアに数日から数週間程度試用してもらい感想を聞いてみた、という宣伝法だ。「一般の方○○名に試していただいたところ、△△%の方が現在お使いのものより熟眠できたとお答えになりました!」「いやー、これを使い始めてから朝の目覚めが良くてねー、肩こりもなくなってスッキリだよ、ワハハ…(個人の印象です)」。

お古と新品を比較するのもフェアじゃないが、新しい「快眠」グッズと聞いただけで睡眠感が良くなったと感じるのが普通だ。一種のプラセボ(偽薬)効果であり、睡眠についてはこれがバカにならない。もともと日本人は「新商品」に弱く、睡眠の質が悪くグッズに期待を寄せている人の場合はなおさらプラセボ効果が出やすい。薬効のはっきりしている睡眠薬でさえ、プラセボ効果に勝つのが大変なこともある。

銀座のショップで売れなかった5000円のスカーフが、値札を3万円に替えた途端に売れたという都市伝説を聞くことがあるが、快眠グッズについても同じことが言える。この値段なら素材も良いだろう、開発にお金がかかったのだろう、効きそうだ、と信じてもらうことがとても大事なのである。

快眠グッズにプラセボ効果を超える快眠効果があるのか私は知らない。少なくとも、新薬開発のように厳密な方法で睡眠に与える影響を確認したグッズに出会ったことはない。ボランティアを対象に使用前後で脳波測定をするなど効果検証の努力をしている企業もあり好感が持てるが、残念ながら方法論的には突っ込みどころが満載である。

快眠グッズの挙げ足を取るのが今回の趣旨ではない。新薬開発と同じ努力を求めるつもりもないし、必要もない。書きたかったのは快眠グッズの効果は「プラセボ効果+アルファ」であり、おそらく「アルファ」の部分はかなり小さいこと。でも、合計の快眠効果が大きければユーザーは十分に満足できるし、メーカーはそのためのいろいろな努力をしているということ。信じる者は救われるのである。

逆にいったん効果に疑いをもたれたら市場から退場するしかない。睡眠薬(実薬)ですら「これはプラセボだよ」と言って渡されると「やっぱり効きませんでした」と回答する患者が少なくない。いわんや…である。

恐るべしプラセボ効果、睡眠には心理的要因が関わっている

効果抜群とうたってくれる芸能人、スポーツ選手、ドクターを引っ張りだすメーカーの気持ちもよく分かる。効果に色が付いているわけではないし、強化されるのがプラセボ効果だろうが結果良ければすべて良し。要するに効果の合計が大きくなればそれで良いのである。有名人に払うお金がない場合には、誰かわからないが化粧のノリが良さそうな美女や、膝枕でにんまりする疲れた中年の登場となる。

一般向けの講演を頼まれることも多いのだが、今回のようなお話しは聴衆の受けがあまりよろしくない。考えてみれば当然である。睡眠の講演会を聞きに来る方の多くは眠りに関する悩みを持っており、快眠グッズの1つや2つは購入したことがあったり使用中であったりするわけだから。

最近では方針変換して「プラセボ効果込みで効果があればいいんじゃないですか」とまとめてみたりもする。しかしそれはそれで「研究者がなんたる言いぐさか」「このような講演を聞いてからではもう遅い」とこれまたお叱りを受けることがある。といったわけで、最近は講演会でも快眠グッズのお話しは一切触れないことにしているのである。

それにしても恐るべし、プラセボ効果。睡眠だけではない、抑うつや不安など精神症状に対してはプラセボ効果が非常に大きく、睡眠薬や抗うつ薬の新薬治験で実薬が苦戦を強いられることもまれではない。一方で、睡眠や精神現象にはそれだけ心理的要因が関わっている証でもあり、大きなレジリアンス(回復力)を持っているのだ。快眠グッズはその心強い援軍とみるべきだろう。

    三島和夫氏
三島和夫(みしま・かずお)
1963年、秋田県生まれ。医学博士。国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所精神生理研究部部長。1987年、秋田大学医学部医学科卒業。同大精神科学講座講師、同助教授、2002年米国バージニア大学時間生物学研究センター研究員、米国スタンフォード大学医学部睡眠研究センター客員准教授を経て、2006年6月より現職。日本睡眠学会理事、日本時間生物学会理事、日本生物学的精神医学会評議員、JAXAの宇宙医学研究シナリオワーキンググループ委員なども務めている。これまで睡眠薬の臨床試験ガイドライン、同適正使用と休薬ガイドライン、睡眠障害の病態研究などに関する厚生労働省研究班の主任研究者を歴任。『8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識』(川端裕人氏と共著、日経BP社)、『睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン』(編著、じほう)などの著書がある。
[Webナショジオ 2014年10月30日付の記事を基に再構成]

8時間睡眠のウソ。 日本人の眠り、8つの新常識

著者:川端 裕人, 三島 和夫
出版:日経BP社
価格:1,512円(税込み)

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