子供NISAが描く長期株高 教育・相続を味方に
「子供NISAが誕生すれば、成人NISAの恒久化にもつながる。利点の多い制度なのでぜひとも実現すべきだ」。日本証券業協会の稲野和利会長は期待を寄せる。
年間80万円検討
金融庁の2015年度税制改正要望項目によると、子供NISAは年間投資額が80万円で、0歳から19歳までが対象。原則として親権者が口座を管理し、18歳を過ぎないと払い出しできない(図A)。

子供NISAの年齢層は2243万人いる。もちろん全員が始めるわけはないが、コモンズ投信の伊井哲朗社長は「500万から600万口座の開設は見込めるのでは」と強気の予想をしている。
その根拠のひとつが学資保険の市場規模だ。子供NISAの大きな目的は子や孫の教育資金作りで、そこは学資保険と共通する。現在、日本では年間100万人の新生児が誕生し、学資保険は年間60万件強の新規契約がある。契約数の合計は約590万件に上る。子供NISAが始まれば、学資保険並みの契約口座数は期待できるというのが証券業界の読みだ。
もう一つの注目点は、子供NISAが相続税対策となること。資金の出し手はシニア層が中心になる見込みで、年間110万円の贈与税非課税枠を活用する例が増えそうだ。
年間110万円をコンスタントに10年間贈与すると、税務当局から一括贈与と見なされる懸念もある。子供NISAを活用すれば、こうした心配は無用だ。
相続税対策になるから、年間80万円の非課税枠をフルに活用する口座が多くなるとみられている。500万から600万口座が年間80万円投資すると、最大で4兆円から5兆円規模の買いが見込める。

十数年にわたって運用すれば総額で50兆円規模になる。現在、日本の個人投資家が保有している株式の時価総額は約90兆円なので、それと比較してもかなりの規模の新しい買い手が誕生する可能性がある。
成人NISAはグラフBのように、60代以上のシニア層が口座の6割程度を占めている。金融資産の多くを保有する年代だ(グラフC)。NISAへの投資は、特定口座の資金のうち100万円分をNISAに移しただけというケースも多い。

その点、子供NISAはシニア層の預金が、孫世代の投資資金になりそうで、「世代間の資産移転が始まる」(松井証券の松井道夫社長)。長年の課題だった貯蓄から投資への流れを促しそうだ。
NISAには若い世代が将来の資産作りをするという狙いもあるのだが、現状では20代、30代を合わせても口座の10%強にとどまっている。子供NISAは全員、10代までとなるので、小中学生や高校生の証券投資教育にも役立ちそうだ。
子供NISAは証券業界にとっても大きなチャンスになる。特にネット証券や独立系の投信会社が張り切っている。楽天証券の場合、NISA口座の60%を20代から40代が占めている。
コモンズ投信も同様に20代から40代が61%で、稼働率は91%と高い。子や孫の口座開設にあたり影響力を持つ親世代を多く顧客に持つことが、子供NISAでの強みになるとみている。
楽天証券は子供NISAの顧客開拓のため、楽天トラベルや楽天市場の利用者への働きかけを強める方針だ。「グループのビジネスの中から未成年の新規顧客を発掘できれば、長期のお付き合いが期待できる」(楠雄治社長)
コモンズ投信は2010年から0歳から15歳を対象にした投資商品「こどもトラスト」を提供している。すでに700口座、残高は1億5000万円になっている。子供NISAに先駆けて未成年層を開拓してきたノウハウを生かす考えだ。
教育費の準備に

子供NISAは、世代間の資産移転、貯蓄から投資への転換、教育費の準備など、若い世代の将来の資産形成に役立つための国策と言っていいだろう。「国を挙げて、子や孫のための資産作りに取り組もうというのだから、証券業者も全面的に協力するのは当然」(松井証券の松井社長)。松井証券はNISA同様、子供NISAに関する手数料をすべて無料にする方針だ。
子供NISAは英国で2005年4月に始まったチャイルド・トラストがモデルだ。本家英国では、子供の教育費の準備や証券教育などに大きな成果が出ている。日本では大学まで私立で学ぶと、教育費は2500万円を超える(グラフD)。教育資金贈与信託なども含め、教育費の準備に対する関心は高い。子供NISAも有力な選択肢の一つになるだろう。(編集委員 鈴木亮)
[日本経済新聞朝刊2014年9月24日付]
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