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禅の心でアプリ開発 ITエンジニアの「いざ鎌倉」

10月中旬の三連休。古都・鎌倉の建長寺に早朝から、行楽客とは違ったいでたちの一団が集まった。プログラマーやウェブデザイナーなど、IT(情報技術)業界で腕に覚えのある面々だ。1泊2日で寺に泊まり込み、ある使命を果たすという。それは、禅の精神を味わいながら、共通の「お題」をチーム対抗方式で解くこと。創建から700年を超える禅寺と、時代のフロンティアに生きる開発者集団との異色のコラボから生まれたものとは――。

イベントの名は「禅HACK(禅ハック)」。鎌倉を拠点とするベンチャー企業を中心に構成する「カマコンバレー」が主催した。カマコンバレーはITの知見やノウハウを生かし、地元を盛り上げる活動に取り組んでいる。今回のイベントは、建長寺を舞台に「禅とITで世界の課題に挑む」のが趣旨だ。

古都・鎌倉の古刹「建長寺」が会場となった

ハッカー」の語源にもなっている「ハック」とは、プログラミングで知恵を出し合ってソフトウエアをより洗練されたものに磨き上げていく活動を指す。今回は座禅や精進料理をはじめとする禅寺の生活に浸り、非日常空間で力を出し切ってもらおうという合宿形式だ。

初日。会場には、ピーンと張り詰めた空気が漂う。参加したのは67人。最年少は中学2年生で、年齢層や肩書も多様だ。1チーム4~6人の12組に分けられ、100畳以上ある大広間でチームごとにまずは自己紹介が始まった。

 お題は「ごみ問題に挑む」。スマートフォン(スマホ)のアプリで、禅の心を取り入れたオリジナルのサービスをひねり出せ――という課題だ。各チームがアプリの開発を競う。地元や日本だけでなく、世界で応用できる可能性を秘めているかどうかも加点の対象となるという。

100畳敷きの大広間に67人のITエンジニアらが集まった

「建長寺は境内にごみひとつ落ちていません。ここでは『すべてのものを生かして使う』というのがモットー。食事にしても食べ残しは出さず、余り物が出ないように準備します。皆さんが素晴らしいアイデアでごみ問題と格闘してくれたらと思います」。建長寺の高井正俊宗務総長はあいさつでこう出迎えた。

1万800円(学生は半額)を払ってまで参加した人々の動機も様々。「なかなか座禅をする機会もないので、無の境地を体験できたら」という人もいれば、「賞金狙いに勝つために来ました」と話す人もいた。優勝チームは10万円が贈られるほか、製品化の見込みがある場合には最大180万円の開発費がでる特別賞もある。

午前10時すぎ。競争が始まると、各チームは思い思いの手法で開発に動き出した。禅ハックは「郷に入っては郷に従え」が原則。徹夜を厳禁としているのもそのためだ。夕食は午後5時と早く、消灯時間の午後9時までに入浴を済ませる。

早朝の座禅で精神を統一

翌朝は3時に起床し、3時半から全員が座禅に臨んだ。背筋を伸ばして半眼で意識を集中させる参加者たち。時折、僧侶が「警策(けいさく)」と呼ぶ棒で参加者の肩をたたく音がひときわ響く。

高井総長は言う。「禅とITは一見遠いものに見えるが、共通点もある。いったん自分をゼロにすることで全く新しい境地に至ろうとする点は似ている」「米アップル(創業者)のスティーブ・ジョブズがZen(禅)に憧れたのもそういう事情がある」

 朝6時に朝食のおかゆが振る舞われると、寺の関係者がこう説明した。「たくあんは最後まで残しておいてください。最後に器をぬぐって汚れを落とすためです」。小さな心がけの積み重ねでごみをなるべく出さない工夫に触れ、参加者は納得した様子だ。

精進料理で禅寺の生活を体験

そして迎えたプレゼン。各チームの制限時間は質疑応答も含め8分だ。途中で時間切れになるなど、ハプニングも続出した。一方、「分別されず捨てられたペットボトルを多く集め、子供にランドセルを贈る」提案をしたチームがアプリの実演で見せ場を決めてみせ、会場が沸く場面も。

優勝したのは、ごみ処理の経費に年間34億円をかけている鎌倉市を題材に、各世帯が排出するごみの量を削減すると市民サービスに還元される仕組みを提案した「SAISEI」。大学生2人と社会人2人の初顔合わせのチームだった。

「なかなか難しいお題だったと思うが、限られた時間でやり抜くことで鍛えられることが分かったと思う」。カマコンバレー発起人で、審査員を務めたネットベンチャーのカヤック(鎌倉市)代表取締役の柳沢大輔氏はこう語った。

禅寺とIT開発者の異色コラボで生まれたものとは――

無駄をそぎ落としてシンプルな思考を突き詰め、突破口を探り出す。禅寺合宿でそんな手応えをつかんだのか、賞を逃した参加者たちも晴れやかな面持ちで建長寺を後にした。カマコンバレーでは、海外でも「Zen」に共感するIT業界関係者が多いことから、このイベントに海外からの参加者を呼び込んで世界に輪を広げていくという。

(映像報道部 杉本晶子)

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