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新聞5紙ハッカソン、イノベーションを生むか

ブロガー 藤代裕之

「ニュースの新しい読み方、楽しみ方」をテーマに、日ごろはライバル関係にある新聞社が共同でハッカソン「新聞5紙 NEWS HACK DAY」を開催した。最優秀賞に選ばれたのは、たった1人のためにニュースを伝えるアプリ。できるだけ多くの人に伝えるマスメディアの新聞とは正反対の提案だった。ソーシャルメディアやキュレーションアプリの登場で、ニュースの流通が大きく変化している中で、新聞各社はイノベーションを生むことができるのだろうか。

危機感が生んだ「呉越同舟」

全国紙を発行する新聞5社が共同でハッカソンを主催した

「予想以上にスムーズでした」。ハッカソンの開催を、日経、毎日、読売、産経の各社に呼びかけた朝日新聞社メディアラボの担当者は話す。メディア業界に驚きを持って迎えられたライバル社による合同イベントだけに、各社の題字が舟の上に乗せられ「呉越同舟」と書かれた懇親会のメニュー表が用意されたほどだ。無事成功裏に開催できた背景にあるのは危機感だ。

審査員のnanapi代表取締役の古川健介氏が、「ニュースを伝えるのは新聞社ではなくて別の人になっている」と講評で触れた通り、取材、編集といったニュースをつくる部分から宅配という伝送路まで一貫して新聞社が関わっていた紙の時代と異なり、インターネットの登場でニュースを伝える部分の独占は崩れている。部数減や広告減という危機は、伝送路の危機だ。

パソコン時代にはヤフーの独走を許し、スマートフォン時代の到来とともに、スマートニュースやグノシー、といったニュースアプリが次々と生まれ、新たな競争が激化している。これまで内部だけで閉じてきた新聞業界も、外部の知恵を組み合わせて新しい価値を創り出すオープンイノベーションを取り入れる必要に迫られている。

ハッカソンには大学生や企業チームなど約100人が応募した。抽選で選ばれた49人のエンジニアやデザイナーは10月18日にチームを編成。12チームに分かれて、各社が提供した記事のデータベースなどを活用して1週間かけてサービスを開発、10月25日にプレゼンテーションを行った。

新聞のニュースは難しく遠い存在

最優秀賞に選ばれた「べんとータイムズ」のチーム。子供が読む記事を親や祖父母が選ぶ

プレゼンで各チームから繰り返されたのは「ニュースを読まない若者に……」「新聞は難しいので」という言葉だ。ただ、キュレーションアプリやまとめサイトなどを使う若者は多い。紙の新聞の文字は年々大きくなり、広告も含めて中高年メディア化しているだけに、提案されたサービスは、新聞のニュースを身近にしたり、楽しんで受け取れたりする工夫したものが多かった。

例えば、最優秀賞と毎日新聞賞に選ばれた「べんとータイムズ」。親や祖父母が記事を選んで、子供のスマホアプリにおかずのように詰めるサービスを企画した。チームは、毎日親から子にニュースを届けることでコミュニケーションが生まれるとアピールした。

べんとータイムズと競ったのが、「CompaNews(カンパニュース)」。競合企業や自社に関するニュースを社内で共有できるサービスで、記事をシェアすると画面の上にアイコンが出てプルプル震えるデモが、会場で笑いを誘っていた。これは日経電子版賞に選ばれた。

産経デジタル賞には、記事から川柳を自動で生成する「川柳亭新エ聞」が選ばれた。ウェブデザイン会社のメンバーで構成するチームで、言語解析の仕組みを使い、記事を自動的に川柳にするもので、首相動静から「安倍首相ヒルトンホテル午前だけ」と不思議な川柳を作り出していた。他にも、注目が集まる3Dプリンターを使いコンビニで販売記事テキストをパンにプリントするというものなどがあった。

重要なコミュニケーションの視点

新聞社内からは生まれにくいアイデアが提案された

上位を競ったのがコミュニケーションを誘発するサービスだったことは興味深い。審査委員長を務めたスマートニュースの藤村厚夫執行役員は、べんとータイムズについて「このサービスの意味は本人たちが思っている以上に大きい。新聞は遠くのたくさんの人に伝えるが、『べんとータイムズ』はたった1人のために情報をバランスよく組み立てて届けるもの。ニュースの再発見はこんな時代にしか起きない」とコメントした。

「べんとータイムズ」は親子、「CompaNews」は上司と部下、といったようにニュースをコミュニケーションのツールとして利用する。記事を人が選ぶというところもポイントだ。これはニュースが、人から人へソーシャルメディアを経由して伝わるようになっているからだ。

いま人気のあるキュレーションアプリやソーシャルメディアの拡散に特化したバイラルメディアも、人から人に伝わるメディアだが課題もある。古川氏はキュレーションアプリには性的な内容のニュースが紹介されていることが多いとして「まだ子供には見せられない」と述べた。閲覧履歴などから利用者にとって最適なニュースを自動的に提示することは、フィルターバブルと呼ばれる同質性の高い情報に包まれることで視野を狭くするとの指摘もハッカソン参加者から出ていた。

ニュースについて言うと、パソコン時代のヤフーは、検索、オークションといった、ポータルという概念を打ち出して、ニュースの覇権を握った。スマホ時代にまだ決定的なサービスは出ていないように見える。

参加していた新聞関係者は「レベルは高く参考になった」「楽しんだ」とハッカソンのアイデアを評価していた。これらをヒントに新サービスが開発できるかは新聞各社に委ねられる。

重要なイベントの手作り感

ハッカソンには大学生や企業チームなど49人が参加した

新聞業界のイベントは暗いムードが漂うことが多いが、「NEWS HACK DAY」は熱気と笑顔があふれていた。その一つの要因は手作り感にある。メディアラボは3月にもデータジャーナリズム・ハッカソンを行ったが、スムーズではあったがどこかよそ行きだった。

その後、メディアラボでは、小規模なイベント運営を数週間おきに実施し、ノウハウを蓄積した。IT(情報技術)業界では、多くのイベントが行われており、アイデアを競い合ったり、スキルを磨き合ったりするのはよくある風景だ。ビッグデータの登場などにより、ハッカソンは、ネット企業だけでなく、自動車会社やテレビ局、自治体などでも、盛んに行われるようになった。エンジニアやデザイナーに参加してもらうために、このノウハウは大きい。各チームは外部参加者ばかりでメディアラボのメンバーはサポートに徹していたが、共に議論できるようになっていくだろう。

最大の課題は、ニュースをつくる記者の関心の低さだ。伝え方が変われば、企画や執筆方法も変わってくる可能性がある。デジタル部門だけでは解決できない問題だ。新聞社だけではニュースが伝わらない時代だからこそ、新聞社全体がオープンな組織に変革していく必要がある。

藤代裕之(ふじしろ・ひろゆき)
ジャーナリスト・ブロガー。1973年徳島県生まれ、立教大学21世紀社会デザイン研究科修了。徳島新聞記者などを経て、ネット企業で新サービス立ち上げや研究開発支援を行う。法政大学社会学部准教授。2004年からブログ「ガ島通信」(http://gatonews.hatenablog.com/)を執筆、日本のアルファブロガーの一人として知られる。

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