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試合は商品、面白いか否か J2湘南社長・大倉智(上)

今年4月、湘南ベルマーレの社長に就任した大倉智(45)の話はときに挑発的に聞こえる。聞く耳が痛くなるのは、その発言が核心を突いているからだ。

「湘南スタイル」の追求が、勝利の確率を高めると信じる

Jリーグの調査によると、国民のJリーグへの関心度は2006年の45.4%から12年に30.1%まで落ちた。その問題に触れ、大倉はこう話す。

技術論や戦術論にとらわれず

「関心度が落ちたのはコンテンツとしてつまらないから。一般企業なら商品の質を高めようと、手を打つ。売れる商品がなければ会社がつぶれてしまうから。Jリーグにはそういう意識が薄いような気がする。試合がつまらないのに、ある一定のお客さんが来てくれていることに甘えている」

湘南が追求するサッカーのスタイルと選手育成論をまとめた『縦の美学』の序文に大倉は記している。「私はサッカーを見るとき、技術論や戦術論にとらわれずに、試合として面白いか否か、というシンプルな視点を大事にしています」

だから、05年に湘南の強化部長に就いてから、4代の監督とともに「攻撃的で、走る意欲に満ちあふれた、アグレッシブで痛快なサッカー」の確立を目指してきた。そのサッカーを「湘南スタイル」と名付けた現監督の曺貴裁(チョウ・キジェ)が率い、J2首位を独走するチームは90分を通して走り続ける。攻撃に人数を割き、相手ゴール前に直線的に殺到し、より多くの得点機をつくる。ボールを奪われたら、すぐに奪い返しにいき、休まず攻め続ける。その鬼気迫る攻めが見る者の心を揺さぶる。

「プロはどう負けるかが大事」

大倉の胸には、ドイツの名門、バイエルン・ミュンヘンのゼネラルマネジャー(GM)を長きにわたって務めたウリー・ヘーネスの言葉が刻まれている。「プロというのは、どう負けるかが大事なんだよ」。通訳が直訳した言葉の意味を解釈するまで、しばらく時間を要したという。

勝負事では勝利は約束されていない。負けることがある。そのとき、ファンを逃がさない何かを表現できていなければならない。それが大切なのだとヘーネスは説いたのだろう。

大倉は「負けても、お客さんが喜んで、『次、頑張れよ』と言ってくれるサッカーをしなければならない」と話す。そのためにどうしたらいいのかと考え抜き、サッカーに関する常識について、考え直す必要があると思い至った。

ノンストップで走れるチーム目指す

「90分の試合中、ずっと走り通すことなんてできないと言われている。本当にそうなんでしょうか。本来、サッカーとは90分、やり合うものでしょう。だったら、ノンストップで走れるチームづくりを目指すべきではないでしょうか」

言ってみれば、サッカーの試合という商品の定義をとらえ直したのだ。試合の中から、見る価値のないものを排除する。「お客さんは勝ち点3のためだけでなく、90分間のエンターテインメントにお金を払ってくれるんですから」。勝ち点3を取るためのプロセスを売り、できれば勝利による歓喜というおまけを付ける。大倉は信じている。「湘南スタイル」を追求すれば、勝ち点3獲得の確率が高まる。(敬称略)

〔日本経済新聞夕刊9月1日掲載〕

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