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始動した夢の石油事業 採掘倍増、CO2も大幅減

石炭火力発電所から出る二酸化炭素(CO2)を使って油田を復活させる――。こんな世界初のプロジェクトが米国で動き出す。温暖化対策に役立つだけでなく、地球上の原油の可採埋蔵量を2倍に増やせる可能性も秘めているという。手掛けるのは三菱重工業とJXグループ。日本の重工・エネルギー産業の両トップがタッグを組み、国産技術で世界のニーズの掘り起こしにかかる。

石炭火力発電所が「宝の山」に

「30年来の悲願をやっとかなえられる」。三菱重工の飯嶋正樹・執行役員フェローは感慨深げに話す。二酸化炭素(CO2)を油田の増産に生かす技術に初めて着目したのは1980年代。第2次オイルショック後に原油価格が高騰したときのことだった。

それから30年。三菱重工とJX日鉱日石開発は、米テキサス州のW.A.パリッシュ石炭火力発電所からCO2を回収し、同州の別の場所にあるウェスト・ランチ油田に圧入する事業に乗り出す。米大手電力NRGエナジーと共同で専用プラントや約130キロメートルに及ぶCO2輸送パイプラインを建設し、油田の生産量を日量500バレルから同1万2000バレルまで20倍以上に増やす。いわば老朽化した油田を「復活」させるプロジェクトだ。

「CO2-EOR」と呼ばれるこの技術は実はエネルギー業界ではよく知られている。EORとは「Enhanced Oil Recovery(石油増進回収法)」のこと。地下にある油層に水や気体を圧入し、内部の圧力を上げたり原油の性質を流れやすいように変えたりする。長く操業を続けた老朽油田でも、地下に残っている原油を取り出しやすくなる。

これまで原油生産などに伴って出てくる天然のCO2を使うEORが米国などで実施されてきた。だが使えるCO2の量が限られるため、増産効果も限定的という課題があった。そこで飯嶋氏らが注目したのが、石炭火力発電所だ。CO2を大量に排出する石炭火力は環境的には悪者だが、EORから見れば一転、「宝の山」に変わり、CO2が足りないという問題も解決する。だが実用化には多くのハードルが待ち構えていた。

実験重ね回収率90%超を達成

具体的な開発に着手したのは1990年代。まず排ガスから効率的にCO2を回収する吸収液の開発に取りかかった。海外の化学メーカーが開発したものがあったが、化学反応をおこすために必要なエネルギー量が大きく、発電所でつくる電力を大量に消費してしまう。飯嶋氏らは別の物質を探したり分子構造を変えたりする試行錯誤を繰り返し、新たな吸収液を開発。発電設備の納入で縁が深い関西電力と実証プラントを設けて実験を繰り返し、エネルギー消費量が小さい吸収液を開発した。

もう一つ、石炭火力に特有の課題があった。油田から出る天然のCO2と違い、石炭を燃やした後の排ガスには多種多様な不純物が含まれていることだ。設備の腐食などを引き起こすため「海外で何社かが実証プラントの建設に挑戦したが、正常に稼働したものはない」(飯嶋氏)。総合機械メーカーの三菱重工は脱硫や煤塵(ばいじん)除去など多くの環境設備を手掛ける。社内のリソースをフル活用し、排ガスを利用できる総合的なシステムを作り上げた。

11年には米大手電力のサザンカンパニーと共同で、アラバマ州の火力発電所で実証実験を開始。1日500トンのCO2を回収し、2年半の実験を通して回収率90%超を達成した。目立ったトラブルはなく稼働率はほぼ100%。米エネルギー業界から「これは使い物になる」と注目を集めた。

ちょうど同じ頃、油田開発を手掛けるJX日鉱日石開発もCO2-EORに注目し始めていた。同社が操業するベトナム沖のランドン油田は1990年代から生産を開始し、油田としてのピークを越えた。生産量が減少に転じ、パートナーのベトナム国営石油も頭を悩ませている。そこで考えたのがEORによるテコ入れだ。

07年から研究に取り組み、11年には石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)などと共同でランドン油田での実証試験を実施した。井戸を通して海底のさらに下にある油層にCO2を注入すると、油の粘性が下がって取り出しやすくなるなど、増産に十分な効果があることを確認。「他の油田でも使えるポテンシャルが大きい」(中田賢明常務執行役員)と他への展開を探り始めた。

環境問題への貢献も期

「米国の油田で協力しませんか」。翌年の12年、三菱重工から誘いがかかった。三菱重工は発電所でCO2を回収する技術を確立しつつあったが、油田の操業は手掛けていない。油層にCO2を圧入するノウハウを求め、ベトナムで実験を成功させたJX日鉱日石開発に声をかけてきた。

共同事業の検討で合意した両社は米テキサス州のウェスト・ランチ油田に焦点を定め、2年かけて詳細な調査を実施した。国際協力銀行やみずほ銀行から融資を受ける合意も得て、総額10億ドル(1000億円)の大型プロジェクトを決定。9月5日に起工式を実施し、16年中に稼働を始める予定だ。

油田は一般的に、地下にある原油全体の2~3割程度しか取り出せないが、EORを使えば6割程度まで高められるといわれる。現在確認されている世界の原油の可採埋蔵量は約1.6兆バレルだが、EORでは1.3兆バレルの追加が可能という試算もある。新たな油田を開発しなくても、既存の油田を生かすだけで2倍近くになる計算だ。CO2-EORは世界の石油が枯渇する懸念を和らげる可能性を秘める。

CO2を大気に放出せずに地下にとじ込めるCO2-EORには環境問題への貢献も期待されている。今回のテキサス州の事業の場合、CO2排出量を年約160万トン減らせる見込み。これは25万世帯の年間CO2排出量に相当し、東京都と同じ面積の森林を作るのと同程度の効果が見込めるという。

ただ、三菱重工の飯嶋氏は「環境のためだけでなく、EORをやれば利益を出せるから取り組む」と言い切る。今回の事業では10年間にわたって原油を増産し、1000億円の事業費を回収して利益を出す計画だ。米国では石炭火力の環境対応をガス火力並みにする規制や、CO2回収に税制優遇をもうける法案などが検討中。全米に1000カ所以上ある石炭火力発電所にもビジネスを広げられる可能性がある。

さらに中近東や中国といった産油国も「原油生産量の減退を受け、EORへの関心を高めている」(JX日鉱日石開発の中田氏)だけに、世界展開を進めるためにも「第1号プロジェクトを成功させる意味は大きい」(同)。

新たな権益獲得に役立つ可能性も

もちろん課題はある。三菱重工は化学プラント向けでCO2回収量が1日200~500トンの商業プラントを稼働させてきた実績があるが、今回は約5000トンと規模が1ケタ大きい。実際の運転でCO2の回収や輸送にかかるコストを想定内に抑え、期待する原油の増産を実現できないと採算は厳しくなる。

さらに、CO2-EORは「原油価格が現在の水準(1バレル100ドル前後)であることが前提」(JX日鉱日石開発の中田氏)だ。下落すれば当然、その分だけ原油増産で得られる利益は目減りしていく。企業努力の範囲を超えるが、リスクを抱えているのも事実だ。

ほかにも増産のポテンシャルが高い油田を見極めて選べるか、CO2輸送のパイプラインの整備が進むかなど課題は多いが、軌道に乗れば両社のメリットは大きい。三菱重工にとっては発電所向けの設備の売り上げ拡大が見込める。JXは自社の油田の生産量を増やせることに加え、対産油国の関係では「EOR技術を持っていることが有利になる」(JX日鉱日石開発の中田氏)ため、新たな油田権益の獲得に役立つ可能性もある。

欧米メジャー(国際石油資本)は大型油田の開発に注力してきたため、既存油田の生産量を増やすという地道な作業であるEORへの取り組みは遅れているという。「CO2-EORは日本の技術が先行している。フロントランナーとして走り続けたい」(三菱重工の飯嶋氏)。こうした思いを実現し、世界で存在感を高めていけるかが注目だ。

(企業報道部 西岡貴司)

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