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エコハウスのウソ 実は少ない冷房の電力消費

冬に備える家づくり(4)

日経アーキテクチュア
「家づくりは冬を旨とすべし」と公言する専門家の一人が、東京大学准教授の前真之氏。住宅の省エネルギー性能を客観的に調査・分析している気鋭の科学者だ。連載「冬に備える家づくり」の4回目となる今回は、前氏が上梓した書籍「エコハウスのウソ」(2012年6月発行)から、いくつかの解説を掲載する。まずは、なぜ「冬を旨とすべし」なのか、その理由を聞こう。
(イラスト:ナカニシミエ)

「家の作りやうは、夏をむねとすべし。冬は、いかなる所にも住まる。暑き比(ころ)わろき住居(すまひ)は、堪へ難き事なり。」──よく知られた吉田兼好(1283~1352)『徒然草』の一節。エコハウスで必ず引き合いに出される、この「夏を旨とすべし」(以下「夏旨」と略す)。実際のところは、どうなのか。

「夏旨」は、実のところエコハウス設計に甚大な「害」をもたらしている。害の一つ目は、通風だけで夏を過ごそうとする住宅を量産させたこと。こうした「夏旨」住宅の多くは、大開口による「開けっぴろげ」で、間仕切りなし+吹き抜けの「開放的」なプランになっている。

通風や扇風機だけでは限界

だが、温度も湿度も高く蒸し暑い「日本の夏」においては、空気をかき回すだけの通風や扇風機では限界がある。温度と湿度が非常に高いピンチの時には、エアコン冷房が唯一の命綱。しかし残念ながら、エアコンで効率良く冷房できることを真面目に考えた「真の夏旨」には、まずお目にかかれない。

こうした「通風一筋」のエコハウスでは、エアコンが変な位置に付けられていたり、そもそもエアコンが付いていなかったりする。何より、冷房が本当に必要な空間だけを間仕切ることができない。結果、冷房するには「家中を丸々」冷やさざるをえなくなり、あれだけ嫌っていた冷房の「増エネ」を招くという皮肉な結果に終わってしまうのである。

後述するように、冷房の消費電力は現状でも目くじらを立てるほどではない。いかなる時も使ってはいけないような「危険物」ではないのである。

もちろん、外部環境が涼しく良好なシチュエーションで通風が気持良くできることは素晴らしい。しかし、必要な時につつましく冷房できるという「次善の策」は絶対に必要である。吉田兼好だって、700 年後の人たちが文明の利器をかなぐり捨てて苦しく暮らしていると聞いたら、さぞビックリするだろう。

それが自分のせいともなれば、甚だ心外なのではないだろうか。昔は昔、今は今。21世紀における真の「夏旨」とは、通風と冷房の「2段構え」であることを、くれぐれもお忘れなく。

冬への備えは不可欠

「夏旨」偏重による2番目の害は、夏を重視するあまりに「冬への備え」がおろそかにされることである。ここで、オルゲーの生気候図に登場してもらおう(図1)。

図1 低温は我慢することができない

人間は汗が乾く限り暑さには強いが、低温は我慢することができない。体毛が薄い人間は冬に放熱量を抑えるすべが限られるので、気温が20℃を切れば寒低温は我慢することができない。人間は常夏のアフリカで進化するなか、毛皮を脱ぎ捨て暑さに特化した生き物。寒さにはからきし弱いのだ。

図2は、世界の主要都市における冬と夏の気温の関係である。東京は、夏の暑さでは香港やジャカルタ、マニラ並みに高い。一方で、冬はパリやベルリンと大して変わらない。最近では暖冬が多いとはいえ、冬の夜に氷点下を切ることは珍しくない。

図2 世界の主要都市における冬と夏の気温を比べた。WMO(世界気象機関)のデータベースから、1971年以降2000年までの2月と8月の平均値

このように日本では「夏は熱帯」「冬はヨーロッパ」という両極端の気候が、1年の中で否応なしに繰り返されている。日本に暮らすというのは、結構"過酷"なことなのだ。

こうした気象条件と人間側の事情とのギャップを考えれば、日本の大部分の地域において冬の寒さへの備えが何より重要なことは明白である。もちろん、日本の夏もかなり「手強い」ので無視できない。しかし、だからといって冬を軽視するのは絶対にNG。夏と冬のどちらかとなれば、まずは「冬を旨とすべし」である。

視覚イメージと実際のズレ

しかし、やはり夏のエアコンの消費電力は多いのでは…といぶかる人も多いだろう。当然のことながら、エネルギー消費を削減する「省エネ」は大事だ。ただしイメージだけでは、効果的な省エネはおぼつかない。冷房など、それぞれの用途がどれくらいエネルギーを消費しているのか、イメージと現実のギャップを見てみよう

まずは一般的な「イメージ」から見ていこう。「エネルギーを一番使っていると思う用途」を東京理科大学の井上隆教授が消費者にアンケートしたところ、暖房・冷房と答えた人がそれぞれ40%に達し、他の用途を圧倒する結果となった(図3)。

図3 「冷暖房がエネルギーを使う」と多くの人が思っている

こうした認識は正しいのだろうか。実は、エネルギー消費の調査結果は大きく異なる(図4)。

図4 冷房は大したことなし、本当に多いのは給湯や照明・家電

まずはエネルギー消費で「一番」との呼び声が高い暖房から見てみよう。北海道や東北、北陸といった寒冷地では、確かに暖房のエネルギー消費が多い。しかし、関東以南では暖房の割合は約20%にとどまる。

冷房にいたっては各地域でごく少なく、四国や九州のような比較的暑い地域でも4%足らず。イメージと現実のギャップが一番大きいのがこの冷房なのである。

逆にエネルギー消費が多いのは、給湯や照明・家電といった"地味"な用途なのである。

給湯・照明・家電はなぜ多い

なぜ冷房のエネルギー消費は少なく、給湯や照明・家電は多いのか。加熱・冷却する温度と期間に着目すると分かりやすい(図5)。

図5 冷暖房の期間は限られるが、給湯や照明は通年

冷房が必要なのは夏の限られた期間だけで、1 日の中での使用時間も短い。外気が35℃を超えることは滅多になく、室内の温度も25℃より低くはしないから、内外の温度差はせいぜい10℃。必要な時間帯だけスポットでオンすることが多いので、使用時間も最小限に抑えられている。

一方で、冬は外気が氷点下になり、内外の温度差が20℃を超える日が少なくない。在室時には暖房をつけっぱなしにすることが多いので使用時間も長く、冷房よりも多くのエネルギーが必要となる。ただし暖房も冷房と同じく、特定の季節にだけ利用される「季節限定」の用途。消費するエネルギーにはおのずと上限がある。

これが給湯になると、夏場でも水を温めずに風呂やシャワーにそのまま使えることはまずないから、年中エネルギーを使って水を加熱する必要がある。照明や家電も一年中コンスタントに使われる。こうした年間を通して消費されるエネルギーこそが、実はより多くのエネルギーを消費しているのである。

季節ごとの変化にばかり目がいって、年間を通しての「総量」を見過ごしていては、真の省エネ(省コスト)は達成できない。夏に、ちょこっと使うだけの冷房に目くじらを立てたところで、労多くして幸少なしである。

本当に省エネをしたければ、給湯や照明など年間を通して発生する用途を抑えた上で、次に暖房の対策に取り組むこと。冷房ばかりに頭がいって他の用途がおろそかにならぬよう、くれぐれもご注意を。

前真之(まえ・まさゆき) 東京大学大学院工学系研究科建築学専攻准教授。博士(工学)。1975年生まれ。1998年東京大学工学部建築学科卒業。2003年東京大学大学院博士課程修了、2004年建築研究所などを経て、2004年10月、29歳で東京大学大学院工学系研究科客員助教授に就任。2008年から現職。空調・通風・給湯・自然光利用など幅広く研究テーマとし、真のエコハウスの姿を追い求めている。

(書籍『エコハウスのウソ』の記事を基に再構成)

[参考]「エコハウス」と聞いて思い浮かべる住宅のデザインや暮らし方の多くが、真の省エネにはつながっていない。この事実を、客観的データと平易な文章で明らかにする。日経アーキテクチュアで大きな反響を呼んだ連載「エコハウスのウソ」に新たな問いを加筆し、計28の問いをテーマごとに再構成した。

エコハウスのウソ

著者:前 真之
出版:日経BP社
価格:2,160円(税込み)

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