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無敗のまま引退 王者メイウェザーが狙う「記録」

スポーツライター 杉浦大介

ボクシングの現役最強王者、フロイド・メイウェザー(米国)が連勝記録を伸ばし続けている。13日には米ラスベガスで難敵マルコス・マイダナ(アルゼンチン)との再戦を制し、これで47戦全勝(26KO)。しかし、少しずつ衰えが見えるようになり、本人も来年いっぱいでの引退を明言している。無敗のまま5階級を制覇し、今では1試合で3000万ドル(約32億7000万円)以上を稼ぐスーパースターは、このまま不敗記録を保ったままリングを降りるのか。

3-0判定勝ち、ペース渡さず

「第1戦との違いはロープを背負わずに、動きを重視して戦ったこと。マイダナはタフな強敵だ。肉体的にはきつかったけれど、(トレーナーである)父の言うことを聞いて、打たれないで打つことを心がけた。それがこのスポーツで長持ちする秘訣なんだ」

マイダナを3-0の判定で下して世界ボクシング協会(WBA)、世界ボクシング評議会(WBC)世界ウエルター級王座を守った後、メイウェザーはリング上で勝ち誇った。両者の再戦が組まれたのは、5月の第1戦が意外な接戦になったから。しかし、今回はメイウェザーが足をうまく使い、必要に応じてクリンチも駆使し、勢いに乗ると強いマイダナにペースを渡さなかった。

メイウェザーにはこの試合でも3200万ドルのファイトマネーが保証され、さらに視聴者がコンテンツを選んで見た分だけ課金されるペイパービュー(PPV)放送の歩合額も受け取る。この1戦で手に入れる総額は5000万ドルにも達するだろう。それほどの商品価値を誇る王者が試合前に、近い将来の引退を明言して話題になった。

「1年後にラストファイト」

「マイダナ戦のあとに2戦し、その後はプロモーターとしての活動を本格化させていきたい。次の対戦は(2015年)5月、そして最後が9月。1年後がラストファイトになる」

ボクサーの多くは引退と現役復帰を繰り返し、メイウェザーも09年9月まで1年10カ月にわたって"引退"していたことがある。ただ、今回の宣言には3つの理由から信ぴょう性がある。

まずは13年に大手ケーブルテレビ局「ショータイム(Showtime)」と結んだ6戦で総額約200億円の大型契約が、ちょうどあと2戦で満了すること。次にメイウェザー自身、来年2月には38歳を迎える年齢の問題もある。そして何より、あと2戦して勝てば、1950年代に活躍したヘビー級の名王者、ロッキー・マルシアノの49連勝無敗記録に並ぶことができる。

米マサチューセッツ州ブロックトン出身で「ブロックトンの高性能爆弾」と呼ばれたマルシアノは、ジョー・ルイス、ジョー・ウォルコット、アーチー・ムーア(いずれも米国)ら歴史に名を残すビッグネームを次々と撃破した。「もう戦う相手はいなくなった」と言い残し、56年に49戦49勝(43KO)という完璧な戦績で引退した。引き分けもなしで無敗のまま現役を退いた世界王者は、14年3月にWBA、国際ボクシング連盟(IBF)世界スーパーミドル級王者で34戦全勝(6KO)したスベン・オットケ(ドイツ)が出現するまで全階級を通じてもマルシアノだけだった。

「自分の世代で最高のボクサーに」

「(マルシアノは)後に続く者たちに道を開いてくれたボクサーだ。ただ、彼が現役のころは毎月のように試合をしたり、同じ相手と4、5度も対戦したりすることがあった。俺は一つのビッグファイトを6カ月かけてプロモートするような現代に生きている。時代が違うんだ。できるのは、自分の世代で最高のボクサーになること。頭にあるのはそれだけだよ」

昨年9月のサウル・アルバレス(メキシコ)戦の前に、メイウェザーはそう語っていた。しかし、自らの歴史的評価に誰よりもこだわるメイウェザーの頭に、この記録がないはずがない。ショータイムとの6戦に及ぶ契約が終わり、マルシアノの戦績に並んだ時点で引退するか。あるいは最後にフリーエージェント(FA)になり、相手を選んで50勝目を狙うか。いずれにしても49、50戦が節目になるだろう。

「(メイウェザーは)素晴らしいキャリアを過ごし、グローブを壁にかけるべきときが近づいているのだろう。金も十分に稼いだ。他に何が残っているだろうか。証明すべきことはもう何もないよ」

メイウェザー・プロモーションズの役員、レナード・エラービー氏の言葉が示す通り、メイウェザーが生涯に稼いだ報酬総額は4億2000万ドルに達する(フォーブス調べ)。もちろん、金遣いの荒さでも知られるだけに、どれだけ手元に残っているかはわからない。引退後もビッグマネーが懸かるファイトが話題に上れば、多くのボクサーがそうするように、再びカムバックする可能性もないとはいえない。

リングの勇姿、長くてもあと2年

ただ、普段から慎重なマッチメークが目立つメイウェザーは、イベンダー・ホリフィールド、ロイ・ジョーンズ(ともに米国)といった一部の元スター選手のように、ずるずると現役を続けないのではないか。コンスタントにリングに上がるのは、長くても40歳を迎えるまでのあと2年程度だろう。

このまま連勝を続け、無敗のまま有終の美を飾ることをもくろむメイウェザー。ただ、残りの数戦はそれほど簡単には勝てそうにないと考えている関係者は少なくない。

スピード感なく、衰え隠しきれず

30代後半を迎えても依然として勝ち続けているものの、その動きには以前ほどのスピード感がなく、衰えを隠しきれなくなっている。マイダナとの再戦も確かにワンサイドだったが、第3ラウンドには相手の右をカウンターで食らって足がもつれるシーンもあった。

「第1戦の方がシャープに動けた。(今日は)リズムが良くなかった。だから、自分のパフォーマンスを採点するならCかCマイナスかな。俺はもっと良い選手だし、もっと良い試合ができてもおかしくはなかった」

試合後の本人のそんなコメントも、ただの謙遜とは思えなかった。そして、軌を一にするようにメイウェザーの商品価値は全盛期と比べて低下している。

5月のマイダナ第1戦のPPV売り上げは90万件に届かず、成功の基準とされる100万件には遠く及ばなかった。今回の再戦の数字も100万件以下だと報道されている。だとすれば、メイウェザーに3000万ドル以上の報酬を保証する契約を結んでしまったショータイムは大きな赤字を出すことになる。

こうした状況下では、来年に予定される次戦でより注目を集め、興行価値の高い選手と戦わなければならなくなるだろう。

その相手は、英国で人気を誇るアミア・カーンか。デビュー以来29戦全勝(17KO)のダニー・ガルシア(米国)か。それとも長きにわたり「戦わざるライバル」であり続けてきたマニー・パッキャオ(フィリピン)か。いずれにしても、実際に勝ちきるだけの技術に欠けていたマイダナ以上の強敵が用意される可能性は高く、王者にとって大きな正念場となる。

「キャリアのたそがれに近づく」

「最も熱狂的なメイウェザーのファンたちでさえも、彼らのヒーローがキャリアのたそがれに近づいていることを認めなければならない。彼は過去に何度も引退をにおわせてきた。しかし、マイダナ戦後に米ESPNデポルテスの記者にボクシングへの情熱を失い、単なる仕事になってしまったと語ったときほど、(引退に関して)真剣に見えたことはこれまでなかった」

月刊専門誌リングマガジンのナイジェル・コリンズ元編集長のこうした言葉通り、メイウェザーがキャリアの最終段階を迎えているのは間違いない。

今後もこれまで通り勝ち続けられるかどうか。試合内容の面白さよりも「記録」で売ってきた選手だけに、全勝記録を守れるかどうかでその歴史的評価も少なからず変わってくる。メイウェザーの最後の数試合にファンからこれまで以上の注目が集まることは間違いない。

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