グーグル第二の研究機関「Y」 スマートシティーに照準 - 日本経済新聞
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グーグル第二の研究機関「Y」 スマートシティーに照準

宮本和明 米ベンチャークレフ

米Google(グーグル)は高度技術研究所「Google X」に続き、第二の研究機関「Google Y」の設立を計画している。Google Yは、効率的な空港やモデル都市の開発を手掛ける。

一方、投資部門であるGoogle Venturesは「Urban Engines」という会社に投資し、データ解析によって交通渋滞を緩和する技術を開発している。Googleは、社会インフラ整備事業に乗り出そうとしているのだ。

長期の大規模プロジェクトを対象

Google CEO(最高経営責任者)のラリー・ペイジ(Larry Page)氏は約1年前、「Google 2.0」というプロジェクトをスタートした。このプロジェクトは、社会が直面している大きな課題を解決することを目指す。同時に、Googleの次の事業モデルを模索する、という意味もある。

最初のテーマとして、空港や都市の整備が挙げられた。これらのテーマを推進するために創設が提案されたのが、Google Yだ。

上の写真は、2013年の同社の開発者会議「Google I/O」の基調講演で、ペイジ氏がGoogleの新たな挑戦について説明しているところだ。具体的なプロジェクトは示されなかったが、Google 2.0の構想を抱いていたと思われる。

高度技術研究所のGoogle Xは共同創業者のセルゲイ・ブリン(Sergey Brin)氏の指揮の下、自動運転車やメガネ型端末「Google Glass」などの将来技術を研究している。これに対してGoogle Yは、より長期レンジの大規模プロジェクトを対象としている点に特徴がある。採算性は、必ずしも重視していない。

Googleはエネルギー分野では、風力発電や太陽熱発電など、既に大規模プロジェクトを展開している。シリコンバレーを含む北カリフォルニア地域は、Googleが開発した太陽熱発電所(Ivanpah Solar Power Facility)から電力を購入している。今度はGoogle Yで、スマートシティの研究開発に取り組むことになる。

都市交通解析システムへ投資

これに先行してGoogle Venturesは、Urban Enginesという米国のベンチャー企業に投資した。Urban Enginesはカリフォルニア州ロスアルトスに拠点を置き、都市交通解析システムを開発している。センサーやカメラなどのハードウエアを使わないで、データ解析の手法によって、電車やバスの運行状況をモニターするのが、同社の解析システムの特徴だ。

さらに、インセンティブプログラムを導入して人間心理に訴えて混雑を緩和する手法を開発。システムが生成するログデータを解析することで、都市交通を解析する。

データ解析で運行状況をモニター

上図はその事例で、鉄道会社が電車運行状況をモニターしている様子である。ブラウザー上には、電車の位置や混雑状況が表示される。電車の位置は路線上の箱で、混雑度は箱が塗りつぶされた割合で示される。駅は丸印で、その隣のバーは、駅の混雑状況を示している。

駅に収容人数を超える乗客がいる際は、警告メッセージを出す。画面左上で日時を指定し、再生ボタンを押すと、動画で時間ごとの変化を見ることができる。

管理者は、センサーなどのハードウエアを導入しなくても、電車の運行を監視できる。

運行監視システムの仕組み

Urban Enginesは既存システムが生成するデータログを解析することで、運行状況を把握する。乗客の動きは、乗車カード(JR東日本のSuicaのようなカード)の情報から把握する。電車やバスの位置は、GPS(全地球測位システム)などの位置情報を利用する。乗客一人一人がセンサーの役割を果たすこの手法は、「クラウドセンシング」と呼ばれている。

Urban Enginesは、前述の通り電車や駅の混雑状況や、駅での待ち時間などの情報を提供する(上の写真)。

さらに電車やバスの位置と速度を把握することで、遅延や運休でどれだけの利用者が影響を受けるかを推定する。利用者に特典を与えることで、混雑緩和を目指すインセンティブプログラムも提供している(下図)。

シンガポールで利用開始

Urban Enginesは、新興国を中心に導入が始まっている。シンガポール政府はUrban Enginesを導入し、電車の混雑緩和を目指している。運輸を管轄するLand Transport Authorityは、運行管理に加えて「Travel Smart Rewards」という名称で、インセンティブプログラムを展開している。

利用者は搭乗パス (Cepas Card) を利用、ピーク時の前後の時間帯に電車に乗るとポイントをもらえる仕掛けだ。

具体的には、ピーク時前後(シェイドの時間帯)に乗車すると、通常の3倍から6倍のポイントがもらえる(下図)。ピーク時の乗客を、前後に分散させる狙いがある。取得したポイントは、Cepas Cardにキャッシュバックされる。このプログラムを支援している企業や、社員に割増ポイントを付与している企業もある。

スタンフォード大学での研究成果を商用化

Urban Enginesは、スタンフォード大学の研究成果を商用化したものだ。創業者の一人であるバラジュ・プラバカー(Balaji Prabhakar)氏は、同大学で交通ネットワークの研究に従事した。

プラバカー氏は「Behavioral Economics」というモデルで、人間心理に訴えって通勤時の混雑を緩和する手法を研究。具体的には、「Congestion and Parking Relief Incentives」というシステムを開発し、オフピーク時間帯に通勤すると報償を与え、交通渋滞を緩和する効果を検証した。

この結果、少ない報償でも大きな効果があることが分かった。この研究を元にUrban Enginesを創設した。現在もこのシステムは稼働しており、専用アプリ「My Beats」で利用されている。

人口増加にどう立ち向かうか

ブラジルのサンパウロでは、世界銀行(World Bank)と共同でバスの運行管理を行っている(上の写真)。米国ではコロンビア特別区で、電車の運行管理に利用されている。

世界の総人口は2050年までに、90億人にまで膨らむとみられている。増え続ける人口に対応するため、新興国では輸送システム増強が喫緊の課題となっている。

輸送量を増強するなどハードウエア面での対応に加え、Urban Enginesのソフトウエア面でのアプローチが評価されてきた。Urban Enginesが目指しているのは、インフラが整っていない国々での輸送力強化にあり、今後、新興国を中心に大きな需要が見込まれる。

日本ではSuicaが取得したデータの解析が進んでおり、Urban Enginesの手法は特に目新しいものではない。新興国向けには、日本の高度なインフラ技術輸出に加えて、Suicaデータの解析技術も混雑緩和に貢献するかもしれない。

前CEOも出資

Urban Engines創業者の一人であるシバ・シバクマール(Shiva Shivakumar)氏は、Googleでエンジニアリング部門の副社長を歴任。AdSenseやSearch Applianceの開発に携わった。

Urban Enginesに対しては、Google Venturesだけでなく、前CEOのエリック・シュミット(Eric Schmidt)氏も投資している。Urban Enginesは、Googleのコア技術であるデータ解析を都市交通に応用したもので、Googleの注目度の高さがうかがえる。

宮本和明(みやもと・かずあき)
米ベンチャークレフ代表 1955年広島県生まれ。1985年、富士通より米国アムダールに赴任。北米でのスーパーコンピューター事業を推進。2003年、シリコンバレーでベンチャークレフを設立。ベンチャー企業を中心とする、ソフトウエア先端技術の研究を行う。20年に及ぶシリコンバレーでのキャリアを背景に、ブログ「Emerging Technology Review」で技術トレンドをレポートしている。

[ITpro 2014年10月14日付の記事を基に再構成]

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