軟らかアタマへの方程式 和紙でいったい何つくる?
東大の国際合宿に密着(後編)

2014/8/23 7:00
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 「スティーブ・ジョブズ」がいなくとも、スキルと手段を組み合わせ、適切なプロセスを踏んだグループは、高い創造力を発揮する――。東京大学が今夏、こんな考え方を掲げて「イノベーション」に向き合うサマープログラムを実施した。東大生だけでなく、海外からも大学生を選抜。東大生と海外からの大学生が取り組んだ「他流試合」で、どんな化学変化が起きたのか。ビデオカメラで現場を追った。今回は後編。

2週間にわたる「東大イノベーションサマープログラム(TISP)」が中盤にさしかかったある日。教室では段ボールや紙皿、和紙、そしてカッターナイフやはさみが配られた。仕掛け人は、欧州の難関芸術大学として知られる英ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA、ロンドン)の教授ら3人。TISPを主宰した東京大学大学院工学系研究科の堀井秀之教授が招いた。

■奇抜なアイデアに笑いや拍手

「条件は和紙を材料にすること。見たこともない全く新しい製品を考えて下さい」。RCAのマイルズ・ペニントン教授が参加者に呼びかけた。「まずは、とにかく極端に考えて!」。ゲーム感覚も取り入れ、授業はテンポよく進んでいく。各グループは意見を交わしながらアイデアを1つに絞り込み、絵に落とし込む。「海の汚染物質を取り除ける和紙製の球体」「和紙でできた電車の切符」「人が即座に移動できる和紙の滑り台」――。奇抜なアイデアのプレゼンテーションに笑いや拍手が起きた。

参加者は「投資したい」「エッジが利いている」などの観点で投票する。どのグループのアイデアに人気が集まったのか一目瞭然だ。こうした他者の声を参考にしながら、翌日は「実用性が伴うには」「ビジネスとして長い目で続けられるには」といった問いを重ねながら修正を加える。段ボールや紙コップを使って「試作品」を作っては壊し、手直しを重ねる。最後にはできあがったものを寸劇でアピール。

「授業は幼稚園の工作のように見えるでしょう」。ペニントン教授は笑った。だが「そこが狙い」と同教授。難しく考えすぎては創造的なアイデアには到達できない。「どうすれば誰もが見て『なるほど』と思う試作品に落とし込めるか学ぶのが重要」と強調した。

東大生らは東北の高校生と寝泊まりをともにし「地域発のイノベーション」について知恵を絞った

東大生らは東北の高校生と寝泊まりをともにし「地域発のイノベーション」について知恵を絞った

フィールドワークからものづくりの練習に至るまで、駒場キャンパス(東京・目黒)で繰り広げた一連の授業。これらはすべてプログラムの最終盤に予定されている「東北の高校生への出張授業」に向けた準備との位置づけだ。

■タフでグローバルな人材への道

TISPを貫く大きなテーマは「地方発のイノベーションをいかに起こすか」。プログラム後半は場所を東北に移した。東日本大震災から3年、人々がどのように事業を起こし、地元経済の立て直しに取り組んでいるか。それを確かめようと学生らは被災地の岩手県大槌町を訪問した後、同県遠野市の民家に寝泊まりした。

「遠野ならではの地域資源を生かし、イノベーションを作りだそう」。大学生らは東京で学んだ方法論を応用し、地元の高校生24人とともに知恵を絞った。ジンギスカン料理のセットを常備する家庭が多いことに着目した「伝統食のインスタント化」「廃校を活用し著名アーティストのライブ」といったアイデアが浮かんだ。

TISPを主宰した堀井教授は語る。「地域発イノベーションは重要な課題だが、部外者がふらっと来て解決策を出せるほど簡単なものではない」。それゆえ、未来の大人である高校生を巻き込むことに意義があるという。「大学生も学んだことを他人に伝えることで理解が深まり、『頭でっかち』ではダメだと分かってくれたと思う」

参加した東大生は、ホームグラウンドにいながらにして濃密な異文化交流を経験し手応えを感じたようだ。「つたない英語でも自分なりの考えを持っていれば、海外の人と深い議論ができると分かった」「自分は理系ではないが、未来を見て新しいものを生み出すという考え方がいろいろな領域で応用できそうだと実感した」などの感想が聞かれた。

「タフでグローバルな学生」の育成を掲げる東大。海外の大学と入学時期をそろえる秋入学への全面移行は当面見送ったが、世界共通の夏休みを使ってキャンパスを国際色豊かにする取り組みは、グローバル化への重要な一歩であるようにみえる。

(映像報道部 杉本晶子)

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