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東大安田講堂を大改修 昔と姿変えずに「落ちない天井」

日経アーキテクチュア

東京大学のシンボルである安田講堂を、どうやって大地震でも「落ちない天井」に改修するか。しかも、姿は建設当時のまま――。約23億円をかけて、建物内部を大手術する工事が最盛期を迎えている。

改修直前の東大安田講堂の天井。重さが1m2(平方メートル)当たり100kgの吊り天井だった(写真:小川 重雄)

安田講堂は東大本郷キャンパスに1925年に完成した。鉄筋コンクリート造、一部鉄骨造の地下1階・地上5階建てで、延べ面積は6988m2(平方メートル)。講堂部分は3~4階に位置する。

左は改修前の安田講堂の外観。右は2014年7月28日時点の様子。外観は竣工当時の姿を残す(写真:左は小川 重雄、右は日経アーキテクチュア)
東大安田講堂の立面図。建設当時の図面が保存されていた(資料:東京大学)

東京帝国大学建築学科で教鞭を執った内田祥三、岸田日出刀の両氏が設計し、清水組(現在の清水建設)が施工した。「安田」講堂の名前は、安田財閥の創始者・安田善次郎の寄付によって建設されたことによる。

1968~1969年の東大紛争で占拠・封鎖された安田講堂は、その後、長期間にわたって閉鎖。1990年に大規模改修(施工者は大成建設)を実施し、1991年から講堂の使用を再開した。その後、1996年に登録有形文化財の第1号として登録された。

[左]建設当時の様子。屋根を支える小屋組は鉄骨造 [右]上棟式の様子。法被に見える「喜」の字は清水組を表すもの(写真:いずれも東京大学)

今回の改修のきっかけは2011年3月の東日本大震災だ。大きな損傷はなかったが、ガラスやタイルの一部が落下するなどの被害が生じた。完成から約90年が経過し、老朽化も進んでいた。東大内部で改めて検証したところ、耐震性が十分でなく、耐震改修を実施することが決まった。

設計は東大キャンパス計画室と同施設部、香山壽夫建築研究所が担当した。改修のコンセプトは、竣工当時の意匠を保存・一部復元しながら、構造体や二次部材の耐震性を確保すること。当時の姿を残すことによる難題が、施工者である清水建設の頭を悩ませた。

最大の難関は「特定天井」

改修に当たっての最大の難関は、講堂大天井の耐震化だった。1144座席からなる講堂には、700m2の天井が設置されている。既存の天井は、屋根を支える鉄骨の小屋組から2~3cm幅の鋼製のフラットバーで吊り下げた、いわゆる「吊り天井」で、振れ止めはなかった。

[左]改修前の講堂の内観。天井はガラス面を含む複雑な形状だった [右]改修前の小屋組の内部。鉄骨から鋼製のフラットバーで天井が吊られている様子が分かる(写真:いずれも小川 重雄)

天井材は、モルタル下地に何層もの漆喰で仕上げてあり、重さは1m2当たり約100kg。清水建設技術研究所の櫻庭記彦主任研究員は「かなり重い天井で、大きな地震のときに落ちる可能性は十分にあった」と話す。

改修の現場で既存の天井について説明する清水建設の尾形晃弘工事長。尾形工事長が手で示しているのは、天井材の漆喰がはく離している箇所(写真:日経アーキテクチュア)

国土交通省は東日本大震災による吊り天井の落下被害を踏まえ、2013年7月に建築基準法施行令を改正。脱落すると人に重大な危害を加える恐れのある天井を「特定天井」と位置付け、技術基準によって安全性を確保するよう義務付けた。特定天井に当たる場合、告示が示した「仕様ルート」「計算ルート」「大臣認定ルート」のいずれかのルートで設計する必要がある。

特定天井とは、吊り天井であることや6m超の高さにあることなど、告示にある5つの条件を満たす天井を指す。安田講堂の天井は全ての条件を満たすため、特定天井に該当していた。

特定天井の5条件。脱落すると人に重大な危害を与える恐れのある天井として5つの条件を定め、全てに合致するものを特定天井と定義。構造の安全性を検証するよう義務付けた(資料:国土交通省の資料を基に日経アーキテクチュアが作成)

告示を踏まえ、安田講堂の天井を耐震改修するには大きく2つの方法があった。1つは特定天井のまま告示に沿った方法で設計すること。もう1つは、天井を構造と一体化して安全性を担保するなど、特定天井に当てはまらない仕様にすることだ。清水建設は後者を選択した。

櫻庭主任研究員は、後者を選択した理由についてこう話す。「国交省の告示は、均一材料で平面の天井を想定しており、安田講堂のようにガラス面が入っていたりする複雑な天井で計算するのは難しい。小屋組と一体化する工法を選択した」

寸法の異なる827本の鉄骨

清水建設が採った方法は以下の通りだ。まず既存の天井を撤去。その後で屋根を支える小屋組に鉄骨を追加する。左下の写真でオレンジ色の鉄骨が既存の小屋組、灰色は新設した鉄骨だ。新設した鉄骨は、構造部材を天井面まで降ろし、天井と連結するためのもので、小屋組の補強材ではない。

[左]改修を終えた屋根の小屋組。オレンジ色の鉄骨が既存部材で、灰色の鉄骨が新設した部材(写真:日経アーキテクチュア) [右]清水建設が採用した天井改修工法の概略図。屋根の小屋組に天井下地材を設置し、天井材と連結する(資料:清水建設)

その後で、新設した鉄骨に天井下地鉄骨(上の右図の「天井を取り付ける構造部材」)を取り付け、束材で天井材とボルト連結する。天井材は大幅に軽量化。繊維補強した石こう板を使って、1m2当たり15kgとした。既存天井の6分の1から7分の1の重さだ。清水建設は、震度7クラスの大地震でも天井が落ちないことを振動実験で確かめた。

天井の下地鉄骨と天井材が束材で緊結された様子。それぞれがボルトで緊結されている(写真:日経アーキテクチュア)

施工上、最も厄介だったのが、小屋組に新設する鉄骨の設置だ。小屋組の既存の鉄骨は規則的に配置されていたが、竣工当時の施工精度で1~2cmの「ずれ」があった。そのずれた鉄骨と天井下地とを新設する鉄骨でつなぐため、1本1本の寸法が微妙に異なることになった。新設する鉄骨は合計827本だ。

清水建設の尾形晃弘工事長は「2~3mmのずれならボルト穴に余裕を持たせることで対処できるが、その範囲を超えていた」と話す。清水建設は3D(3次元)スキャナーで既存の鉄骨のずれを計測したほか、高い精度が求められる箇所では手作業で寸法を実測し、製作する鉄骨に反映した。

[左]改修中の天井部分。小屋組に緊結されている様子が分かる [右]改修後の小屋組。ハイサイドライトが差し込む部分の既存部材はオレンジ色ではなく白色に塗装されていた(写真:いずれも日経アーキテクチュア)

タイルの製作に半年

竣工当時の姿に復元することも求められた。東大と清水建設が保管していた写真や図面などの資料に加え、3Dスキャナーで建物を実測。建設当初と異なる意匠を持つ箇所を特定した。天井の意匠も竣工当時と異なっていたため、写真などをもとに復元することにした。

3Dスキャナーで講堂の内部を計測した結果(資料:清水建設)

講堂の屋根にはハイサイドライトが設けられ、ガラス天井によって自然光が入る仕組みになっていたが、プロジェクターの使用が難しいことなどを理由に遮光フィルムが張られていた。張られた時期などは分かっていない。改修では自然採光を復活させ、電動遮光カーテンを取り付ける。

ガラス天井には、樹脂を挟み込んだ合わせガラスを採用。衝撃試験で、落下物によるガラスの破損がないことを確認した。

[左]屋根に設けたハイサイドライトの概略図。プロジェクターを使いやすくするために遮光フィルムが張られていたが、今回の改修で自然光を入れる当初の姿に戻す(資料:清水建設) [右]遮光フィルムが張られたハイサイドライト。いつごろ遮光されたかは不明(写真:小川 重雄)

外壁のタイルも、オリジナル部材を尊重する。竣工当時のタイルは焼きむらがあり重厚感を持つが、過去の改修工事で設置されたものは均質的な色味のタイルだった。清水建設は今回の改修用に、約半年をかけて当初の部材に酷似したタイルを製作した。

左は改修前の外壁タイルの様子。過去の改修工事で施工された均質なタイルがところどころに見える。右は改修後のタイル。半年をかけてオリジナル部材に似たタイルを製作した。目地を詰めていない仮張りの状況(写真:清水建設)

214枚の耐震壁を設置

構造躯体の耐震化には、鉄筋コンクリート耐震壁を214枚設置する。安田講堂は柱と梁による構造なので、壁を一度撤去して耐震壁を打ち、その後で撤去した腰壁石を再び設置する手順だ。遮音性能の向上やバリアフリー化も実施する。

柱と柱の間に打った鉄筋コンクリート耐震壁。214枚の耐震壁を設置する(写真:日経アーキテクチュア)

工期は2014年の12月26日まで。東大によれば、2015年3月の卒業式には安田講堂を使用する方向で調整している。

(日経アーキテクチュア 島津翔)

[ケンプラッツ2014年8月6日付記事を基に再構成]

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