香港「東洋の真珠」は輝き続けられるか
編集委員 後藤康浩

2014/9/21 7:00
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香港映画には、香港を離れ、遠い場所から香港を想う、というモチーフの作品が少なからずある。ウォン・カーウァイ監督の「ブエノスアイレス」は題名通り、地球の反対側を舞台に選び、ピーター・チャン監督の「ラヴソング」も離ればなれに香港を出た男女が再会する場所はニューヨークだった。香港人にとって香港は世界中の誰にでもある「故郷」という言葉では表しきれない、「心の置き場所」のような重さがあるように思える。

■香港の中枢「セントラル」を封鎖せよ

そんな香港が大きく揺れている。2017年に予定される香港のトップ、行政長官の選挙を中国が立候補者を自らに都合のよい人物に限る制限選挙にする方向で動いているからだ。1997年に香港が返還されて以降、臨時代行を除けば、現在の梁振英長官は3代目となる。3人とも中国政府が選んだ選挙委員による投票で選ばれた、中国政府のお墨付きを得た長官だ。だが、香港人はいずれ、すべての有権者が投票権を行使できる普通選挙で行政長官が選ばれると信じ、次回の選挙でそれが実現すると考えていた。それだけに中国への反発は大きい。

香港島の摩天楼をバックに立つブルース・リーの銅像

香港島の摩天楼をバックに立つブルース・リーの銅像

自由選挙を求める民主派が中国への対抗策として今、考えているのは「中環占拠」、英語に直せば「Occupy Central」だ。中環(Central)は香港中心部で金融機関や企業、官庁が集中する地区。この地区に数万人を動員してデモや座り込みなどを展開、機能を麻痺(まひ)させようという戦略だ。タイで今年初め、インラック政権の打倒を目指す反政府派が「Shut down Bangkok」すなわち「バンコク封鎖」を呼びかけたのにどこか似ている。どちらも都市機能の一部を人質にした政治闘争といえる。

中環は香港の金融センターだが、中国にとっての意味も決して小さくない。中国銀行、中国工商銀行、中国建設銀行はじめ中国の主要銀行の国際業務の中枢がこの地区にあり、中国指導部がこの数年、力を入れている人民元の国際化も中環にある銀行が貿易決済、債券発行などで大きな役割を果たしているからだ。そうした意味で香港民主派は中国にとって痛い所に目を付けた、といえる。

だが、一時的にせよ、香港の金融機能を麻痺させることは香港の信頼度を引き下げることでもある。香港が香港であるのは、自由な貿易、自由な金融、自由な企業活動が保証されていることにある。金融機能が十全ではない香港はその意味を半ば失い、香港人にとっても大きなマイナスとなるはずだ。

■「港人治港」から「北京治港」へ

問題の根源は、香港が中国政府側と英国、香港人側の間で曖昧な了解、いわば同床異夢のまま返還されたことにある。中国は英国の植民地主義によって奪われた香港を150年以上かけて回復したという意識が強く、英国や香港人側は統治主体が英国から中国に変わるだけで、香港の国際都市としての立場、システムは変わらないという認識だった。中国自身も「港人治港(香港人が香港を治める)」と主張したように香港の自治を前提としていた。

民主化運動の象徴になった「学民の女神」と呼ばれる女子大生

民主化運動の象徴になった「学民の女神」と呼ばれる女子大生

だが、返還から時間がたち、中国の経済力、国際的な影響力が高まるにつれ、「北京治港(中国政府が香港を治める)」意識に変わったようにみえる。「中華民族の偉大な復興」を掲げる習近平指導部にとってはなおさら香港を意のままにしたいという考えが強い。その先には台湾と中国自身の政治改革というふたつの大きな問題があるからだ。香港に自由な選挙を認めれば、それはひとつの実例として中国自身の将来を縛りかねない、と中国指導部は警戒しているのだろう。

では、香港はどうなるのか?

北京からの締め付けは厳しくなるのは間違いないとしても、香港の性格は大きくは変わらないのではないか。中国指導部がどう考えるにせよ、中国本土の人にとって今の香港こそ価値を持っているからだ。昨年、香港を訪れた外国人(中国本土からの訪問客含む)は2566万人(世界観光機関調べ)。訪日外国人数の2.5倍にものぼり、世界で12番目に多くの訪問客を受け入れた国・地域となった。その大半は中国人観光客であり、中国人にとって香港は依然として最も身近な"海外"だ。中国企業がまず考える海外上場も香港であり、人民元決済も香港。香港の大学には大陸からの留学生があふれる。そうした役割や魅力は北京や上海はもちろん香港にほど近い広東省広州にも果たせない。中国大陸の人にとって香港が「夢の置き場所」である限り、香港の輝きは薄れないだろう。

 「私が見た『未来世紀ジパング』」はテレビ東京系列で毎週月曜夜10時から放送する「日経スペシャル 未来世紀ジパング~沸騰現場の経済学~」(http://www.tv-tokyo.co.jp/zipangu/)と連動し、日本のこれからを左右する世界の動きを番組コメンテーターの目で伝えます。随時掲載します。筆者が登場する「ニュースが伝えない『香港』異変!~中国返還から17年 今何が起きているのか~」は9月22日放送の予定です。
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