最新流行の発火点 スマホ経由のネット動画に
野呂エイシロウ(放送作家・戦略PRコンサルタント)
10月28日朝、フェイスブックで流れた1つの記事に目を奪われた。最新デジタル機器やネットの話題を提供する情報サイト「ギズモード」の日本版で公開された人気の米音楽グループ「OK Go(オーケー・ゴー)」の新しいミュージックビデオ「I Won't Let You Down」だ。

総勢2400人のダンサーが登場、一糸乱れぬパフォーマンスを繰り広げる。実際に見てほしいが、すごい。脱帽した。
オーケー・ゴーは1999年結成、米シカゴ出身の4人組グループだ。毎回ユニークなプロモーションビデオを打ち上げることで人気を集める。2005年公開の「Here It Goes Again」で一躍、有名になった。スポーツクラブにあるランニングマシンの動くベルトの上で繰り広げるダンスには、目がくぎ付けになる。
彼らのこだわりは「ワンカット」。つまり、カット編集していない映像だ。放送作家として解説すれば、ワンカット映像は力強い。テレビならチャンネルを見続けさせる魅力を持つ。映像の基本でもあるが、NGを出せないため非常に難しい。
飽きさせない動きも重要だ。今回も映像は早回しになっている。スローの音楽を流して撮影、後から通常の音楽テンポに戻すことで映像の「キレ」を演出している。
進化するテクノロジーの力も大きい。今回の映像は小型ヘリコプターに装着した独自開発のカメラを駆使して撮影した。CGは一切使っていないという。

マーケティング面で注目すべきは2点ある。1つは舞台が日本で、今回はホンダとコラボレートし、同社が開発中の小型電動一輪車「UNI-CUB(ユニカブ)」を活用した。椅子のように座ったままスムーズに移動できる、この新しい乗り物の魅力と楽しさを見事に演出している。
2点目が、ミュージックビデオの最初の公開先がギズモードだったことだ。ミュージックビデオが登場した70年代はビートルズが新譜を出すたびに映像を公開。80年代はマイケル・ジャクソンやマドンナが物語性のある映像で世界を席巻した。
当時は米MTVなどのテレビ専門チャンネルで公開された。最近は動画投稿サイト「ユーチューブ」でのお披露目が一般化していたが、今度は情報サイトで初公開に。交流サイト(SNS)で拡散しやすいバイラルな情報サイトの方がメリットは大きいからだろう。
音楽自体もCDから米アップルの「iTunes(アイチューンズ)」に代表されるメディアに移り、音楽ビジネスを広める発信源も今やネットになった。金をかけた広告ではなくPR力を使っているのがポイントだ。
さらにネットの中心はスマートフォン(スマホ)になった。10月にKDDIのスマホアプリ連合「Syn.(シンドット)アライアンス」に入り、同社から出資を受けたファッションサイト「iQON(アイコン)」を運営するヴァシリー(東京・渋谷)。同社の金山裕樹社長が「今は朝起きてから夜寝るまで皆がスマホを握っている。おしゃれを提案する場が広がった」と話すように、最新情報がスマホ経由で日常生活に入り込む。
最新の流行は「スマホ経由のネット動画」が発火点に――。これが今後の常識になるだろう。
〔日経MJ2014年11月3日付〕