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保険ありきではない がんや三大疾病への備え方

まず公的保障、足りない分を貯蓄で

 「結婚記念日おめでとう、カンパーイ」。新衣紗は両親と超高層ビルの最上階のレストランに来ています。窓の外はきれいな夜景。隣のテーブルに男性客が1人、さみしそうに座っています。

にいさ あれ、もしかして、鯛吉さん?

たいきち ギクッ。こ、こんばんは。

りこ あら、おめかしして。女性と待ち合わせかしら。もしかしてバーバラさんと?

たいきち いや、それが、たった今仕事で来られないと電話が……。

にいさ 振られちゃったんだ。ふふ。

とうしろう 仕事なら仕方ない。こっちにおいでよ。夜景もよく見えるよ。お、向こうのビルはピンク色だ。

にいさ 10月は乳がんの啓発運動の月なんだって。ピンクのイルミネーションをニュースで紹介してたよ。

とうしろう へえ、知らなかったな。日本人は2人に1人が、がんになるという話はよく聞くが。

たいきち そうですね。なかでも高齢者が多いです。2010年に新たにがんと診断された人の割合を年代別にみると、男女とも年齢が高くなるほど数値が大きくなります。高齢者に比べ20~30代はわずかです。藤志郎さんはそろそろ心配した方がよい年代かもしれません。

とうしろう 人間ドックには毎年行っているぞ。もし、がんになったら治療も大変だが、お金も掛かりそうだから心配だな。

たいきち 確かにお金がかかるケースはありますね。例えば治療費です。抗がん剤の中には薬代が月10万円を超えるものもあります。医療費の自己負担額は高額療養費制度があるので通常、月に8万円強が上限ですが、治療が長期化すると負担は重くなります。同制度対象外の重粒子線治療など先進医療を受けると、自己負担が300万円ほどになることもあります。

とうしろう 300万円の治療か。それは大変だ。

たいきち 治療費以外にもお金がかかります。例えば治療で髪が抜けたときのかつら代。女性の場合は乳がんの手術の後に乳房の再建をすることもあります。

とうしろう うーむ。やはり備えはあるに越したことはないな。でもどのくらい必要なのだろう。

たいきち それは難しいですね。病状などで大きく変わるので一概に言えません。ほかの病気と同じで大抵の治療は健康保険の範囲で収まります。誰もが何百万円もかかるわけではありません。

りこ 民間の医療保険は使えないの?

たいきち 医療保険は病気を問わず、入院や手術で給付があります。ただ一般にはそれほど高額の保障はありません。もし多額の出費に備えるなら、がん保険に加入するのも選択肢ですね。がん以外には対応しませんが、その分保障は手厚くなります。

にいさ どう手厚いの?

たいきち がんと診断されると診断給付金というまとまったお金が受け取れる。商品にもよるけど、大体100万円以上が多い。最初にまとまったお金があれば、生活費にも治療費にも使える。

りこ でも先進医療を受けるなら足りないわ。

たいきち 診断一時金以外にも、手術や放射線などの治療を受けると、それぞれ給付を受けられることも多いです。重粒子線治療など先進医療の自己負担を全額カバーする特約を付ける人も多いですね。通院のたびに保険金が出れば、治療が長期に及んでも安心です。

とうしろう 私は脳卒中も心配なんだ。

たいきち 三大疾病に備える保険なら脳卒中や急性心筋梗塞もカバーします。ただ脳卒中と急性心筋梗塞は後遺症が残った場合しか給付対象にならないのが一般的です。カバーする範囲が広い分、保険料も高くなりやすいです。

りこ 女性特有の病気の保険もあるわね。

たいきち 女性向けの医療保険ですね。基本は通常の医療保険と同じで入院や手術をカバーするのですが、子宮の病気などの場合は給付が手厚くなります。

りこ いろいろ備えなくてはならないのね。

たいきち 保険だけが医療費の備えではありません。まず考えたいのは貯蓄です。公的な医療保険で足りない分は貯蓄で賄えばいいのです。病気にならなければ趣味や旅行にも使えます。

にいさ 貯蓄がなかったり、少なかったりする若い人はどうすればいいの?

たいきち 病気になる確率が比較的低い若いうちは民間保険で最低限のカバーをしつつ、積立貯蓄をするのが基本かな。民間の保険は本来、貯蓄でカバーできない事態に備えるものなんだ。年齢を重ねて、ある程度の貯蓄ができたら保険をやめてもいい。心配だからといって保険に入っていたら、いくらお金があっても足りないよ。

とうしろう その通りだね。心配し過ぎて過剰な保険料を払うより、その分おいしいものを食べたほうが元気になって、医療費がかからないかもしれない。よし、きょうはステーキだ。

にいさ パパ、最近メタボ気味でしょ。ステーキなんて食べていいの?

とうしろう 食べる前に言わないでよ~。

「若い間は保険、老後は貯蓄という備え方も」 ファイナンシャルプランナー内藤真弓さん


 がんになった場合の大きなリスクの一つは収入が減ることです。特に現役世代では治療のため休みがちになったり、体調面の問題で仕事を続けられなかったりして家計が厳しくなることがあります。がん保険で治療費を確保する意味は大きいでしょう。一方で年金が支給される世代は生活費のリスクが相対的に小さくなります。若い間は保険で備え、リタイア後は貯蓄で対応するのも一つの考え方でしょう。
 実際にがん保険を選ぶ際は「診断一時金」を中心に考えることを勧めます。通院や治療ごとの給付は治療が長引いたときに助かりますが、その都度、請求手続きをする煩わしさがあります。元気なら僅かな手間でも、療養中は違うかもしれません。がんの治療は年々進歩しています。特定の治療などに特化した保障は時代に合わなくなるリスクもあります。

[日本経済新聞朝刊2014年10月11日付]

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