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地域創生のカギ握る ネットでつながる「風の人」

ブロガー 藤代裕之

「地方創生」が動き始めた。安倍晋三首相は所信表明演説で、島根県海士町などの事例を挙げ、「やれば、できる」と力を込めた。一方で、何度目かの地域活性化バブルによる、ばらまきを警戒する声も上がる。人口減少というかつてない状況に対応するためには、新たな取り組みが必要だ。そのヒントを探るため、夏に全国で取材を重ねた。そこで見えてきたのがソーシャルメディアでつながった「風の人」だ。

見えないコトに価値がある

「何もない町でしょう」。ある地方都市でタクシーに乗ったら運転手にこう話しかけられた。その地域にある鉄道好きに知られる電車の話をすると、「ボロくてどうしようもない。あんなのは地元じゃ誰も乗りませんよ」と悪口を言い始めた。運転手は「昔は高校もたくさんあって、裁判所もあって……」と続けた。駅前に延びるシンボルロードはきれいに歩道が整備されているが、シャッターが閉まった店舗と空き地になった駐車場が目立つ。

安倍首相が紹介した海士町のキャッチフレーズは「ないものはない」だ。「さざえカレー」「隠岐牛」といった農水産物のブランド化、高校への島外からの留学などを推進し、人が集まる町となっている。さざえも、高校も、海士だけにあるわけではない。「ないものはない」は、ゼロから地域を見つめなおして、あるものを再発見し、創り上げていく姿勢といってよいだろう。だが、地域に眠る価値に気づくのは難しい。

筆者の出身地である徳島県にも、上勝町と神山町という注目を集める町がある。上勝は葉っぱビジネスを興した町として知られる。おばあちゃんたちが、葉っぱや花などを料理のつまものとして出荷する。神山にはIT企業がサテライトオフィスを構え、芸術家が集う。徳島新聞で記者をしていた時代、この2つのユニークな町で起きているコトを「見逃した」という悔しい思いがある。

上勝町は平成の大合併に加わらず、四国で一番小さな町となることを選んだ。将来を熱心に考える自治体という印象だったが、合併を進めたい当時の県からすれば煙たい存在だった。職員が町民と勉強会を重ね、その講師として呼ばれたこともあるが、葉っぱビジネスがこれほど全国から注目されることになるとは思いもしなかった。

神山町は、町民らが、道路をきれいにするアドプト・プログラムや芸術家を呼ぶアーティスト・イン・レジデンスなどに取り組んでいた。アメリカ帰りの変わった人がいるという噂を聞いた、それがNPO法人グリーンバレーの大南信也さんだったことは後から知る。モノは分かりやすいが、コトは見えにくい。

コトを見つける「風の人」

見えないコトに気づくためにはどうすればいいか。地域活性化ではよくいわれる「よそもの、わかもの、ばかもの」の存在だ。固定化された人間関係では気づかない、異分子が入り込むことで「発見」が促される。

だが、これまでの活性化策では、人口を増やすためにIターン、Uターンといった定住が重視されてきたことで、「よそもの、わかもの、ばかもの」の力を削いできた。定住すれば「よそもの」ではなくなるし、「わかもの」もいつしか年を取る、「ばかもの」は沈黙して去っていく。

安倍首相が拡大するとしている地域おこし協力隊は、「定住・定着を図りながら、地域の活性化に貢献」する存在。2013年度で978人、実施自治体は318にのぼる。だが、新たな視点を期待される協力隊だが、発言力がなかったり、しがらみで身動きがとれなかったり、十分な取り組みができないケースもあるようだ。

全国の地域おこし協力隊が中心となってつくる村楽LLPは、フェイスブックで「地域おこし協力隊『失敗の本質』」という情報を発信している。「自分の子供が戻ってこない理由に向き合う必要がある」、「主役は地域住民で協力隊はあくまで裏方」と受け入れ側の意識も問う。

新たなコトを見つけ出し、価値を創ることは、これまでの地域の考えや方法を否定し、波風を立てることになる。定住か、活性化か、二兎(にと)を追うのは難しい。定住ありきではなく、異分子であり続けるために、風を運び、風を起こし、去ってもよい「風の人」としての役割のほうが重要ではないか。

風の人と土の人

例えば、さざえカレーは商品開発研修生という制度で島にやってきた人とリクルートの担当者が、製造、販売からパッケージについてコンサルティングを担当した。大南さんはアメリカへの留学経験があり、アーティストを招へいしたり、シェアオフィスを運営したり、常に「風の人」を町に入れる工夫をしている。

徳島県美波町でITふれあいカフェを設けて、高齢者との共同製品開発を目指す奥田浩美さんは鹿児島出身で、インドの大学院を修了し、IT業界ではそのパワフルさから女帝とも言われる。奥田さんは「その町ですごく頑張っている人がいるところに登場する」と話す。「主役は地域住民で協力隊はあくまで裏方」という村落LLPの指摘とつながる。いくら外から魅力的なコトが見えても、地域の人が自分ゴトにしていなければ、どうにもならない。

「風の人」に対して地域の人を「土の人」と呼ぶ。土の人と風の人が組み合わさることで、風は地域の人にも吹き、変わり始める。

このコラムでも紹介した東北食べる通信の高橋博之編集長は、東日本大震災でボランティアに来た都市の人がスキルを生かして支援活動をしていることをきっかけに、食で人をつなぐ仕組みを考えた。食べる通信では、読者が生産者のもとに駆けつけ、共に出荷を行う。つながることで消費者が生産者になっていく。モノとスキル、体験が交換されていく。高橋さんは「食の宅配ではなくてコミュニティーサービスだ」と説明する。

生まれる仲間経済

リーマン・ブラザーズ証券から地域おこし協力隊になり、四国食べる通信を立ち上げた眞鍋邦大さんは、このような交流により生まれる生産を「仲間経済」と呼ぶ。これは、地縁でもなく、血縁でもない、新たな関係だ。

眞鍋さんは言う。「成長ではなく横につながり、広がっていく」と。食べる通信の会員上限は1500人にとどめ、他地域に展開していく方法を取る。会員数を限定することが、都市の大量消費に合わせて、独自性を失っていくことを防いでいる。ただ、仲間経済は、体験しなければ理解するのは難しい。

地域活性化という話をすると「せっかく来ても、すぐに東南アジアに出て行ってしまう。誘致のために整備して、税金も優遇したのに」と工場誘致の話をする人もいる。高校や裁判所がなくなったことを挙げたタクシー運転手も同じで、人は分かりやすいハコと成長モデルからなかなか脱却できない。だからこそ、地域の見えないコトを教えてくれる「風の人」は貴重な存在なのだ。いきなり定住をめざし、地域に縛り付けるのではなく、回り道のようだが、いかに人が行きやすく、過ごしやすいかという取り組みが必要になるのではないだろうか。

藤代裕之(ふじしろ・ひろゆき)
ジャーナリスト・ブロガー。1973年徳島県生まれ、立教大学21世紀社会デザイン研究科修了。徳島新聞記者などを経て、ネット企業で新サービス立ち上げや研究開発支援を行う。法政大学社会学部准教授。2004年からブログ「ガ島通信」(http://gatonews.hatenablog.com/)を執筆、日本のアルファブロガーの一人として知られる。

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