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通信事業者への挑戦か グーグルの気球ネット網計画

ITpro
米Google(グーグル)は2013年6月、「Project Loon(プロジェクト・ルーン)」という名称で、気球と無線ネットワークを活用したデータ通信を提供する実験を始めた。この実験はインターネットの利用が困難なへき地での、安価なデータ通信の提供を目的とし、無免許で利用が可能な電波を活用するといわれていた。しかし、2014年4月17日、米PC World誌はProject Loonのチームが、LTEで利用される周波数帯域を活用した実験を米ネバダ州で進めていると報じた。この件についてGoogleは正式なコメントを出さなかったため、多くの海外メディアから注目を集めることとなった。本稿では情報通信総合研究所 主任研究員の三本松憲生氏に、Project Loonが目指すものなどについて解説してもらう。

Project Loon は、飛行機の航路や天候に影響を受けない地表から約20kmの成層圏に、通信機器やGPS(全地球測位システム)、太陽電池などを搭載した気球を飛ばす、新しい取り組みだ(図1)。

気球は地上の家屋の屋根に取り付けたアンテナと無線通信。気球同士がネットワークを構成し、インターネットに接続された地域の地上回線につなぐ。電力は、太陽電池の発電ですべて賄う。

このプロジェクトの主たる目的は、浮かべた気球から免許不要の無線を利用することで、へき地に安価なインターネットサービスを提供することだ。ニュージーランドの一部エリアで実験していることを明らかにしている。

この実験は現在も続けられており、2014年4月4日にはGoogle+上にあるProject Loonのページを通じて現時点の実験の内容を写真とともに報告した。そのページによれば、実験に用いられた気球は22日間をかけて地球を1週したという(図2)。

加えてこれまでの走行距離が50万キロメートルに達したとしており、現在は2周目の航行中であるという(図3)。そのほかにもProject Loonのページでは、実験開始からこれまでの間に取り組んだ改善策(搭載されたソーラーパネルの調整や風のデータを活用した効率的な運用)について簡単に述べている。

通信事業者の代替サービスを目指す?

Project Loonが2013年6月の発表以来、再び大きな注目を集めたきっかけは、PC World誌が2014年4月17日に発信したニュースだった。同誌は、ネバダ州での実験では免許が不要の周波数帯域を利用するだけでなく、LTEなどで利用する免許が必要な周波数帯域を使っていることを報じている。

これまでProject Loonは、安価なアクセスサービスの提供が主たる目的とされてきた。ところがネバダ州の実験では、高速なデータ通信サービスを試している。

このため、Project Loonの最終的な目標は、へき地や新興国への安価なネットワークの提供だけでなく、免許が必要な周波数帯域をGoogleが取得して通信事業者の代替サービスを提供する意思があるのではないか、という憶測を呼ぶことになった。

「計画当初から周波数帯域の取得を考えていた」

GoogleがProject Loonの狙いを明らかにしたのは、約1カ月後の2014年5月6日のことだった。次世代技術の研究を担う「Google X」でProject Loonを指揮するAstro Teller氏が、ニューヨークで開催された米TechCrunchのイベントに登壇し、Project Loonの目的を明らかにした。

同氏が語った内容を要約すると、以下のようになる。

・計画当初から、Googleが世界各地で(免許が必要な)周波数帯域を取得して、サービスを提供したいと考えていた。それがこのプロジェクトにとっては、最も重要であると考えていた。

・しかし、CEO(最高経営責任者)のLarry Page氏は、Googleが周波数帯域を取得することに反対した。

・これを受けたプロジェクトチームのメンバーは強い不満を覚えたが、Googleが直接周波数帯域を取得するよりもより良い方法を考え始めた。

・その結果、周波数に関しては、利用が想定される各国で通信事業者が有する周波数を活用し、Googleは通信事業者に気球を貸し出すことを思いついた。これによりGoogleは、免許が必要な周波数帯域を独自で取得しなくてよくなった。

サービス実現に向け企業買収

TechCrunchの記事によれば、ネバダ州での実験に申請した周波数帯域をそのままGoogleが利用するかどうかは不明という。しかし通信事業者とパートナーシップを組んでProject Loonを提供するならば、この実験の目的は明らかであると締めくくっている。

Project Loonはまだ実験段階で、実サービスとして使えるまでにはまだ時間を必要とする。しかし、Googleはサービス実現に向けた動きを見せ始めている。

実際、同社は気球の技術そのものではないが、ソーラーパネルを搭載し、成層圏で活動できるドローンを開発するTitan Aerospaceを2014年6月に買収している。この買収によってGoogleは、Titan AerospaceのドローンをProject Loonの気球と併用してインターネットに接続することや、その他のサービス(Google Mapなど)の強化に活用できるようになる。

ドローンを活用したデータ通信サービスの提供を目論んでいるのはGoogleだけではない。米Facebook(フェイスブック)も、安価なインターネットサービスを提供するinternet.orgの活動に積極的に関与している。Facebookは、ドローンや衛星を活用したデータ通信サービス(インターネット)の提供を目指して企業を買収するなどの動きを見せている。

災害時の代替基地局として利用可能

Project Loonはまだ実験段階にあることや、通信事業者が保有する周波数を活用する計画であることから、通信事業者に直ちに大きな影響を与えるとは考えにくい。

特にこれからLTEなどの無線通信ネットワークのインフラ整備が進む新興国にとっては、安価にエリアを拡充できる可能性がある手段が増えることは喜ばしいだろう。また気球が成層圏で運営されることから、地上で大きな災害などがあって基地局が機能しなくなった際に、代替基地局となることも期待できる。

ただしその一方で、例えば免許不要の周波数帯域を使ってGoogleが直接データ通信サービスを提供することも十分あり得る。広告を閲覧すれば無料でインターネットに接続できるといったサービスやビジネスモデルを想定できる。無料のインターネットサービスに魅力を感じるユーザーは、新興国であろうと、先進国であろうと一定数存在するだろう。

三本松憲生(さんぼんまつ・のりお)
情報通信総合研究所 主任研究員。海外のOTT(Over the Top)プレーヤーの戦略、サービス動向やSNS利用者の消費動向に関する調査などに従事している。

[ITPro 2014年9月22日付の記事を基に再構成]

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