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働きたいのに働けない 心の病から生活守るには

 うつ病など心の病気にかかる働き盛りが増えている。従来通り働けるようになるまで時間がかかることも多く、経済的な不安を抱えやすい。患者を経済的に支援する公的な制度は様々ある半面、民間の保険は心の病になると保障に制限が付く例が目立つ。使える制度や注意点について知っておこう。

「働きたいが働けない。将来の生活を考えると気ばかり焦った」。群馬県の高齢者介護施設に勤める男性(40)は、うつ病で仕事を休んでいた時期を振り返る。3年ほど前に発症した後、以前の勤め先を辞めて治療に専念。完治したと思えるようになったのは最近だという。

医療費負担1割に

治療期間が長くなると経済的な負担は重くなる。だが、うつ病など心の病気の場合、通院治療では医療費の負担が軽減される「自立支援医療」という制度がある。現役世代のケースでは、医療費の自己負担が通常の3割ではなく1割になる。

制度を利用するには医師の診断書を添えて市町村の窓口に申し込む。認められれば「受給者証」が発行され、医療機関の窓口で提示すれば、支払額が少なくなる。世帯の収入などによっては月の自己負担額に上限があり、さらに負担が軽くなる。例えば市町村民税が非課税の世帯で受給者の年収が80万円以下なら、上限は月2500円だ。

症状が重く入院するケースでは自立支援医療は使えない。入院し医療費がかさむ場合は、体の病気と同様に高額療養費制度が頼りになる。収入や年齢にもよるが、一般的な収入で70歳未満の場合、負担の上限は月8万円強。さらに直近1年間で4回目の支給からは上限が4万4400円に引き下げられる。

勤め先で仕事をできる状態になければ、休職することもあるだろう。その場合は生活費の問題も発生する。休職制度は一般に勤続年数などに応じて決まっており、その間に病気が回復すれば仕事に戻れる。ただ休職中に給料は支払われないことが多い。

病気で一定期間働けず収入がなくなった人は傷病手当金を受け取れる。勤め先や加入する健康保険組合の窓口で手続きをすれば、月収を元に決められた「標準報酬月額」の3分の2が毎月支給される。

心の病気で休職した人の復帰支援を手掛けるメンタルヘルス・リサーチ&コンサルティング(東京・港)の北川佳寿美氏は「傷病手当金は期限に気をつけたい」と指摘する。支給があるのは開始から1年半まで。蓄えがないと、支給が終わった途端に「生活が苦しくなる人もいる」。

公的な支援を補う方法の1つが民間の保険だ。だが、心の病気では保障に制限が付くことがある。例えば病気で働けなくなったときに保険金が支払われる就業不能保険や所得補償保険は、心の病気が理由の場合は給付しない商品が多い。

保障の期限に注意

民間の医療保険も注意点がある。心の病気でも入院日数に応じて保険金は出るが、1回の入院につき連続60日程度までしか保障しない契約が一般的だ。ファイナンシャルプランナー(FP)の八ツ井慶子氏は「万一に備え、少なくとも数カ月分の生活費は預貯金で用意しておくべきだ」と助言する。

厚生労働省が3年に1度実施する患者調査によると、うつ病やそううつ病など「気分障害」と呼ばれる病気の患者数(推計)は2011年で約96万人。08年からは減ったが、1996年に比べると2.2倍と依然高水準だ。

心の病気は治療期間が長くなりやすい。11年の患者調査によると気分障害での平均入院日数は約106日。全体平均の約33日を大きく超える。投薬治療でも数カ月以上かかるのが一般的だ。企業に社員の心の健康維持策を助言する損保ジャパン日本興亜ヘルスケアサービス(東京・千代田)の桜又彩子氏は「回復後に再発する人も多い」と話す。

それだけに早期の対応が重要だ。NTT東日本関東病院の秋山剛・精神神経科部長は「日ごろから家族や同僚、友人に自分の状態を話すことが大切」と話す。心の不調は自分では気づきにくい。普段から仕事や悩みを話題にすれば、不調時に気付いてもらいやすい。

不調を指摘されたら「無料で応じる専門家に話をしてみる」(秋山氏)。そこで助言があれば病院に行くことを考えよう。保健所や会社の相談室など無料のところは多い。忙しければ電話相談もある。ためらわず周りを頼ることが自分の健康だけでなく経済面でも生活を守る有効な対策になる。(長岡良幸)

病気になってからでは… 保険見直しは健康なうちに


 心の病気で治療を受けた場合「数年間は保険の見直しが難しくなる」とFPの八ツ井氏は話す。治療を終えてから5年程度までは通常の生命保険や医療保険を新規に契約することが原則できないためだ。「心の病気は診断基準が曖昧な部分があり、保険会社として引き受けるリスクが大きすぎる」とある外資系生保では説明する。
 通常の保険が契約できない場合は「引き受け基準緩和型」と呼ばれる保険が選択肢となる。ただし保険料は一般のものに比べ割高だ。健康なうちに加入した生命保険や医療保険を更新する場合は、加入後の病気は原則として保障内容に影響しない。「健康なうちに保険の見直しはすべきだ」と八ツ井氏は話す。

[日本経済新聞朝刊2014年9月10日付]

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