避けられない温暖化 「適応策」で新ビジネス - 日本経済新聞
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避けられない温暖化 「適応策」で新ビジネス

世界各地で異常気象が頻発し、地球温暖化との関連が疑われている。国連の専門機関は二酸化炭素(CO2)の排出増による温暖化はもはや避けられず、被害を減らす「適応策」が重要になると指摘した。欧米企業はこれを新たなビジネスチャンスとにらみ、事業の具体化に動いている。「適応ビジネス」に求められるのは温暖化の被害を受ける地域と共生する発想だ。

回避は困難 温暖化前提に被害抑える「適応策」へ

国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が今春まとめた報告は、温暖化対策が曲がり角にあることを示した。地球の平均気温が2度以上上がると洪水や熱波、干ばつなどが多発し、台風も巨大化すると予測する。一方で温暖化ガスの排出を減らす国際的な枠組みづくりは難航し、温暖化は回避できない状況になりつつある。

そこで浮上してきたのが、温暖化の被害を最小限に抑える適応策だ。IPCCの部会がまとめた報告は適応策の強化に多くの章を割り当て、国レベルの対策だけでなく民間が果たすべき役割も大きいと指摘した。

プラス効果も、商船三井は北極海に定期航路

適応ビジネスの先行例はすでにある。温暖化は気象災害などで損害をもたらす半面、一部でプラスの効果も予想されている。それに着目したビジネスだ。

たとえば北極海の氷が溶けると、船が年間を通じて航行できるようになる。それをにらんで商船三井がロシア北部と欧州、日本を結ぶ定期航路を開くと発表し、話題になった。

農業でも、これまで温暖な地域に限られていたミカンなどの栽培地域が東北地方まで広がると予想される。食品メーカーや商社などは生産地の変化を予測する研究に動き出している。

だが企業に期待されているのは、温暖化のプラス面を上手に活用するビジネスだけではない。

国連事務局、適応ビジネスの事例を公表

国連の気候変動枠組み条約事務局(本部ドイツ・ボン)は、適応ビジネスに乗り出した企業の事例を世界から集め、データベースとして公表している。「プライベート・セクター・イニシアチブ(PSI)」と名付けられ、すでに100以上の事例が集まり、業種も食品、化学、情報通信、金融・保険など幅広い。

興味深いのが、独化学大手BASF、同製薬・化学大手バイエル、コカ・コーラなどの事例だ。

バイエルやBASFは高温や乾燥に強いダイズ、トウモロコシの品種改良・開発など、途上国の穀物生産を支援する。協力内容も研究開発から人材育成まで幅広い。医薬・化学品の原材料として熱帯・亜熱帯の植物の重要性が増しており、長い目で事業の継続性を保つことが狙いとみられる。

コカ・コーラも途上国の水資源確保に向けた事業を表明している。安全な飲み水の確保は世界各地で深刻な問題になっているが、温暖化はそれに拍車をかけるとみられるからだ。

相手国と共生の発想で

これらに共通しているのは、温暖化で被害が予想される国との共生を訴えていることだ。温暖化に便乗したビジネスという印象を地元や国際社会に与えてしまえば反発は免れない。一方で、企業の社会的責任(CSR)を旗印に掲げるだけでは利益に結びつきにくい。その中間で新たなビジネスモデルを模索する動きといってよいだろう。

残念なことに、PSIデータベースに登録した日本企業は、国内で水資源管理を進めるサントリーグループなど数社しかない。水面下で海外事業を計画している企業は多いはずだが、それを世界にアピールする姿勢も必要だろう。

(編集委員 久保田啓介)

[日経産業新聞2014年10月16日付]

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