相鉄・東急直通線の大工事 「新横浜-日吉」の未来図
相鉄・JR直通線の施設として建設されている羽沢駅を除けば、相鉄・東急直通線の施設で現在、最も工事が進んでいるのは新横浜駅(仮称、港北区)である。

JR新横浜駅の北側を通る横浜市道環状2号線の直下に位置する地下駅で、駅舎の最大幅は28.5m、深さは32.9m。駅はコンクリート4層構造で、ホームは最も深い地下4階となる。ホームの配置は折り返し列車の運行に対応し、幅8.2m・長さ約200mの島式ホーム2面3線となる。


駅コンコースは地下1階で、駅中央部の地下2階をほぼ直角にクロスする横浜市営地下鉄ブルーラインと乗り換えできる構造だ。地上出入り口は、相鉄・東急直通線単独では環状2号線をまたぐ円形歩道橋の周囲に3カ所設ける予定だが、市営地下鉄の出入り口1カ所も合わせると計4カ所となる。
相鉄・東急直通線の駅自体はJR新横浜駅と直結しないが、市営地下鉄の出入り口を経由すればJRの駅とも地下で行き来できるようになる予定だ。

地下駅開削に「CSM工法」
新横浜駅の工事は開削工法で行われ、施工者は清水・竹中土木・熊谷・松尾JV(共同企業体)。円形歩道橋付近の76.5mについては、鉄道・運輸機構が横浜市交通局に委託しており、こちらは鹿島・鉄建・不動テトラ・NB建設JVが施工者となっている。
本格的な工事は2013年12月に始まった。現在行われているのは掘削の際に周囲の土が崩れないよう壁を設ける土留め工事で、回転カッターで地面を掘削し、土とセメントを混ぜ合わせる「CSM(カッターソイルミキシング)工法」を採用。そこに「NSボックス」と呼ばれる継ぎ手の付いた鋼製の芯材を並べて壁とする鋼製地中連続壁を造る作業が進んでいる。

鋼製地中連続壁は土留め壁としてだけでなくそのままトンネル本体の壁として使えるため、土留め壁の内側にコンクリートで躯体(くたい)をつくる工法と比べて全体の幅を抑えることができるという。
現在は円形歩道橋より東側で鋼製地中連続壁をつくる作業が行われており、「世界に4台しかない」(鉄道・運輸機構新横浜鉄道建設所の中西孝治所長)という、ドイツ・バウアー製の4つの回転カッターを備えた掘削機が、地中深くを掘り進めている。
現場近くにある市営地下鉄の第6出入り口はこの壁を設ける位置に当たるため、2014年8月上旬に閉鎖された。同出入り口の西側にある第5出入り口も、2013年1月から移設工事が行われている。環状2号線の車線規制とともに、一般利用者にも相鉄・東急直通線の工事が「見える」部分だ。

新横浜を境に変わるトンネル断面
新横浜から次の新綱島(仮称、港北区)までは約3.6kmで、引き続き全区間が地下線となる。この「新横浜トンネル」は複線シールドトンネルとなり、うち約1kmは東急東横線の直下を通る。施工者はまだ決まっていない。
新横浜トンネルの断面は、羽沢─新横浜間の「羽沢トンネル」より狭くなる。理由は、東急と相鉄で車両の幅が異なるためだ。
相鉄の車両は最大幅2.95mで、鉄道・運輸機構によると車両限界は3m。対して東急の車両限界は2.82mとやや狭い。新横浜までは幅の広い現在の相鉄車両が入線する可能性を考慮しているが、新横浜から先は東急線に乗り入れできるサイズの車両のみ入線できるトンネル幅となる。

計画では、相鉄線から東急線方面への直通列車はラッシュ時10~14本、その他の時間帯は4~6本の運転が想定されている。 現在の相鉄車両では東急線への乗り入れができないことになるが、相鉄によると車両については今のところ未定という。
新綱島駅はたて坑、両側にシールド機発進
新綱島駅(仮称)は、東急東横線綱島駅の東側約200mほどの位置に設けられる深さ34.9m、幅19.7mの地下駅。ホームは幅8.2m、長さ約200mの島式1面2線となる計画だ。
工事については、2013年12月に施工者が安藤・間・不動テトラ・日本国土・奈良JVに決定。開削工法で建設する予定だが、まだ実際の工事は始まっていない。
新綱島駅は新横浜方面、日吉方面へのシールドトンネル掘削の発進たて坑ともなるため、駅工事の進捗が両トンネルの工事にも影響することになる。今後、相鉄・東急直通線の工事が順調に進むかどうかの一つのカギとなる場所だろう。


綱島といえば東京近郊の温泉地としてその名を知られる街だ。相鉄・東急直通線の建設に対しては地域住民らから温泉への影響を懸念する声があり、これまでに反対集会も開かれている。
しかし、鉄道・運輸機構によると「温泉が湧く層は地下100mから150m程度なのに対し、線路は地下30m程度なので直接影響しない」という。現場では水密性の高い鋼製地中連続壁を使った工事を行うなど、工法の面でも配慮するという。
日吉駅付近、東横線止めずに高架受け替え
新綱島から東急東横線・目黒線の日吉駅までは約2.2km。このうち、日吉駅付近の600mほどが地表区間、ほかは地下区間となる。新綱島─日吉の「綱島トンネル」は大半の区間で東急東横線高架沿いを通るため、高架橋の基礎を避けて両側の側道の下に単線トンネルを2本並べた形となる。
シールド機は新綱島駅の東端からまず1本のトンネルを掘り進む。日吉駅の西600mほどに位置する東横線の「日吉第三架道橋」付近に設けられる仮設たて坑でUターンし、もう1本のトンネルを新綱島に向けて掘り進む。こうして2本の単線トンネルを掘削する。
この仮設たて坑を境に日吉駅側は東横線の高架を改築しながら工事を進める必要があることから、東急電鉄が鉄道・運輸機構から委託を受けて工事を行う。
既存の東横線高架の直下から地上に出た相鉄・東急直通線を高台の上にある日吉駅に接続させるため、東横線を運行しながら高架橋の拡幅・新設や受け替えなど「相鉄・東急直通線の地上部では最も難しい」(鉄道・運輸機構の担当者)工事が行われる区間だ。

工区は4つに分かれており、施工者は日吉駅部分の1工区が東急・西武建設JV、高架橋を拡幅し「2層高架」とする2工区が大林・大和小田急建設JV、トンネルから地上に出る部分の3工区が鹿島・鉄建JV、東横線高架橋直下の箱形トンネル区間である4工区が清水・京急建設JVとなっている。
工事には2014年1月から着手し、鉄道・運輸機構によると現在は掘削の準備やシートパイル工事を行っている段階だ。

既設高架橋の下にトンネルを新設
綱島トンネルのシールド機が折り返す仮設たて坑から日吉駅側は箱形の複線トンネルとなり、東横線高架の直下に入る。この区間が「4工区」だ。
ここでは、現在の高架橋の基礎がある部分にトンネルを通すため、トンネルの上部を構築して高架橋を受け替え、従来の基礎の部分を撤去してトンネルを完成させる。
4工区は高架をトンネルで支える形になるため、高架の受け替えといっても地上から変化は分かりにくいが、相鉄・東急直通線がトンネルから地上に顔を出す区間となる「3工区」は地上からも見える形で工事が行われる。この区間では高架橋の下に相鉄・東急直通線の線路を敷設するが、既存の高架のままでは下に線路を通せないため、高架を支える柱を新たに造り直して受け替える。

全撤去したうえで拡幅
「2工区」は高架上に東横線の複線と引き上げ線(一部)、下に相鉄・東急直通線の複線を通す「2層高架」とするため、現在の高架橋はいったん全て撤去したうえで新たに幅の広い高架橋を造り直すという大規模な工事が行われる。
手順としては、まず既存の高架の両側に新たな高架の外側となる部分を設け、東横線の線路を移設。その後、従来の高架を撤去し、空いたスペースに新たな高架の中央部分を構築するとともに、高架下に相鉄・東急直通線の線路を敷設する。日吉駅付近で最も大掛かりな工事が行われる区間といえるだろう。

日吉駅ホームが渋谷方に移動
日吉駅と、相鉄・東急直通線が高架下から顔を出す横浜方の掘割区間を含むのが「1工区」だ。
日吉駅は高台にある島式ホーム2面4線の地下駅で、東横線が外側の1・4番線、当駅が終点の目黒線が内側の2・3番線を使用しており、横浜方には目黒線折り返し用の引き上げ線が2本ある。

相鉄・東急直通線の線路は東横線の内側に新設するため、工事にあたっては東横線の線路を外側に移設するとともに引き上げ線を1本に削減し、東横線と引上線の間に線路を通す。日吉駅から横浜方を見ると、東横線の線路は目黒線の引き上げ線終端部付近までが掘割、その先が高架となっている。この付近で相鉄・東急直通線が東横線と引き上げ線の間に入ってくることになる。
日吉駅は同時に、ホーム渋谷方にある電気室を付近の高架下に移設してホームを渋谷方に延伸する。東横線とともに当駅から相鉄・東急直通線に乗り入れる目黒線は、現在の6両編成から8両編成に延長する構想があることが知られているが、東急電鉄によると「現時点では8両編成化の計画は具体化していない」という。

2019年の開業に向け、沿線各地で工事が進展する相鉄・東急直通線。一方、当線とともに神奈川東部方面線を構成する相鉄・JR直通線は当初予定の2015年から2018年度に開業が先延ばしされた。今後は、5年後の開業に向けて相鉄・東急直通線の難工事が順調に進むかどうかも注目されるだろう。
(RailPlanet 小佐野カゲトシ)
[ケンプラッツ2014年9月19日付記事を基に再構成]