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自分を計測「生活変えたい」 記録データに商機も

瀧口 範子(フリーランス・ジャーナリスト)

「クオンティファイド・セルフ」が米国でブームになりつつある。訳せば「計測された自分」。自分自身のあらゆる面を数字で把握しようというトレンドだ。

米国在住のニコラス・フェルトン氏(写真(下)中央の人物)は自身の計測結果をグラフィック化してアニュアル・リポートを作成(画像保存サイトより)

この言葉が広く知られ始めたのはフィットビットなど毎日の運動量をモニターするウエアラブル端末の登場以降だ。機器を身に着けていれば歩いた歩数や距離、心拍数、運動した強度などを自動的に記録。日々の目標値をどれだけ達成したかを確かめられる。自分の運動量を1週間、1カ月と振り返って推移を把握し、インターネット上で仲間と比べて競争したり励ましあったりできる。

今や運動量だけでなく座り続けている時間、立ったままの時間などを計測する機能も出てきた。睡眠の質や、毎回の食事で大まかなカロリー量を入力して記録に残せる。自分の生活がごまかしなく数字によって示され分析されるため、「健康的な生活を目指すようになる」というのが、こうした機器の売りだ。

健康面だけではない。家庭でのエネルギー消費も今や細かな数値化の対象だ。例えば、米ネストなどの高性能なサーモスタット製品は、日々の冷暖房に費やしている電力をはじき出して可視化する。ガスや電気の供給会社は、月ごとに利用がどう推移したか、近所の似たような家庭と比べてエネルギー消費が多いかどうかも知らせてくれる。

 数字で示されると、省エネしようとの意識が高まると言われている。自分へのフィードバックが正確に行われるうえ、今より数字を上げよう、下げようとゲーム感覚も伴うからだ。

たきぐち・のりこ 上智大外国語(ドイツ語)卒。雑誌社、米スタンフォード大客員研究員を経てフリージャーナリストに。米シリコンバレー在住。大阪府出身。

車で走った距離や訪れた場所、燃費なども地図上に表示して数値化したり、1日に足で歩いた場所を後で見られるアプリもある。自分が移動する様子もクオンティファイド・セルフの一部だ。

仕事場にもクオンティファイド・セルフは入り込む。自身の生産性を反省する道具としてだ。パソコンやスマートフォン(スマホ)に搭載したアプリが自分のネット上、アプリケーション上の行為を計測。ウェブ閲覧に費やしていた時間、メールを利用していた時間、オフィス関連のアプリケーションを使っていた時間などが記録される。ウェブなら、どのサイトをどの程度の時間を使ったかの軌跡も残る。

文章を書かねばならないのに、ぼんやりとウェブサイトを眺めていた時間などが一目瞭然で分かり、反省の道具になる。クオンティファイド・セルフが「自分や自分の生活を変えるツール」と呼ばれるゆえんだ。

同分野では専門家や究極の実践家も出ている。ニコラス・フェルトン氏は自分の1年間を振り返るアニュアル・リポートを美しいグラフィックスで作製。「ネットに最も組み込まれた人間」と呼ばれるクリス・ダンシー氏は、グーグル・グラスなどのデバイスを10個も常時身に着け、自分を刻々とモニターしている。

クオンティファイド・セルフで記録されるデータは医療、保険関連など多くの業界に新しい商機を与える可能性がある。一方で行き過ぎによる心理的な問題も起こりそうだ。数値目標だけに捕らわれ、細かなデータを集めても実際の生活に役立てられない可能性もある。他の数値化されていない問題点を見逃してしまう危険もある。とはいえ、もう以前の「自分」に戻れなくなっている我々である。

〔日経MJ2014年9月22日付〕

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