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テレビを再発明 小さな伏兵がネットで変える

編集委員 大西康之

「テレビの再発明」が始まった。10月下旬、米アマゾン・ドット・コムは米国でスティック型映像受信端末「Fire TV Stick(ファイアTVスティック)」を発売し、米グーグルの「クロームキャスト」に対抗する。いずれも価格は4000円前後の小さなデバイスだが、これを差し込むことでテレビがたちどころにインターネットとつながる。茶の間に忍び込む「小さな伏兵」はテレビの見方を大きく変える威力を秘めている。

アマゾン、グーグル競い合う

米アマゾン・ドット・コムが10月に発売した「ファイアTVスティック」

ファイアTVスティックは100円ライターを一回り大きくしたサイズで、テレビのHDMI端子に差し込んで使う。Wi-Fiに接続し、映画、ドラマ、音楽などのコンテンツをインターネットから受信する。デュアルコアプロセッサーと1ギガバイトのRAMメモリーと8ギガバイトのストレージを内蔵しているので、フルハイビジョンの映画をスムーズに再生でき、手元のスマートフォン(スマホ)を使って一時停止や巻き戻し、字幕設定などができる。米国での希望小売価格は39ドル。日本での発売は未定だ。

日本では5月下旬にグーグルが同種の製品「クロームキャスト」を発売している。価格は4200円。クロームキャストは発売と同時に、家電量販店で売り切れが相次いだ。最先端の製品に真っ先に手を伸ばす「アーリーアダプター」と呼ばれる消費者は、この製品を待ちわびていたのだ。待ちきれない人はネット通販で先行発売された米国から取り寄せていた。これまでに世界で数百万個が売れたという。

驚くのはセッティングの簡単さだ。箱から出したクロームキャストをテレビの裏側にあるHDMI端子に差し込み、スマホに専用のアプリ(ソフト)をダウンロードする。あとはクロームキャストとWi-Fiをつなぐためにパスワードを入力すれば準備完了だ。すぐにインターネットから配信された動画が、居間のテレビに映し出される。

「ストリーミング」、映像途切れず

スティック型映像受信端末は「ストリーミング」と呼ばれる手法で通信回線を使ってネットの向こう側にあるサーバーから途切れることなくデータを取り込む。見る前に、すべてのデータをこちら側のデバイスに落とし込む「ダウンロード」ではないから、動画の再生が始まるまで何分も待つ必要なはい。

米アマゾン・ドット・コムのジェフ・ベゾスCEO

アマゾンは4月上旬に「ファイアTV」という据え置き型の映像受信端末を発売した。ジェフ・ベゾス最高経営責任者(CEO)は「ちっちゃな箱の中に、とてつもない性能を詰め込んだ。驚きの価格で、山盛りのコンテンツを楽しめる」と自信満々だったが、場所を取り価格も99ドル(約1万円)と高かったため、グーグルの「クロームキャスト」にかなわなかった。アマゾンはすかさず、クロームキャストと同じスティック型を開発し、39ドルで発売する。このあたりの機敏さはさすがである。

ファイアTVは音声認識で番組を探せるのが特徴だ。ASAP(アドバンスト・ストリーミング・アンド・プレディクション、進化型ストリーミング予測機能)を備え、利用者の過去の視聴履歴をもとに「見たいであろう番組」を予測し、あらかじめネットからストリーミングを始めておく。その番組を選択すると、すでに「放映の準備」が整っているから、瞬時に再生が始まる。

もちろん、書籍のネット販売でおなじみの「あなたにお薦めの本があります」「この本を買った人はこんな本も買っている」といったリコメンデーション(推奨)機能も備えており、「こんな映画がお好きでしょ」と薦めてくる。ファイアTVにはゲームソフトも豊富にそろっており、スマホやタブレットをコンソール(操作機)にして家族でレーシングなどを楽しめる。ソニーの「プレイステーション」や任天堂の「Wii」にとって脅威になるかもしれない。

先行する米グーグルの「クロームキャスト」

グーグルも「Nexus Player(ネクサス・プレーヤー)」という端末を発売し、スマホやパソコン向けのゲームをテレビでも楽しめるようにした。グーグルはコンテンツの充実も急いでいる。10月31日には米動画配信大手のHulu(フールー)が「近日中にクロームキャストに対応した番組配信を開始する」と発表した。フールーが持つ1万5000本の映画・ドラマ・アニメを楽しめるようになる。11月3日には米ウォルト・ディズニーが自社のクラウドサービス「ディズニー・ムービーズ・エニウェア」を通じ、クロームキャストでディズニー作品などを提供すると発表した。

テレビメーカー出し抜く

アマゾンやグーグルは日本や韓国のテレビメーカーが「スマートTV」でやろうとしていたことを、わずか4000円前後のスティック型映像受信端末で実現してしまった。この小さなデバイスを差し込むだけで、5年前に買った液晶テレビがスマートテレビに変身してしまうのだ。

もちろん、アマゾンやグーグルは4000円のデバイスを売ってもうけようとしているのではない。既存のテレビをインターネットにつなげることで、コンテンツを売り、利用者を囲い込もうとしているのだ。

「家電の王様」だったテレビも、インターネット時代には「ただの表示装置」にすぎなくなる。付加価値のほとんどはネットの向こう側にあるクラウドからやってくる。画質や音質にこだわる日本メーカーの気概は買うが、それだけではもはや新しいビジネスモデルに対応できない。4000円の小さなデバイスを侮らない方がいい。

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