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おしゃれな「吹き抜け空間」は省エネの敵

冬に備える家づくり(5)

日経アーキテクチュア
デザイン重視の"エコハウスもどき"にありがちなのが、大きな吹き抜け空間だ。実は吹き抜けがあっても、そこにイメージどおりに風の流れを作るのは簡単ではない。「何よりも、冬の暖房が難しい」と、東京大学准教授の前真之氏は指摘する。前氏が上梓した書籍「エコハウスのウソ」(2012年6月発行)の記事を基に、吹き抜けの暖房が難しい理由について解説する。
(イラスト:ナカニシミエ)

階をまたがって空間をつなぐ吹き抜けは、まさに建築の「自由」「開放」を体現する。従来は玄関室のように滞在時間の短い空間に限られていたが、現在ではリビングやダイニングなどの主居室まで広く用いられている必須アイテムだ。

しかしながら、吹き抜け空間というのは温熱環境的には非常にやっかいな代物。ここでは、空気の流れをコンピューター上で再現する数値流体計算(CFD)を用いて、吹き抜け空間を検証してみよう。

エアコンもファンヒーターもジレンマに直面

吹き抜け空間は視覚的には大変気持ちの良いものだが、いざ暖房しようとすると非常に悩ましい。最近のエコハウスでは、エアコンを主暖房としていることが少なくない。ガスや石油のように室内空気を汚染することがなく、ヒートポンプで高効率な暖房が可能になることが期待されているからだ。

ただし、エアコンには"怠け者"の空気で暖房しなければならないという限界がある。最近のエコハウスでは、吹き抜け空間に1台だけエアコンを付けていることも多い。これは、空間全体をまとめて処理することで低負荷運転を避け、効率の向上を期待しているためだが、空間の温度ムラは大きくなりがちになる。

吹き抜け空間と1階空間(通常空間)について、エアコンで暖房した場合の温度分布を比較した(図1)。なお、吹き抜けは空間が広い分だけ熱負荷が大きいので、温風の温度をより高く設定している。

図1 吹き抜けでは温度ムラが大きくなる。1階空間は3.6×3.6×高さ2.4m 、吹き抜け空間は3.6×3.6×高さ4.8m。各部屋の断熱性は等級4レベル。暖房機器の吹き出し風量は一定で実験

通常の1層空間では、エアコンでも問題なく暖房ができている。これが吹き抜け空間になると、床面に暖気が届かず温度ムラが大きくなってしまうことが分かる。吹き出した空気は高温で軽いので、上方に広い空間が開けていると舞い上がってしまうのだ。

エアコンの温風を床まで届かせるためには、温風の温度を控えめにして量で稼ぐ方が有利である。しかしながら過剰な風量は不快になるため、熱負荷を処理するためには温度を上げざるを得ない。ところが、温度を上げると空気がさらに軽くなって床に届かない…。ここにジレンマがある。

ファンヒーターは温風の吹き出し口が低い場所にあるのでエアコンよりは有利だ。ただし、温風の温度がさらに高くなるので、温風はまっすぐ上に吹き上がってしまう。

床暖房は、温度ムラの少ない快適な空間をつくり出すことが知られており、計算結果でも温度分布が均質なことが確認できる。一方で、床暖房は瞬時の加熱能力が限られるので立ち上がりが遅いし、エアコンに比べるとエネルギー効率が低い。床暖房だけで吹き抜けリビングをまるまる暖めることは困難である。

無人の空間を暖房するハメに

最近では子供の引きこもり対策のため、リビングに階段を設ける場合が少なくない。この「リビング階段」、2階の冷たい冷気が階段を伝って直接リビングに降りてくるので、非常に不快でクレームが多い。この解決は困難で、効果的な対策は「2階をいつも暖房する」しかないそうである。

温度ムラや冷気も困ったものだが、そもそも人のいない上部空間を暖めること自体がムダではないのか――。まさにその通りで、熱負荷の無用な増大を招き、「増エネ」に直結する。

高断熱住宅であっても、全室24時間暖房をすれば増エネは避けられない。必要な場所を必要な時間だけ暖房する方が省エネになるという、当たり前のことを再認識する必要がある。

ここでは分かりやすく示すため、コンピューターによる数値計算を用いた。

図2 暖かい空気が吹き抜けを一杯にするまで床に温風が届かない

「実際はもっとマシなはず」と思われるかもしれないが、筆者はさらにひどい温度分布の住宅をザラに経験している。

今回のシミュレーションでは熱的に弱い大開口や隙間風などを無視しており、断熱仕様も等級4相当とハイスペックを想定した。実物件の状況は、もちろん「ひどくこそなれ」である。

このように床や間仕切りをなくして空間をつなげることは、快適性・省エネ性の観点から非常にリスクが大きい。吹き抜けの魅力に夢中になる前に、暖まった軽い空気の気分で断面図をチェックしてみよう。

前真之(まえ・まさゆき) 東京大学大学院工学系研究科建築学専攻准教授。博士(工学)。1975年生まれ。1998年東京大学工学部建築学科卒業。2003年東京大学大学院博士課程修了、2004年建築研究所などを経て、2004年10月、29歳で東京大学大学院工学系研究科客員助教授に就任。2008年から現職。空調・通風・給湯・自然光利用など幅広く研究テーマとし、真のエコハウスの姿を追い求めている。

(書籍『エコハウスのウソ』の記事を基に再構成)

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