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「オヤジの街」にシャンゼリゼ通りは出現するか

ケンプラッツ
「虎ノ門ヒルズ」(東京都港区)が開業した2014年6月11日、ビルの足元の路上に2つのオープンカフェが誕生した。目指すのはフランス・パリのシャンゼリゼ通りだ。虎ノ門から新橋まで延びる環状2号線(新虎通り)沿道では街並み再生のルールが決定。「昭和のオフィス街」が大きく変わろうとしている。

地上52階建て、高さ247mの超高層ビル「虎ノ門ヒルズ」が開業したその日、ビルの足元でもちょっとした変化があった。虎ノ門から新橋までを結ぶ「新虎通り」にオープンカフェが2店舗誕生したのだ。

歩道上にパラソルを広げた両オープンカフェは、東京都が進める「東京シャンゼリゼプロジェクト」の第1号として設けられた。観光客のほか近隣のオフィス街や官庁街に勤める人々が気軽に立ち寄り、にぎわいを生んでいる。

[左]新虎通りの歩道上にパラソルを広げたオープンカフェ [右]もう1カ所のオープンカフェ。こちらは沿道に本社を構えるキーコーヒーが運営する(写真:いずれも介川亜紀)

新虎通りは、2014年3月に虎ノ門―新橋間で開通した延長約1.4kmの都市計画道路環状2号線のうち、地上部の道路に付けられた愛称だ。

虎ノ門から新橋に向かう環状2号線は、虎ノ門ヒルズの真下で自動車専用の「築地虎ノ門トンネル」と、トンネル上の地上部を通る新虎通りとに分かれる。自動車の多くが地下のトンネルを走るので、地上の新虎通りは車道を2車線だけ設ければ済む。その結果、新虎通りには車道の左右にそれぞれ幅13mもある広い歩道をつくることができた。

環状2号線の縦断図。図中の「III街区」に虎ノ門ヒルズが建つ(資料:東京都)
[左]虎ノ門側から見た虎ノ門ヒルズ。写真手前が環状2号線で、ビルの真下から自動車専用のトンネルに入る(写真:森ビル) [右]虎ノ門ヒルズから新橋方向に新虎通りを見る。道路の幅は約40m。地下に環状2号線の自動車専用トンネルが通るので、地上を走る車は少ない。広い歩道にオープンカフェや植栽を設けた。写真右はガラス張りのデザインを施したトンネルの換気塔(写真:ケンプラッツ)

虎ノ門や新橋は都心に古くからあるオフィス街で、周辺には中小のビルが密集している。東京都は虎ノ門ヒルズの開業や新虎通りの整備を契機に、シャンゼリゼ通りのようなにぎやかな街に生まれ変わらせる計画だ。

2カ所のオープンカフェはそれぞれ5台ほどのテーブルと椅子を並べた小規模なものだが、都市再生の起爆剤として大きな役割を担う。

[左]虎ノ門ヒルズのオフィスから新虎通りを見る。2014年6月に撮影(写真:ケンプラッツ) [右]環状2号線の着工前の様子。左の写真とほぼ同じ場所を撮影した。環状2号線の整備は1946年に都市計画決定されたものの、用地買収などの交渉が難航。事業は半世紀近く凍結状態となっていた(写真:森ビル)

占用手続きをワンストップで実現

もっとも公共の空間である路上にテーブルや椅子を並べる行為は通常、許されない。道路の地下に電気やガス、上下水道などの管路を埋めたり、道路の上空に看板や日よけがはみ出したりといった「道路の敷地以外に余地がない」場合に限って、道路を管理する国や自治体が占用許可を与えていた。

その後、2011年10月に都市再生特別措置法などが改正。広告塔や看板、食事施設、購買施設、休憩所、レンタサイクル施設など、街のにぎわいを生み出すために必要な施設に限って「道路の敷地以外に余地がない」という条件を緩和して、路上に設置できるようになった。

新虎通りの歩道は幅13mと広く、自転車のレーンも設けられている(写真:介川 亜紀)
新虎通りの横断図(資料:東京都港区)

東京都が2014年3月に創設した「東京シャンゼリゼプロジェクト」は、都が管理する道路を対象に、こうした道路占用の特例制度をさらに使いやすくしたものだ。

地元の町会や商店街振興組合などで構成するエリアマネジメント団体が都に申請したり、路上に設置する施設の管理を担ったりすることを条件に、道路占用許可の手続きをワンストップでできるようにした。従来は、自治体や警察などとの個別の手続きが必要で、申請から実施までに長い時間を要していた。

同プロジェクトは、「都内にパリのシャンゼリゼのような通りをつくりたい」と舛添要一都知事が表明したことで実現。2020年の東京五輪などに向けた都市再生政策の1つとなっている。

新虎通りの場合、沿道の地権者などが「新虎通りエリアマネジメント協議会」を設立して、道路占用の申請手続きやオープンカフェの管理を手掛ける。オープンカフェは現在2カ所だけだが、今後も同協議会が中心となって新たな店舗を増やしていく計画だ。

「しゃれ街条例」で乱開発を防ぐ

地元の港区などは、新虎通りを「次世代の東京を象徴するシンボルストリート」にする方針を打ち出している。しかし、歩道にオープンカフェを設けるだけでは、シャンゼリゼのような街並みを実現するのは難しい。

新虎通りは、敷地面積100m2(平方メートル)未満の中小ビルが多く集まる地域を貫通している。そのため、これまでビルの裏口だった部分が通りに面しているのが現状だ。さらに、沿道の建物の約6割が築30年以上となっており、耐震対策など防災性の向上も求められている。

今後、街づくりのルールがないまま個別に建て替えが進むと、統一感のない沿道の景観になってしまう恐れがあった。

新虎通りに面した戸建て住宅やビルの裏口(写真:介川 亜紀)
街づくりのルールがないまま沿道の開発が個別に進むと、統一感のない街並みになる(資料:東京都港区)

こうした課題に対処するため、港区が活用したのが「東京のしゃれた街並みづくり推進条例」だ。

同条例は、東京都が2003年10月に施行。容積率や接道条件などの規制緩和によって、細分化した敷地の統合や細街路の付け替えをしながら、共同建て替えなどで街づくりを進める。地区計画を定める前の段階で「街並み再生方針」をまとめ、合意形成が図られた地区から順に都市計画決定し、小規模でも段階的かつ柔軟に開発できるようにしたことが特徴だ。

新虎通りでは、沿道の約8.4ヘクタールを対象区域に指定。(1)にぎわいと統一感のある街並みの形成、(2)土地の有効利用の実現、(3)魅力と活力のある持続的な街づくりの推進――を目標に取り組むことになっている。

街づくりの誘導イメージ(資料:東京都港区)

貢献度に応じて容積率を割り増す

街並み再生方針ではまず、以下に示す7つの「必須項目」を定めた。地区内の全ての開発事業で必ず取り組まなければならない項目だ。

・新虎通り沿道の1階に物販店や飲食店などの「にぎわい施設」を導入する

・新虎通りに面して自動車の出入り口を制限する

・地区内ネットワーク道路沿いに歩道状空地を整備する

・道路境界線からの建物の壁面位置を制限する

・建物高さの最高限度を80mにする

・パチンコ店など一定の風俗営業を制限する

・最低敷地面積を250m2にする

[左]図中央の灰色で示した部分が新虎通り。その周辺に「地区内ネットワーク道路」を設けて、幅0.5m以上の歩道状空地を整備する。図の左端が虎ノ門ヒルズ、右が新橋方面(資料:東京都港区) [右]建物の壁面位置も制限する(資料:東京都港区)

次に、個別の開発事業ごとに取り組むかどうかを選べる6つの「選択項目」も定めた。

・優良な住宅(専用床面積が55m2/戸以上、省エネ対策等級が4程度など)、生活利便施設、業務支援施設(カンファレンスホールなど)を誘導する

・広場状空地(幅3~4m、面積100m2以上)を設置する

・300人以上の帰宅困難者の一時受け入れ場所を確保、耐震性能の向上、3日分の食料・物資と備蓄倉庫の確保、防災協定を締結するなど

・緑化を推進する

・環境負荷を低減する

・敷地の統合や街区を再編する

多くの選択項目に取り組むほど、街づくりに貢献したとして容積率の割り増しを受けられる仕組みだ。容積率の最高限度は、敷地の規模や接道条件によって750%から1000%の範囲で定めた。

沿道以外も官民連携で開発

新虎通りの周辺では、沿道以外でも多様な開発が始まっている。港区は2012年3月、地元の町会などと協議して「環状2号線周辺地区まちづくりガイドライン」を定めた。

同ガイドラインが対象とするのは、環状2号線(新虎通り)を中心とする約85ヘクタールだ。この範囲には新橋駅周辺の商業地域、愛宕山周辺の寺社や緑地、虎ノ門駅周辺のオフィス街などがあり、複数の特性を持つと同時に旧来の住宅が混在して市街地を形成している。ガイドラインでは「環状2号線沿道」、「虎ノ門」、「愛宕・慈恵医大周辺」、「新橋西」、「新橋南」、「新橋駅前」の6エリアに分け、それぞれ将来像や目標を示した。

ガイドラインの対象範囲は上のような6エリアに分けられる(資料:東京都港区)
[左]愛宕神社前交差点付近から西方向は豊かな緑が残る [右]JR新橋駅の周辺は古い中小ビルが密集し、昭和の趣を醸す(写真:いずれも介川 亜紀)
写真手前の空地が都立港工業高校の跡地。背後に虎ノ門ヒルズが見える(写真:介川 亜紀)

「愛宕・慈恵医大周辺」エリアでは、2004年に廃校となった都立港工業高校の跡地の約5400m2に学校法人慈恵大学が新病院を建てる計画だ。2013年に東京都が都有地の貸し付けによる医療インフラの整備・運営を行う事業者を公募し、決定した。同法人は都と50年間の定期借地権設定契約を締結し、土地を借り受けた。貸付料は年額約7500万円になる。

地下1階、地上5階建てで、高さ25.9m、延べ面積約1万750m2の「新病院」と、地上14階建てで、高さ66.6m、延べ面積約1万5900m2の「新大学2号館」を建設する。2015年度に着工して、2017年度の開業を目指す。

虎の門病院など3棟を一体で建て替え

飲食店が密集し、昭和の街並みが残る「新橋駅前」エリアは、環状2号線沿道の再開発事業とJR新橋駅の改良工事をきっかけに、若者の街へと生まれ変わっていきそうだ。

環状2号線の沿道では虎ノ門ヒルズ以外にも、複数の戸建て住宅などを集約し、地権者が居住する集合住宅を含む複合施設に建て替える市街地再開発事業が進んでいる。

新橋駅に近いI街区で、2011年3月に竣工した「新橋プラザビル」もその1つ。地下1階から地上3階の下層部は店舗、地上13階までの中層部は住宅、地上14~16階の上層部は事務所となっている。白とグレーを基調にした現代的な外観は、昭和の趣を醸す新橋駅付近の街並みとは対照的だ。

虎ノ門ヒルズに近いII街区でも、集合住宅と港区の福祉施設を併設した地下1階、地上21階建ての「グランスイート虎ノ門」が2007年に完成している。

[左]新橋プラザビルの外観。背後は新橋駅近くの飲食店などが密集した地域となっている(写真:介川亜紀) [右]グランスイート虎ノ門の外観(写真:東京都)

虎ノ門ヒルズの北西側にある約2万2500m2の敷地では、都市再生機構などが事業主体となり、虎の門病院と国立印刷局、共同通信会館を一体的に建て替える計画がある。環状2号線の整備に伴って、虎の門病院が敷地の一部を東京都に引き渡した結果、単独での建て替えが難しくなっていた。

まず、国立印刷局の建物を解体して、地下4階、地上19階建ての病院棟を建設。次に、現在の虎の門病院を解体して、地下3階、地上36階建ての業務棟などを建てる。最後に、共同通信会館を解体して、歩行者デッキなどを整備する。総延べ面積は約25万5200m2。病院棟は2018年度、業務棟は2022年度の完成を目指す。

都市再生機構が2014年1月に公表した位置図。計画地にある虎の門病院と国立印刷局、共同通信会館を一体的に建て替える(資料:都市再生機構の資料にケンプラッツが一部加筆)
[左]計画地の南側から見た整備イメージ。国際水準の医療サービスを提供する病院を整備するほか、病院と業務棟が連携して災害時の機能を高める [右]建物の配置図。アネックス棟は地上2階建て(資料:いずれも都市再生機構)

新橋駅は大屋根でイメージチェンジ

また、JR東日本は2010年から新橋駅の改良工事を進めており、駅舎を刷新する予定だ。各ホームにそれぞれあった老朽化した屋根を撤去して、全ホームを覆う大屋根を架ける。改修後の外観の印象は大きく変わる。

さらに、JR山手線と京浜東北線のレンガアーチ高架橋を耐震補強する。駅構内は混雑緩和のため、南北に分かれていたコンコースを一体化。各ホームや地上と地下のコンコースを結ぶエレベーターを設置するなど、バリアフリー工事も進める。

[左]駅前のSL広場から見たJR新橋駅の外観。全ホームを覆う大屋根の工事が進んでいる [右]駅周辺のレンガアーチ高架橋の耐震補強や改築も実施している(写真:いずれも介川 亜紀)
[左]JR新橋駅の外観の完成イメージ [右]南北のコンコースを一体化した改修後のイメージ(資料:いずれもJR東日本)
虎ノ門―新橋間の環状2号線を虎ノ門側の上空から見下ろす(写真:森ビル)

環状2号線は2020年の東京五輪で、選手村や競技会場が集中する臨海部と都心部とを結ぶ大動脈になる。1946年に都市計画決定されたものの、虎ノ門―新橋間は半世紀近くにわたって凍結状態となっていた。都心の商業地としての価値が高いうえ、地元にとどまることを希望する地権者が多く、用地買収や移転の交渉が難航したからだ。

転機が訪れたのは1989年。道路の上下に建物の建設を認める「立体道路制度」が創設された。同制度を利用して、これまで地上に計画していた環状2号線をトンネル化するよう1998年に都市計画変更を実施。道路の真上に虎ノ門ヒルズを建てて、地権者などを受け入れられるようにしたことで、合意形成が進んだ。

虎ノ門―新橋間の環状2号線や虎ノ門ヒルズが完成し、開発の焦点は今後、地上の新虎通り沿道の街づくりに移る。官民連携の都市再生で次世代の東京を象徴する「シンボルストリート」を築けるか。正念場はこれからだ。

(ライター 介川亜紀)

[ケンプラッツ2014年8月21日付記事を基に再構成]

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