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情報が現実覆う ヘッドマウントディスプレー元年

(三淵啓自)

10月7日から5日間開かれた「シーテック・ジャパン」。今年の展示はウエアラブル端末やバーチャル・リアリティー機器のオンパレードで、ヘッドマウントディスプレー(HMD)が話題の中心だった。セイコーエプソンやソニーのほかコニカミノルタ、ミツミ電機などが眼鏡型のHMDを披露、注目を集めた。

眼鏡型のウエアラブル端末(シーテックジャパンで)

HMDは大きく2つに分けられる。拡張現実(AR)</用語>用と仮想現実(VR)用だ。AR用が実空間に情報を表示するのに対し、VR用は実空間を遮断してバーチャルな情報空間に実在するかのような存在感を示す。

我が国のAR用HMDは2011年、エプソンが「モベリオBT-100」を開発して本格的に動き出した。現実視野上に映像を重ねることが可能になった映像観賞機器だった。同年はNECもAR用HMDのウエアラブルコンピューター「テレスカウター」を40万円で発売したが、用途は業務用に限られていた。

流れを大きく変えたのが生活密着型のAR用HMDを目指した「グーグルグラス」だ。今年に入って一般販売も始まった。ただ、一般への普及には問題点も浮上し、米カリフォルニア州は「視野を妨害する」として運転中の着用は罰則対象となった。プライバシー保護の観点から利用を禁止するレストランやバーも出てきた。同端末を毎日18時間つけ続けた米海軍所属の男性が精神を病んだとの報告もある。

だが、世界でAR用HMDのニーズは大きい。エプソンが今年6月に発売した新機種「モベリオBT-200」は、情報表示モニターのほかセンサーやカメラを装備、AR用として登場。両眼に表示できて価格も手ごろなため、グーグルグラスよりも業務用として利用しやすいと評判だ。

 東芝も今年5月に「東芝グラス」を発表。特にインフラの整備・管理などの業務用途に特化し、来年の発売を目指している。ソニーは9月に「スマートアイグラス」を開発し、ソフトウエア開発企業向けに開発キットの提供を開始した。スマートフォン(スマホ)と連携させて文字や画像などの情報を視界に重ねて表示できる。ただ、表示が単色だけで本体がケーブルにつなぐ必要があるなど、商品化にはまだまだ時間がかかりそうだ。

 みつぶち・けいじ 米サンフランシスコ大卒、スタンフォード大学院で修士。オムロンやウェブ系ベンチャー企業設立を経て04年より現職。

一方、VR用HMDは周りの視野を遮断してVR空間に没入させるのが狙いだ。このため外観デザインや、業務用のように長時間の利用を想定する必要が薄く、市場ニーズもエンターテインメント、教育、遠隔作業など明確だ。9月の東京ゲームショウでも盛んに利用されたように、既にゲーム業界や娯楽産業で様々な試みが始まっている。

米国でもAR、VRともにベンチャー企業による開発が盛んに興っている。クラウドファンディングで開発資金を集め、開発用HMDを試作して提供し始めている。資金を集める狙いもあり、どの会社の製品もデザインはエプソン、ソニー、東芝などの日本企業より優れている。またユーザーを重視して多様な使い方を考えての開発が進められている。

今までの情報革命は、あくまでもモニターの向こう側、つまり情報空間の中でのみ生活が便利になった程度だった。ARやVRの普及で今後は、情報が現実さえもしのぐ社会になる。

商品開発も大企業の専売特許ではなくなり、アイデアさえあれば個人でも資金を集められ、戦略を構築し、賛同したメンバーを集めて企業を立ち上げることが簡単になってきた。大企業は資本力やブランド力ではなく、人材・知財・技術・ビジネス面でオープンな情報社会と協業できる柔軟性が求められそうだ。

(デジタルハリウッド大学教授)

〔日経MJ2014年10月24日付〕

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