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サザビーリーグと新潮社が仕掛けた進化系雑貨店

日経トレンディネット

2014年10月10日、「アフタヌーンティー」「ロンハーマン」などを展開するサザビーリーグと新潮社が組んで、東京メトロ東西線神楽坂駅前に、"キュレーションストア"と称して「la kagu(ラカグ)」をオープンさせた。

東京メトロ東西線、神楽坂駅前にオープンした「la kagu(ラカグ)」。昭和40年代に建てられ倉庫として使用していた場所(東京都新宿区矢来町67。ショップ11:00~20:00/カフェ8:00~22:00、ラストオーダー21:30)

昨今、生活全般に関わるアイテムを扱うライフスタイルストアが台頭している。それらは「セレクト」や「キュレーション」の体裁をとっているものも少なくない。さまざまなブランドからショップのコンセプトに合うものを集めて販売するほか、その道の第一人者(=キュレーター)に売り場の編さんを任せるといった手法だ。

昔なら「雑貨ショップ」とひとくくりに呼ばれていた業態だが、そこには雑貨のジャンルを飛び越えた個性あふれるしゃれたアイテムが並び、さらにはアパレル、カフェレストランまで併設されている。このような店は以前からもあったが、どんどん進化し、洗練されてきた。そんなライフスタイルストアの発展系として登場したのがラカグだ。

「長い間、使われていない倉庫を活用する方法を模索していた。神楽坂の駅前に隣接する特性を生かし、地域密着にしたいという考えはうっすらあったものの、アイデアが浮かんでは消えを繰り返し、この業態にたどり着いた」(新潮社代表取締役社長の佐藤隆信氏)。そんな折、新潮社の役員がサザビーリーグの鈴木陸三会長に相談したところ、神楽坂という地に非常に興味とインスピレーションが沸いた鈴木会長との間で協業の話が進んでいったという。

「神楽坂は古き良き江戸の持つすばらしさと、一方で外国人が好むようなコスモポリタンな一面がある希有(けう)な場所。この歴史ある地でエネルギーをぶつけて新しい文化と空間を作るのは面白いじゃないか、と。自分たちの得意としているファッション性の高い衣食住まわりのリソースに新潮社の"知"を加え、地域の皆様に愛されるような新しい試みをしていきたい」(鈴木陸三会長)

歩道から続く緩やかな階段。ここでは定期的にファーマーズマーケットも行われる。神楽坂界隈で働く人々、住民にとっても新たな憩の場となりそうだ

そこで、神楽坂在住の建築家である隈研吾氏に設計を依頼したところ、快諾を得てプロジェクトが動き出した。

「今、世界の都市の流れは『ウォーカブル』になっている。路地や坂があって歩くことが楽しい場所に注目が移っていくだろう。この立地は神楽坂と最近おもしろい飲食店が多い牛込をつなぐピボットヒンジ(丁番のこと。そこを支点に開閉させる機能を持つ金具)のような場所でもある。神楽坂の長所である表と裏の境目、つまり観光地でもあり昔からの生活空間でもあるそのボーダーライン感を楽しんでほしい」(東京大学教授で建築家の隈研吾氏)

コンセプトは「REVALUE」

延床およそ990平方メートルにもおよぶ店内の1階にはウィメンズファッション、生活雑貨、カフェ、2階がメンズファッション、ブックスペース、家具、レクチャースペースで構成されている。

ラカグの最大の特徴はそれぞれのコーナーを別々のプロフェッショナルが編さんするキュレーターシステムをとっていること。ウィメンズファッションは大手セレクトショップバイヤーの安藤桃代氏、生活雑貨はスタイリストの岡尾美代子氏、メンズファッションは田中行太氏、そして書籍はブックディレクターの幅充孝氏がキュレーションする。

各コーナーに仕切りはなく開放的。右手がウィメンズファッション、奥は生活雑貨、左手はカフェになっている
安藤桃代氏がキュレーターを務めるウィメンズファッションは「メゾン マルタン マルジェラ」「マルニ」などのハイブランドから、メンズでも展開するオリジナルの「ハンドレッドソン」まで幅広い

「今回キュレーションするにあたり、一番気を配ったのは上下のフロアを分離しないこと。新潮社の倉庫のリノベーションという"磁場"を大事にしたいと考えた。本を大事にすることが他にも増えつつあるキュレーション型施設との差別化だと考えているので、1階にどうやって自然に本をすべり込ませるかを重要視した」(ブックディレクターの幅充孝氏)

道路沿いは一面ガラス張り、開放的な1階

カフェスペースには長テーブルが2つあり、合計で50席。ホットドッグなどを提供する

1階のカフェは鎌倉の「LONGTRACK FOODS」の馬詰佳香氏がキュレーションを担当。ソーセージ、ハム、テリーヌ、リエット、パテなどのシャルキュトリー(肉の加工食品)専門店コダマの自家製ソーセージや、イタリアやスペインから直輸入の生ハムが並ぶ。コーヒーは鎌倉の「カフェ・ヴィヴモンディモンシュ」の堀内隆志氏が焙煎したオリジナル。これらをみんなで囲む形のどっしりとした長テーブルでいただく。

ディナータイムにはワインとともにイタリアやスペインから直輸入した生ハムなどを提供(上左)、ランチには揚げたてのフレンチフライとサンドイッチやホットドッグなどワンプレートで(フレンチフライ、ベジタブルディッシュ、ドリンク付き)900円~(上右)、旬のフルーツのトライフル600円(下)

ウィメンズファッションはメゾン マルタン マルジェラ、マルニなどのハイブランドからオリジナルまで、モードとベーシックのミックスで嫌みのない大人のおしゃれが完成する。ターゲットは主に40代以上の女性だ。

ライフスタイル雑貨はフランスやドイツ、日本など世界中から集めた、ベーシックで質の高いものが中心。中には数万円もする掃除ブラシなどもある。

倉庫だった空間をそのまま生かしたレイアウト
フランスを中心にセレクトされた食器や調理器具、世界各国から集めたタオルやリネンなどと一緒に、日本古来の伝統を引き継ぐおひつや茶筒なども並ぶ生活雑貨コーナー
オーストラリアのオーガニックコスメブランド「Aesop」などバスグッズも充実している
日常使いできそうなベーシックな食器からスイーツのキャンドルやペンギンの置物などキッチュなものも並ぶ

本を通じた新たな提案の場

2階は新潮社倉庫というもともとの環境を生かし、書籍、メンズファッション、インテリア、そしてワークショップやイベントを開催するレクチャースペース「soko」(※2文字目oの上に横棒)で構成されている。

レクチャースペースsokoの周りを囲むのは新潮社文庫3000冊。書店では入手困難なものもここでならありそうだ。レクチャースペースの横にはブックスペースがあり、テーマは「10×10(テンバイテン)」。小説家や翻訳家など、ラカグにまつわる10人の選者が10タイトルずつ選書した本が展示販売する

sokoでは作家のトークショー、季節折々のワークショップなどを予定。「本を買うということは、本がその人の生活文化の中に入るということだと思う。このプロジェクトは会社の多角経営や単なる不動産運用ではなく、生活文化と出版文化の掛け合わせのきっかけ作り。sokoのスペースは新潮社のPRの場とは考えていない。将来的には他社とのコラボ企画もあるかもしれない。また、リアル店舗の売り場編集は出版物の編集と非常に似ている。この取り組みが社員の思考の活性化にもなれば…」(「新潮」編集長の矢野優氏)

メンズファッションエリアは、片岡義男の世界を懐かしむ40~50代の男性にもう一度趣味を追求させるような、また、昔好きだったものを呼び覚ますかのような構成になっている。

ファッションからキャンプ用具、ドライバーなどの工具までそろうメンズファッションコーナー。週末に立ち寄ってアウトドアグッズをそろえ、そのまま出かけられそうだ

ビンテージフリスビー、テニスラケット、アイビーリーグのポスターを置きつつも、アメリカントラッド、アウトドアカジュアルなどのリアルクローズが中心だ。

家具は長野県上田市に拠点を置く北欧ヴィンテージの名店、halutaの監修。ハンス・ウェグナーをはじめとするヴィンテージものがそろう。

ビンテージもののフリスビーやアイビーリーグのポスターなども販売。1点ものも多い
流行に左右されず何十年も使える、北欧のビンテージ家具が並ぶ

出版社ならではの仕掛け

オープニングにあたり、入り口正面でのポップアップスペースでは「la kaguと書き手」 という企画を展開している。15人の小説家がラカグの商品を選び、それを実際に2週間~1カ月使用して、そのインスピレーションを文章につづるという試み。広告的ではなく、本心からの使い心地を表現している。小説家たちの意外な素顔も垣間見えて面白い。

また、出版社の社内では当たり前のようにある束(つか)見本。書籍を出す際に、実際に使う紙や装丁方法で何も印刷されていない見本をつくるのだが、それをそのままノートのように使ったらかっこいいのでは、というサザビーリーグの提案で、オリジナル商品として販売することになったという。

「今の時代、『物販はこうすれば売れる』という勝ちパターンはない。今までは外的な要因、例えばファッションだとか持ち物だとか、そういうものが重要だったかもしれない。しかし今後はそれにもう少し自分のインターナルなもの、内側のものを自分で再発見する時代になるのではないか。ここに足を運んでもらって、本を選び、洋服を見て、軽食とコーヒーで2~3時間の豊かな時間を過ごしてもらえれば。自分一人でもさびしくない、『alone but not lonely』なのかな」(鈴木陸三氏)

ラカグオリジナル商品が並ぶコーナー。出版社が書籍を出す際に実際に使う紙、装丁方法で真っ白な見本をつくるのだが、その体裁をそのままノートにしたものは900円~
15人の小説家が選んだ商品とその使い心地を文章にしたためた「la kaguと書き手」

(ライター 三井三奈子)

[日経トレンディネット 2014年10月10日付の記事を基に再構成]

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